■楕円積分の加法定理(その12)

 しばらくの間,このシリーズを中断していたので,まずはおさらいから始めたい.(その11)の最後にでてきた2次方程式

  z=α((1+pz^2)/(1+qz^2))^1/2

を解くと,

  z=2√(2/3)=1.63299

が得られることはすぐにでも確かめられることである.

 この値は2等分点に対応はしているが,2等分点そのものではない.今回のコラムでは(k等分点そのものではないがとりあえず)k等分点に対応する値を求めることにする.

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【1】レムニスケートの場合

 ガウスの円周等分理論「コンパスと定規でn等分できるのは,2^2^qi+1の形をした相異なる素数piにより2^mΠpiと書かれる場合である」は円関数ばかりでなく他の超越関数,たとえば,

  u=∫(0,x)f(t)=1/(1-t^4)^(1/2)dt

にも応用できる.

 レムニスケートサインはレムニスケートr^2=cos2θ(あるいはr^2=sin2θ)の弧長を表す積分の逆関数

  ∫(0,x)1/(1-t^4)^(1/2)dt

として定義される.

  ω/2=∫(0,1)1/(1-t^4)^(1/2)dt

はレムニスケート全体の長さの1/4である.

 ファニャーノはレムニスケートの和公式

  z={x(1−y^4)^1/2+y(1−x^4)^1/2}/(1+x^2y^2)

を得て,レムニスケートを2,3,5等分する点の座標を求める代数的な計算公式を見いだしていた.

 よほど筆算が好きな計算マニアであっても,この計算は筆算ではもはや不可能である.生産的であるためには,MathematicaやMapleといった数式処理ソフトの利用をお勧めしたい.(その7)では,畏友・阪本ひろむ氏にお願いしてMathematicaで展開してもらったのだが,2,3等分点は求められたもののどうしても5等分点は得られなかった.

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【2】楕円の場合

 レムニスケートの場合,その弧と1対1対応する楕円曲線t^2=1−z^4,(x,y)→(t,z)の加法公式を用いたが,楕円y^2=ax^2+bの場合,その弧と1対1対応する楕円曲線

  y^2=F(x)=(1+px^2)(1+qx^2)=1+mx^2+nx^4

の加法公式は

  z={x(1+my^2+ny^4)^1/2+y(1+mx^2+nx^4)^1/2}/(1−nx^2y^2)

となる.

 レムニスケートサインに倣って,楕円サイン関数をx=se[u],y=se[v],z=se[u+v]とおく.k倍角公式でz=αとおいてxを求めるとその点がk等分点に対応する.

 たとえば,楕円x^2/4+y^2=1の場合,

  a=−1/4,b=1,p=a/b=−1/4,

  q=(a+a^2)/b=−3/16,m=p+q=−7/16,

  n=pq=3/64,α=√(−b/a)=2

ついて具体的に計算してみた.計算は阪本ひろむ氏による.

[1]k=2

 Mathematicaでは,2等分点

  se(u/2)=2√(2/3)^1/2=1.63299

は簡単に求まりました.平方根だけを含む式なので幾何学的に作図できることがわかります.

[2]k=3

 3等分点

  se(u/3)=1-(1+(2・2^1/3)/3^2/3)^1/2+(2/3(3ー6^1/3+5/(1+(2・2^1/3)/3^2/3)^1/2)^1/2=1.25364

 このように3次方程式に帰着する作図問題は+−×÷√の演算を組み合わせても解けないから,楕円を定規とコンパスだけで3等分することはできないことがわかります.

[3]k=4

 4等分でなく,2等分を2回繰り返す方法

  se(2u)=2se(u)(1-7/16se^2(u)+3/64se^4(u))^1/2/(1-3/64se^4(u))=(-1+√2)^1/2

を用いると,作図可能な値

  se(u/4)=2(1/3(6-3√2-√(6-3√2))^1/2=0.995153

が得られました.

[4]k=5

 メモリ不足のため,どうしても5等分点は得られませんでした.

[5]k=6

 6等分でなく,3等分したものを2等分する方法

  se(2u)=1-(1+(2・2^1/3)/3^2/3)^1/2+(2/3(3ー6^1/3+5/(1+(2・2^1/3)/3^2/3)^1/2)^1/2=1.25364

ではMathematicaで計算できて

  se(u/6)=0.692907

ただし,作図は不可能です.

[6]k=8

 8等分でなく,4等分したものを2等分する方法

  se(2u)=2(1/3(6-3√2-√(6-3√2))^1/2=0.995153

を用いれば作図可能な8等分解が得られます.解析解は長くなるので省略しますが,

  se(u/8)=0.527982

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【3】雑感

 楕円の2等分点を求めるためには変数変換式

  x^2=f(z),y^2=g(z)

が必要になるものと思われるが,楕円を定規とコンパスだけで3等分することはできないことがわかっただけでも収穫としたい.

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