■楕円積分の加法定理(その14)

 楕円の弧長(第2種楕円積分)のn等分点を数値計算で求めることは可能であるが,数値解を求めることと解析解を求めることではまったく事情が異なる.これまで,解析解を求めることによって楕円の弧長のn等分点をコンパスと定規を使って作図できるかどうかという問題に取り組んできた.第1種楕円積分の加法公式でなく,第2種楕円積分に関する加法公式があれば楕円の弧長のn等分点の作図可能性の評価は可能であることがわかっている.

 しかし,うまい変数変換の方法がわからず,行きあたりばったりなのだが,第1種楕円積分のn等分点を利用して楕円の弧長(第2種楕円積分)のn等分点を求めようと模索してきた.結論を先にいうと,第1種楕円積分は第1種楕円積分に,第2種楕円積分は第2種楕円積分に帰着され,どうしても第2種楕円積分を第1種楕円積分に直すことはできないのである.

 楕円曲線(4次曲線)と楕円(2次曲線)の1対1対応に四苦八苦したあげく,2等分点すら作図できないことがわかった.このことは予想はされていたことなのだが,今回のコラムではその顛末を紹介したい.

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【1】楕円の弧の長さ

 楕円:x^2/a^2+y^2/b^2=1の弧の長さを求めておこう.

  y=±b(1−x^2/a^2)^1/2

より,

  ds=(1+(dy/dx)^2)^1/2=a((1−k^2z^2)/(1−z^2))^1/2dx

ここで,離心率:k=((a^2−b^2)/a^2)^1/2,z=x/a=sinφである.

 短軸上の点(0,b)から弧長を求めると,第2種不完全楕円積分

  s=a∫(0,sinφ)((1−k^2z^2)/(1−z^2))^1/2dx

   =aE(k,φ)

φ=π/2まで,すなわち,長軸上の点(a,0)までの積分は第2種完全楕円積分

  s=a∫(0,1)((1−k^2z^2)/(1−z^2))^1/2dx

   =aE(k)

であり,楕円の周の全長は4aE(k)と書けることがわかる.

 楕円のn等分点を求める問題は

   E(k,φ)=E(k)/n

なるz=sinφ,x=asinφを求める問題であるが,この数値解を求めても,楕円の弧長のn等分点の作図可能性の問題が解決されたことにはならないのである.

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【2】第1種楕円積分から第2種楕円積分へ

 楕円積分の名は楕円の弧の長さが楕円積分(第2種楕円積分)で表されるところから来ている.

 楕円の弧と1対1対応する楕円曲線

  y^2=F(x)=(1+px^2)(1+qx^2)=1+mx^2+nx^4

の加法公式は

  z={x(1+my^2+ny^4)^1/2+y(1+mx^2+nx^4)^1/2}/(1−nx^2y^2)

となる.倍角公式

  x→y=2x(1+mx^2+nx^4)^1/2/(1−nx^4)

  ds=dx/(1+mx^2+nx^4)^1/2

を2dsに変える.すなわち,

  dy/(1+my^2+ny^4)^1/2=2dx/(1+mx^2+nx^4)^1/2=2ds

 一般にk倍角公式では

  dy/{(1+py^2)(1+qy^2)}^(1/2)=k・dx/{(1+px^2)(1+qx^2)}^(1/2)=k・ds

となる.しかし,これは楕円曲線の倍角公式であって,楕円での倍角公式ではない.

 円錐曲線y^2=ax^2+bの場合,この曲線はa<0のとき楕円,a>0のとき双曲線であるが,ydy/dx=axであるからその線素dsは第2種微分

  ds=dx/((1+px^2)/(1+qx^2))^1/2

  p=a/b,q=(a+a^2)/b

で与えられる.

 第1種微分との関係がわかりやすいように

  ds=dx/((1+px^2)/(1+qx^2))^1/2

    =(1+qx^2)dx/((1+px^2)(1+qx^2))^1/2

と書くことにするが,楕円の弧長は

  s=∫(0,x)dx/((1+px^2)/(1+qx^2))^1/2

   =∫(0,x)(1+qx^2)dx/((1+px^2)(1+qx^2))^1/2

で得られる.

 ここで,楕円曲線の倍角公式

  x→y=2x(1+mx^2+nx^4)^1/2/(1−nx^4)

は,楕円曲線の線素

  ds=dx/((1+px^2)(1+qx^2))^1/2

を2dsに変える.すなわち,

  dy/((1+py^2)(1+qy^2))^1/2=2dx/((1+px^2)(1+qx^2))^1/2=2ds

である.

 楕円曲線の倍角公式により,

  (1+qy^2)dy/((1+py^2)(1+qy^2))^1/2

 =(1+qy^2)2dx/((1+px^2)(1+qx^2))^1/2

 =2(1+qy^2)ds/(1+qx^2)

であるから,楕円の線素dsは2(1+qy^2)ds/(1+qx^2)に変わることが理解される.

 また,倍角公式を適用した楕円の弧長は

  ∫(0,x)2(1+qy^2)dx/((1+px^2)(1+qx^2))^1/2

で得られるが,これともとの弧長s

  s=∫(0,x)(1+qx^2)dx/((1+px^2)(1+qx^2))^1/2

との関係については,これ以上進めそうにない.第1種楕円積分の加法公式でなく,第2種楕円積分に関する加法公式があれば可能であるのだが,・・・

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【3】第1種楕円積分から第2種楕円積分へ(その2)

 楕円の弧長を求める問題を考える場合,k[0,1]をパラメータとする不完全積分

  f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)

  f(x)={(1-k^2x^2)/(1-x^2)}^(1/2)

  F(z)=∫(0,z)f(x)dx

が絡んでくる.

 ところで,第1種楕円積分からヤコビの楕円関数が導かれる.第2種楕円積分

  E(k,φ)=∫(0,sinφ)((1−k^2z^2)/(1−z^2))^1/2dx

 =∫(0,φ)(1−k^2sin^2φ)^1/2dφ

はヤコビの楕円関数の積分として表すことができる.

  sinφ=snu

とおくと

  cosφ=cnu

  cosφdφ=cnudnudu

  (1−k^2sin^2φ)^1/2=(1−k^2sn^2u)^1/2=dnu

したがって,

  E(k,φ)=∫(0,u)dn^2udu

楕円の弧長は

  s=aE(k,φ)=a∫(0,u)dn^2udu

第1種楕円積分はsn^-1xであったが,このように第2種楕円積分はdn^2uの積分で与えられるのである.

 楕円:x^2/a^2+y^2/b^2=1をx=asinφ,y=bcosφでパラメトライズしてもよいが,

  x=asn(u,k)=asn(u),y=bcn(u,k)=bcn(u)

と置くこともできる.

  dx=acnudnudu,dy=−bsnudnudu

  ds=((dx)^2+(dy)^2)^1/2=adn^2udu

したがって,楕円の弧長は

  s=a∫(0,u)dn^2udu

これはすでに求めたところと同じである.

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