正多角形は無限に多く存在しますが,それでは
[Q]互いに合同な正多角形を隙間も重なりもないように並べて平面を完全に埋める仕方が何通りあるでしょうか?
[A]この問題は昔から知られていて,それが3種類に限ることは以下のようにして証明されます.正多角形の中で平面をタイル貼りのように隙間なく埋めつくすことができる平面充填形では,各頂点に正p角形がq面が会するとすると,正p角形の一つの内角は2(1−2/p)×90°であり,一つの頂点の回りの内角の和はこれがq個集まって四直角ですから,
2q(1−2/p)=4,すなわち,
1/p+1/q=1/2 (p,q≧3)
で,この条件を満たす(p,q)の組は(3,6),(4,4),(6,3)の3通りしかありません.したがって,平面充填形は正三角形,正方形,正六角形の3つだけです.このうち正方形のは碁盤,正六角形のは蜂の巣などでおなじみでしょう.
次に,正多角形でない多角形による平面充填形について考えてみましょう.ただし,非凸な多角形による平面のタイル貼り問題は難しいので,ここでは正多角形ではない不規則な凸多角形に限ってみます.三角形と四角形の場合は凸でなくてもよいのですが,どんな形の三角形,四角形でも平面を過不足なく敷きつめることができます.凸六角形では本質的に異なる3つのタイプの六角形だけが平面を埋めつくします.また,凸な多角形では七角以上になるとどんな型のものもうまくいきません.
したがって,五角形は特に興味津々ですが,今回のコラムではこれらのなかからいくつか選んで紹介します.
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【1】三角形のタイル貼り
どんな形の三角形でも平面を敷きつめることができますが,基本的な三角形のタイル貼りというと正三角形,直角二等辺三角形,(30°,60°,90°)の三角形の3種類があげられます.
これらは1つの頂点で偶数個の3角形が交わるタイル貼りですが,1つの頂点に会する三角形は偶数に限らないものとすると(30°,30°,120°)の三角形が加わります.
30°,30°,120°の角をもつ三角形は,正三角形格子(3,6)の各面を3個の合同な三角形に分解することによってできるモザイク模様です.「麻の葉」文様と呼ばれるくり返し文様なのですが,日本では古くから装飾工芸品や寄木細工のデザインなどとして用いられていますから,ご存じの方も多いと思います.
ニュートン数を,一般の図形Sに接することができるSと合同な図形の最大数と定義して,ニュートン数を求めてみると,
平面図形 ニュートン数
正三角形 12
直角二等辺三角形 14
直角三角形(30°,60°,90°) 16
二等辺三角形(30°,30°,120°) 21
正方形 8
正n角形(≧5) 6
ルーローの三角形 7
定幅図形 ≦7
平面充填可能な凸板 ≦21
平面充填可能な凸板のニュートン数は高々21となることが示されていますから,30°,30°,120°の角をもつ三角形による敷き詰め「麻の葉」は最大値に達していることがわかります.
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【2】四角形のタイル貼り
正三角形,(30°,60°,90°),(30°,30°,120°)の三角形の3種類のタイルは正三角形,正六角形を,直角二等辺三角形のタイルは正方形を作ることができます.正三角形を2個併せた菱形でも平面充填形は得られますが,対称な図形では面白味に欠けます.
正三角形に直角二等辺三角形の斜辺を接合した図形も対称ですが,正三角形に直角二等辺三角形の斜辺でない辺を接合した図形は非対称です.どんな形の四角形でも平面を敷きつめることができるわけですが,正三角形に直角二等辺三角形の斜辺でない辺を接合した非対称図形は,同じ形のタイルを使って正12角形の対称性を保持したままどこまでも平面を埋め尽くすことができます.
正12角形は何種類かの菱形に分割できますが,この形はわざわざ非対称図形にしている点で意外性があります.
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【3】五角形のタイル貼り
正五角形はどうしても隙間があいてしまいますが,ちょっと歪んだ五角形でもよいならアラビア風五角形(カイロのタイル貼り)が平面を埋め尽くします.この五角形の内角は(120°,90°,120°,120°,90°)で,底辺以外の4辺の長さは等しく(a),底辺の長さは(√3−1)aとなります.この五角形4枚で細長い六角形,3枚で切頂正三角形を作ることができます.
凸五角形では,ホームベース形も含めて,現在,14種の平面充填形が知られています.六角形に関しては3種類以外のものは存在しないことが示されていますが,五角形に関しては14種ですべてかどうかはまだ証明されていません.
このような問題はとかくとり漏らしやすいもので,見逃されているものがあるやもしれません.1975年にはほとんど数学を学んだことのない主婦が「サイエンティフィック・アメリカン」誌の記事に触発されて,五角形で平面を敷き詰めるパターンでそれまで知られていないものを3種類も発見したほどですから・・・.
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五角形のタイル貼りについては数学者のラインハルトや物理学者のケルシュナーが研究していたのですが,1975年にはほとんど数学を学んだことのない主婦ライスが「サイエンティフィック・アメリカン」誌の記事に触発されて,五角形で平面を敷き詰めるパターンでそれまで知られていないものを3種類も発見しました.
彼女は5人の子供の母親で,台所仕事をしながら数学の教授達があり得ないといった新しい五角形タイルを発見したのですが,彼女は高校より上の教育は受けていませんでした.新たに何か学んで新しい発見をするのに何歳になっても遅すぎることはないという教訓です.
非常に単純だが,深淵な数学的発見が今日なお可能である一つの例として有名な話ですが,まだ新しいタイプが発見される可能性は残されています.興味と熱意と根気のある読者は是非挑戦してみてください.
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【4】六角形のタイル貼り
平行六辺形(あるいはそれを2等分した五角形)は平面充填形ですが,空間充填立体でかつその展開図が平面充填図形となっているものをダブル充填図形と呼びます.
空間充填三角錐でかつその展開図が平面充填図形(頂点数v)となっている立体としては,
[1]v=3:工藤の三角錐(二等辺三角形)
[2]v=4:工藤の三角錐(平行四辺形)
[3]v=5:中村の三角錐(平行六辺形を2等分した五角形)
[4]v=6:鼈臑(平行六辺形),パウル・シャッツ立体(平行六辺形)
があげられます.
工藤の三角錐は辺の長さの比が2:√3:√3の二等辺三角形4枚よりなる空間充填三角錐,鼈臑は立方体を6分割した三角錐,パウル・シャッツ立体は鼈臑を√3倍細長くした三角錐です.パウル・シャッツ立体を6個組み合わせたパウル・シャッツ環は連続回転可能な多面体の輪になっています.
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