「奇数ゼータと杉岡の公式」は杉岡幹生氏の結果を取り上げたシリーズである.オイラーのゼータ関数の計算の仕方をオイラーシステムと呼ぶことにすると,杉岡氏の計算方法はいろいろな無限級数を用いるもので,氏はそれをテイラーシステムと名付けている.
最近の杉岡氏はフーリエ係数を求める計算(フーリエシステム)をしているが,今回のコラムではこれまでのシリーズの流れを振り返ってみて,杉岡氏の計算がフーリエ展開に回帰していく様子を示すことにしたい.
[参]http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page166.htm
http://jp.arxiv.org/abs/0805.0030v
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【1】オイラーシステム(フーリエ展開)
オイラーは,1744年,史上初めて代数関数
π/2-x/2=Σsin(nx)/n
を三角関数で表しています.この式は,実は1次のベルヌーイ多項式のフーリエ展開と本質的に等しいものになっています.
ベルヌーイ多項式のフーリエ展開は
Bn(x)=-2n!/(2π)^nΣcos(2πkx-πn/2)/k^n
で表されるのですが,
Σsin(2nx)/n=π/2-x
Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2-π^2/12
Σsin(2nx)/n^3=1/12{π^3-2π^2x+(2x-π)^3}
Σcos(2nx)/n^4=1/48{2π^2(2x-π)^2-(2x-π)^4-7π^4/15}
Σsin(2nx)/n^5=x/90{π^4-10π^2x^2+15πx^3-6x^4}
が,それぞれ1〜5次のベルヌーイ多項式になっていることがおわかり頂けるでしょうか.
なお,オイラーは同年,ベルヌーイ数に対し,オイラー数も
secx=Σ(-1)^nE2n/(2n)!x^2n
によって導入しています.オイラー多項式のフーリエ展開は
En(x)=4n!/π^(n+1)Σsin((2k+1)πx-πn/2)/(2k+1)^n+1
で表されます.0〜3次のオイラー多項式のフーリエ展開は
Σsin((2n-1)x)/(2n-1)=π/4(0次式)
Σcos((2n-1)x)/(2n-1)^2=π(π-2x)/8(1次式)
Σsin((2n-1)x)/(2n-1)^3=πx(π-x)/8(2次式)
Σcos((2n-1)x)/(2n-1)^4=π/96(π^2-6πx^2+4x^3)(3次式)
となります.
ベルヌーイ多項式の代わりにオイラー多項式を用いても,やはり奇数ゼータに対しては依然無力で,奇数ゼータに対して有力な式は,いまのところ
Σcos(2nx)/n=-log(sinx)-log2
しかありません.
オイラーは
log(sinx)=-Σcos(2nx)/n-log2
であることをつきとめ,これを代入して計算すれば
1/1^3+1/3^3+1/5^3+・・・=π^2/4log2+2∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
ζ(3)=2π^2/7log2+16/7∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
が得られます(1772年).
この式に対して,
ベルヌーイ多項式 ←→ オイラー多項式
のような対応式を掲げておくと,
Σcos(2nx)/n=-log(sinx)-log2 ←→ Σcos((2n-1)x)/(2n-1)=1/2*log(cot(x/2))
となります.
これらの結果から得られることを整理しておきます.
(1)奇数ゼータと偶数Lは偶数ゼータの無限和として表される
(2)奇数L,偶数L1,奇数L2は偶数ゼータの有限和で表される
(3)正の奇数ゼータのみならず,負の奇数ゼータも偶数ゼータの無限和として表現できる,等々.
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【2】テイラー展開
Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2-π^2/12
log(sinx)=-Σcos(2nx)/n-log2
はいずれもフーリエ展開型の公式であるが,テイラー展開型の公式を使ってみたらどうなるのだろうか?
テイラー展開型の公式としては
log(sinπx/πx)=-2Σζ(2n)/2n・x^(2n)
があげられる.この公式はζ(2n)/2nの母関数と考えられるわけであるから,重回微分することによって正の偶数ゼータの値が求められる.また,重回積分することによって正の奇数ゼータが偶数ゼータの無限和の形で得られる.
しかし,ζ(2n)の母関数としては,
log(sinπx/πx)=-2Σζ(2n)/2n・x^(2n)
よりも,テイラー展開型公式
πx/tanπx=-2Σζ(2n)・x^(2n)
=-2{ζ(0)・x^0+ζ(2)・x^2+ζ(4)・x^4+ζ(6)・x^6+・・・}
を用いる方がふさわしいし,より美しくもある.
なお,フーリエ展開(実は2次のベルヌーイ多項式!)
Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2-π^2/12
の場合,重回積分することによって正の偶数ゼータが,重回微分することによって負の偶数ゼータが明示的に求められたことと対比してみると,
πx/tanπx=-2Σζ(2n)・x^(2n)
の場合には,微分積分の関係がまったく逆になっている.展開の違いで逆になるというのだから,これもまた面白い結果である.
さらに,杉岡氏は同様の図式が奇数Lにおいても成り立つことを示している.奇数Lに対するテイラー展開型公式
(πx/2)/cos(πx/2)=2ΣL(2n+1)・x^(2n+1)
=2{L(1)・x^1+L(3)・x^3+L(5)・x^5+L(7)・x^7+・・・}
がL(2n+1)の母関数であり,重回微分によって正の奇数Lの値が求められるし,L(1-2n)=0に対して同じ論法を用いればよいから,このことはほとんど自明であろう.
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【3】ゼータの無限和
偶数ゼータの無限和に関しては
Σζ(2k)/4^(k-1)=2
などが知られている.ここで,
Sk=ζ(k)−1
とおいて,S関数の特殊値についてまとめておきたい.
ΣSk/2^k=-1/2+log2
Σ(-1)^kSk/2^k=5/6-log2
ΣSk/3^k=1/18(-3-√3π+9log3)
Σ(-1)^kSk/3^k=1/36(33-2√3π-18log3)
ΣSk/4^k=1/24(-2-3π+16log2)
Σ(-1)^kSk/4^k=1/40(38-5π-20log2)
ΣSk/5^k=1/20(5-√5)^1/2
Σ(-1)^kSk/5^k=1/60(5-√5)^1/2
ΣSk/6^k=1/60(-2-5√3π+15log3+20log2)
Σ(-1)^kSk/6^k=1/84(82-7√3π-21log3-28log2)
ΣSk/a^k=1/a(1-γ-φ(2-1/a))
ΣSk=1
Σ(-1)^kSk=1/2
ΣSk/k=1-γ
Σ(-1)^kSk/k=-1+γ+log2
Σ(-1)^kζ(k)/k=γ
ΣSk/(k+1)=1/2(3-γ-log2π)
Σ(-1)^kSk/(k+1)=1/2(3+γ-log8π)
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ΣS2k/2^k=-1/4cosecπ/√2(√2πcosπ/√2+2sinπ/√2)
Σ(-1)^k-1S2k/2^k=1/6cosechπ/√2(3π/√2coshπ/√2-5sinhπ/√2)
ΣS2k/3^k=-√3π/6cotπ/√3
Σ(-1)^k-1S2k/3^k=1/8cosechπ/√3(4π/√3coshπ/√3-6sinhπ/√3)
ΣS2k/4^k=1/6
Σ(-1)^k-1S2k/4^k=1/10cosechπ/2(5π/2coshπ/2-7sinhπ/2)
ΣS2k/a^k=cosechπ/√a(-π/2√acoshπ/√a-(a-3)/2(a-1)sinhπ/√a)
ΣS2k=3/4
Σ(-1)^kS2k=1/2cosechπ(πcoshπ-2sinhπ)
ΣS2k/k=log2
Σ(-1)^kS2k/k=log(sinhπ/2π)
ΣS2k/(k+1)=1/2(3-2logπ)
ΣS2k/(k+2)=7/4-logπ-3ζ(3)/π^2
ΣS2k/(2k+1)=1/2(3-log4π)
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ΣS2k+1/4^k=-4/3+2log2
Σ(-1)^k-1S2k+1/4^k=-1+γ+1/2(φ(2-i/2)+φ(2+i/2))
ΣS2k+1/9^k=-13/8+3/2log2
Σ(-1)^k-1S2k+1/9^k=-1+γ+1/2(φ(2-i/3)+φ(2+i/3))
ΣS2k+1/16^k=-31/15+3log2
Σ(-1)^k-1S2k+1/16^k=-1+γ+1/2(φ(2-i/4)+φ(2+i/4))
ΣS2k+1/16^k=1-γ-1/2(φ(2-i/√a)+φ(2+i/√a))
ΣS2k+1=1/4
Σ(-1)^k-1S2k+1=-1+γ+1/2(φ(2-i)+φ(2-i))
ΣS2k/(k+1)=1/2(3-2logπ)
ΣS2k+1/(k+1)=-γ+log2
ΣS2k+1/(2k+1)=1/2(2-2γ-log2)
Σ(-1)^k-1S2k+1/(2k+1)=-1+γ+i/2(logΓ(2-i)-logΓ(2-i))
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【4】杉岡氏の計算(テイラーシステム)
オイラーシステムでは
Σcos(2nx)/n
が本質的な役割をしているのですが,杉岡氏のテイラーシステムでは
f(x)=Σcos(2nx)/n^s (n=1~)
とします.
f(π)=ζ(s)
f(π/2)=-{1-2^(1ーs)}ζ(s)
f(π/4)=-2^(-s){1-2^(1ーs)}ζ(s)
はその特殊値です.
次にcosをテイラー展開します.とりあえず0の周りで展開してみますが,
cos(x)=Σ(-1)^k・x^2k/(2k)! (k=0~)
cos(2nx)=Σ(-1)^k・(2nx)^2k/(2k)!
f(x)=ΣΣ(-1)^k・(2nx)^2k/(2k)!/n^s
ここで,2重級数の順番:Σ(n=1)とΣ(k=0)を交換すると
f(x)=ΣΣ(-1)^k・(2nx)^2k/(2k)!/n^s
=ζ(s)-ζ(s-2)/2!・(2x)^2+ζ(s-4)/4!・(4x)^4-ζ(s-6)/6!・(6x)^6+・・・
x=πを代入すると,f(π)=ζ(s)より
ζ(s-2)/2!・(2π)^2=ζ(s-4)/4!・(4π)^4-ζ(s-6)/6!・(6π)^6+・・・
ζ(s)=ζ(s-2)・2!/4!・(4π)^4/(2π)^2-ζ(s-4)・2!/6!・(6π)^6/(2π)^2+・・・
ζ(s)=Σ2!/(2(i+1)!)・(2(i+1)π)^(2(i+1))/(2π)^2ζ(s-2i) (i=1~)
=Σwiζ(s-2i) (i=1~)
ここで,右辺のゼータ関数は降順になっていますが,関数等式
ζ(s)=π^(s-1/2)Γ((1-s)/2)/Γ(s/2)ζ(1-s)
を用いれば
ζ(s-2i)=π^(s-2i-1/2)Γ((1-s+2i)/2)/Γ(s/2+i)ζ(1-s+2i)
より昇順にすることができます.
すなわち
ζ(s)=Σwiζ(1-s+2i) (i=1~)
より,奇数ゼータは偶数ゼータの無限和として表されることがわかりますが,半整数ゼータは半整数ゼータの無限和,非整数ゼータは非整数ゼータの無限和として表されることも理解されます.
また,
g(x)=Σsin(2nx)/n^s (n=1~)
とおくと
g(π/4)=L(s)
ですから,L関数に関する類似の結果(偶数Lは偶数ゼータの無限和として表される)が得られます.
これらの結果から得られることを整理しておきます.
(4)奇数ゼータは奇数ゼータの有理数係数の無限和として表される
(5)偶数ゼータは偶数ゼータの有理数係数の無限和として表される
このようにして,杉岡幹生氏のホームページには類似の公式が多数掲げられています.また,確認したわけではありませんが,杉岡氏によるとこれらの式は収束速度の点でも計算効率がよいそうです.
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【5】杉岡氏の計算(フーリエシステム)
最近,杉岡氏は
f(x)=Σcos(2nx)/n^s (n=1~)
g(x)=Σsin(2nx)/n^s (n=1~)
において,s=2,3,・・・としてフーリエ係数を求める計算をしています.
詳細は杉岡氏のHP
http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page166.htm
を参照して頂きたいのですが,計算の流れだけを紹介すると,
s=2→ζ(2)=1/π∫(-π~π)(π/2-x/2)^2=π^2/6
s=3→ζ(3)=π^2/3log2+4∫(0,π/2)(x-x^2/π)log(sinx)dx
となります.
この式はオイラーの計算
ζ(3)=2π^2/7log2+16/7∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
と相同な式ではありますが,異なった積分表示になっていることがわかります.杉岡氏の計算は再びフーリエ展開に回帰したのですが,フーリエシステムではこのような異なる積分表示がいくつも見いだせていて,今後どのようなことが飛び出すのか期待大です.
テイラーシステムは微分,フーリエシステムは積分方向の計算なのですが,さらに先に進むためには
∫(0,π/2)xlog(sinx)dx=-π^2/8log2+7/16ζ(3)
∫(0,π/2)x^3log(sinx)dx=-π^4/64log2+9π^2/64ζ(3)-93π^4/128ζ(5)
一般のsについては,荷重をwiとしてまとめると
∫(0,π/2)x^(2s-1)log(sinx)dx=w0・π^2slog2+Σwi・ζ(2i+1)
のような形の積分が必要になります.
この積分はオイラー積分の拡張になっているのですが,たとえば,
[参]http://jp.arxiv.org/abs/0805.0030v
を参照して下さい.当該論文には
∫(0,π/2)x^(2s-1)log(sinx)dx=w0・π^2s(logπ-log2)+Σwi・ζ(2i)
も紹介されているのですが,これにより
ζ(2s+1)=Σwiζ(2s) (i=1~)
すなわち,奇数ゼータは偶数ゼータの無限和として表されることも示されます.
ζ(3)=2π^2/7{logπ-1/2-Σζ(2k)/k(k+1)2^2k}
ζ(5)=6π^2/31{ζ(3)-π^2/9(logπ-1/4-2Σζ(2k)/k(k+1)2^2k)}
=4π^4/651{11/2logπ-29/8-Σ(2k+11)ζ(2k)/k(k+1)(k+2)2^2k)}
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