■常温核融合とFCC核モデル

 FCCとはface-centered-cubic(面心立方格子)の略である.先日,杉岡幹生氏から「荒田吉明先生が5/22常温核融合の公開実験に成功されて以来,常温核融合は世界中で静かな話題を呼んでいる」ことをうかがった.

  http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page284.htm

 常温核融合(cold fusion)は量子論誕生に匹敵する科学の革命であることは間違いないが,さらに高橋亮人博士により「常温核融合はパラジウム結晶中での重水素の正四面体的な配置に関係する」という理論がだされているとのことである.

 杉岡氏の話から物理と数学の不思議な繋がりを想起した方も少なくないだろう.かくいう私もその一人で,ノーマン・クック氏の「FCC核モデル」のことを思い出した.

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【1】FCC核モデル

 ケプラーの球体充填問題を拡張する方向としては,ひとつには2種類の異なる性質をもつ球を配置する場合が考えられる.これは金属が融合してできた合金に新たに加わった性質を探る場合などに応用できる.とくに,球が電荷をもつ場合,たとえば,原子核内の核子(陽子と中性子)のようなモデルでは,体積を小さくしようとすれば,密度が高まり斥力が大きくなるから,その折り合いをどこでつけるかは興味深い問題である.

 原子核は相互作用する多数の核子の安定状態とみなすことができる.安定した構造の秘密はマジックナンバーにあると指摘されている.原子核内部の核子はぎゅうぎゅう詰めになっているわけではなく,電子の軌道運動ほどではないにせよ,近隣の核子が作り出す力を平均した力の場のなかをかなり自由に運動していると考えることができる.

 しかしながら,原子核は極めて小さく,不確定正原理が働く非日常的なスケールのため,個々の核子の振る舞いを直接確認することはできない.そのため,真実を部分的に捉えてはいるが互いに矛盾する核モデル

[1]殻モデル(独立粒子モデル,希ガス原子の閉電子殻型)

[2]液滴モデル(集団運動モデル:最近接粒子間のみの相互作用を考える)

[3]アルファ粒子モデル(クラスターモデル)

などが共存している.

 FCC核モデルは原子核構造に関する理論であるが,過去のモデルのもつ特徴を内包できる統一モデルとして,ノーマン・クック氏により提案されたものである.ノーマン・クック氏の初期の論文

  Cook.ND(1976): An FCC lattice model for nuclei, Atomkernernergie,28,195-199

の冒頭に掲げられたeditor's noteにも「原子核の安定性,マジックナンバー(魔法の核)を説明するための非正統的統一理論」とあるのもそのためであろう.

 最も一般的なウランの原子核は92個の陽子と146個の中性子をもっている.この原子核は不安定なので,ときどき2つの陽子と2つの中性子よりなるアルファ粒子を放出する.アルファ崩壊する原子核の存在から原子核内にアルファ粒子構造(4粒子の作る四面体を積み上げた構造で,ヘリウム原子核にほかならない)をもっていることは実験的にも知られていることである.

 FCC核モデルでは4粒子の作る四面体を中心にFCC構造を組み立てていくと,核子の対称性から希ガス型殻構造と完全に同型のものができるという点がFCC核モデルの最も著しい特徴となっている.

 それが統一理論たる所以であるが,さらにFCC核モデルでは4粒子の作る四面体を積み上げた核子の格子構造(三軸対称構造)をもっていることから,その3次元座標と量子数は数学的関係で結ばれていることになる.その結果,FCC核モデルによる原子核構造は量子数と対応づけられるものであって(マジックナンバーとではないことは)このモデルが量子力学の特質をよく捉えていることを示しているのである.

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【2】雑感

 FCC核モデルについて,私の理解するところでは正四面体の頂点に陽子と中性子が存在し,互いに回転(スピン)することにより磁力で引きつけあっている.それがアイソスピン(陽子・中性子の区別)であるが,私自身門外漢であり,よく理解していないところもあるだろう.

 そのため,これ以上の説明は差し控えるが,FCC核モデルの日本語訳は

  クック「自然のコード−自然のシステムの安定性と柔軟性を探る−」(HBJ出版局),雨宮・法橋・寺出・丸訳

に収録されていることを申し添えておきたい.

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[補]アリストテレスは,5つの正多面体のうち空間を完全に埋め尽くすのは立方体と正四面体だけであると主張したらしい.しかし,正四面体は単独では空間充填できない.それでは

(Q)ひとつの頂点を共有するようにして正四面体をいくつ並べることができるか?

(A)20個の正四面体は1点を共有できるが,その隙間は21番目の正四面体を押し込めるほど大きくはない.

(Q)ひとつの辺を共有するようにして正四面体をいくつ並べることができるか?

(A)正四面体の二面角はcosθ=1/3→70.5288°.したがって,5個の正四面体は1辺を共有するが,7°くらいの隙間が残ってしまう.

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