オイラーは,弾性曲線の研究で積分
f(x)=∫(0,x)x^2dx/(a^2−x^4)^1/2
によって与えられる弾性曲線の性質として,その原点から(x,y)までの弧長
s(x)=∫(0,x)a^2dx/(a^2−x^4)^1/2
について
f(a)s(a)=πa^2/4
であることを発見した.
今回のコラムでは,オイラーの積分
∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx・∫(0,1)x^2/(1-x^4)^(1/2)dx=π/4
を求めてみることにするが,この関係は第1種楕円積分s(x)と第2種楕円積分f(x)の周期の間に成り立つルジャンドルの関係式をレムニスケートの場合に特殊化したものにほかならない.
f(x)=1/(1-x^2)^(1/2)
のとき,
sin^(-1)z=∫(0,z)f(x)dx
であるから,
2∫(0,1)f(x)dx=3.141592・・・=π
∫(0,1)f(x)dx=π/2
となる.それでは,
f(x)=1/(1-x^4)^(1/2)
としたとき,
∫(0,1)f(x)dx=1.311028・・・=ω
は,どのようにすれば得られるのだろうか?
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【1】ガンマ関数・ベータ関数
Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)exp(-t)dt (t>0)
この無限積分をxの関数とみてガンマ関数Γ(x)といいます.
Γ(1)=∫(0,∞)exp(-t)dt=1
Γ(1/2)=∫(0,∞)t^(-1/2)exp(-t)dt
ここで,t=u^2とおくと∫(0,∞)exp(-u^2/2)du=√π/2(ガウス積分)より
Γ(1/2)=√π
が得られます.
オイラーの第2種積分とも呼ばれるガンマ関数Γ(x)には,
Γ(x+1)=xΓ(x)
の関係があり,次のような漸化式が成り立ちます.
Γ(x+1)=xΓ(x)=x(x-1)Γ(x-1)=・・・・
したがって,xが正の整数nのときにはΓ(n+1)=n!が成り立ち,ガンマ関数は階乗の一般形となっていることがわかります.階乗の解析的補間をしている関数がガンマ関数なのです.
ガンマ関数(オイラーの第2種積分)は,
Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)exp(-t)dt
ベータ関数(オイラーの第1種積分)は,
B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt
によって定義されます.ここで,積分変数をtからu=(1-t)/tによってuに変えると,
B(a,b)=∫(0,∞)u^(a-1)/(1+u)^(a+b)du (u:0-∞)
が得られます.また,ベータ関数とガンマ関数との間には,
B(a,b)=Γ(a)Γ(b)/Γ(a+b)
の関係がありますから,ベータ関数はガンマ関数の兄弟分にあたります.
Γ(1)=1,Γ(1/2)=√π
であることを知っていればたいてい間に合いますが,Γ(1/2)=√πを得るにはベータ関数が用いられます.この関数において,t=sin^2θとおくと
dt=2sinθcosθdθ
ですから
B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt=2∫(0,π/2)sin^(2a-1)θcos^(2b-1)θdθ
ここで,a=1/2,b=1/2とすると
B(1/2,1/2)=2∫(0,π/2)dθ=π
Γ^2(1/2)/Γ(1)=π
Γ(1)=1ですから,Γ(1/2)=√πとなります.
ベータ関数を一般化すると,
∫(a,b)(x-a)^m(b-x)^ndx=m!n!/(m+n+1)!(b-a)^(m+n+1)
が得られます.これらは受験参考書に必ず書いてある
∫(a,b)(x-a)(x-b)dx=-1/6(b-a)^3
∫(a,b)(x-a)(x-b)^2 dx=1/12(b-a)^4
という公式の一般化になっています.
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【2】オイラーの積分
ベータ関数において,a=m/n,b=1/2とおき,t=x^nと置換すると,
∫(0,1)x^(m-1)/(1-x^n)^(1/2)dx=Γ(m/n)√π/nΓ(m/n+1/2)
したがって,
(m,n)=(1,1)のとき,∫(0,1)1/(1-x^1)^(1/2)dx=2
(m,n)=(1,2)のとき,∫(0,1)1/(1-x^2)^(1/2)dx=π/2
(m,n)=(1,3)のとき,∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx=Γ^3(1/3)/2^(4/3)3^(1/2)π
(m,n)=(1,4)のとき,∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)
が得られます.
∫(0,1)1/(1-x^1)^(1/2)dx=2
∫(0,1)1/(1-x^2)^(1/2)dx=π/2
は初等的にも得ることができます.一方,
∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx=Γ^3(1/3)/2^(4/3)3^(1/2)π
∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)
は,特別な数と楕円積分を関係づけるものになっています.
これらを,Γ^q(1/q)の形で統一的に表示すれば,
Γ^2(1/2)=π=2∫(0,1)1/(1-x^2)^(1/2)dx
Γ^3(1/3)=2^(4/3)3^(1/2)π∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx
Γ^4(1/4)=2^5π(∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx)^2
なお,
∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx=Γ^3(1/3)/2^(4/3)3^(1/2)π
を得るには,ガンマ関数の乗法公式(倍数公式)
Γ(x/2)Γ((x+1)/2)=π^(1/2)Γ(x)/2^(x-1)
と相反公式(相補公式)
Γ(x)Γ(1-x)=π/sinπx
また,
∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)
を得るには乗法公式を用いています.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(m,n)=(1,4)のとき,∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ(1/4)√π/4Γ(3/4)
(m,n)=(3,4)のとき,∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ(3/4)√π/4Γ(5/4)
が得られます.
ここで,Γ(5/4)=Γ(1/4)/4ですから,
∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx・∫(0,1)x^2/(1-x^4)^(1/2)dx=π/4
が成立します.
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[補]∫(0,1)x^(m-1)/(1-x^n)^(1/2)dx=Γ(m/n)√π/nΓ(m/n+1/2)
∫(0,∞)x^(m-1)/(1+x^n)dx=π/nsin(mπ/n)
∫(0,1)x^(n-k-1)/(1-x^n)^((n-k)/n)dx=∫(0,∞)x^(n-k-1)/(1+x^n)dx
ここで,
(p,q)=∫(0,1)x^(p-1)(1-x^n)^((q-n)/n)dx
とおくと,
(p,q)=(q,p)
(n-k,k)=(k,n-k)=π/nsin(kπ/n)
((p+n),q)=p(p,q)/(p+q)
n=3のとき,(2,1)=(1,2)は
∫(0,1)x/(1-x^3)^(2/3)dx=∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/3)dx=2π/3√3
n=4のとき,(3,1)=(1,3)は
∫(0,1)x^2/(1-x^4)^(3/4)dx=∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/4)dx=π/2√2
(2,2)は
∫(0,1)x/(1-x^4)^(2/4)dx=∫(0,1)x/(1-x^4)^(1/2)dx=π/4
n=6のとき,(5,1)=(1,5)は
∫(0,1)x^4/(1-x^6)^(5/6)dx=∫(0,1)1/(1-x^6)^(1/6)dx=π/3
(4,2)=(2,4)は
∫(0,1)x^3/(1-x^6)^(4/6)dx=∫(0,1)x^3/(1-x^6)^(2/3)dx
=∫(0,1)x/(1-x^6)^(2/6)dx=∫(0,1)x/(1-x^6)^(1/3)dx=π/3√3
(3,3)は
∫(0,1)x^5/(1-x^6)^(5/6)dx=∫(0,1)x^5/(1-x^6)^(1/6)dx=π/6
n=17のとき,(16,1)=(1,16)は
∫(0,1)x^16/(1-x^17)^(16/17)dx=∫(0,1)1/(1-x^17)^(1/17)dx
=π/17sinπ/17
(p,q)=B(p/n,q/n)/n
であって,p+q=nの場合を考えると
(p,q)=π/nsin(pπ/n)
B(p/n,1-p/n)=π/nsin(pπ/n)
Γ(p/n)Γ(1-p/n)=π/nsin(pπ/n)
これはガンマ関数の相補公式
Γ(x)Γ(1-x)=π/sinπx
にほかならない.
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