(その1)で書き足りなかった問題を補足して(その2)としたが,その記述には間違いもあり,さらに書ききれなかったことを書き加えて補完したいと思う.今回のコラムは「補の補」である.
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【1】n次元多面体の構成要素数
fkをn次元多面体のk次元面の数とし,
(f0,f1,・・・,fn-2,fn-1)
を構成要素とするn次元正多胞体では,組み合わせ的方法によって,k次元胞数fkが求められます.たとえば,正単体では
fk=(n+1,k+1)
なのですが,k=n−1のときfk=n+1であって,胞数はn+1と計算されます.
同様に,双対立方体では
fk=2^k+1(n,k+1),k=n−1のとき,fk=2^n
立方体では
fk=2^n-k(n,k),k=n−1のとき,fk=2n
となります.
もちろん,
正単体:fk=(n+1,k+1)
双対立方体:fk=2^k+1(n,k+1)
立方体:fk=2^n-k(n,k)
はオイラー・ポアンカレの定理:
f0−f1+f2−・・・+(−1)^(n-1)fn-1=1−(−1)^n
すなわち,nが奇数なら2,偶数なら0を満たします.この定理は正多胞体に限らず,n次元凸多胞体について常に成立します.
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【2】直方体ブロックモデル
直方体は単独で空間全体を格子状に埋めつくすことができる.そこで,直方体レンガのブロック積みを考えることにする.3つのレンガが1点で出会うように平面を敷き詰めると,すべてのレンガは6つのレンガに接することがわかる.2段目も1段目と同じように敷き詰めるが,すべての頂点で4つのレンガが出会うように1段目のレンガのすべての頂点を2段目のレンガで覆うようにずらして積み重ねると,1段目のレンガの上には4つのレンガが載ることになる.
3段目も同様に行うと同じ段に6,上の段に4,下の段にも4で合計14のレンガに接することになる.このことからレンガは元々14面体であって,それが普通のレンガの形に圧縮されたものと考えることができる.
2次元空間充填の基本形は6角形,3次元空間充填多面体の基本形は14面体となるのだが,それでは4次元,5次元,・・・,n次元での空間充填多面体の基本形はどうなるのだろう? しかし,ここに落とし穴がある.n次元では2次元,3次元同様のレンガのブロック積みを考えてもうまくいかないのである.
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【3】ヒントンの単体ブロックモデル
n次元空間充填ではどの頂点でも最低n+1個の多面体が出会わなければならない(ルベーグの舗石定理).すべての頂点でn+1個の多面体が出会う場合,n次元ボロノイ細胞の1個の頂点の周りにn個のn−1次元面が集まることがわかる.すなわち,単体的多面体である.
このことからn次元空間充填ではn次元立方体ではなく,n次元正単体をイメージしたほうがわかりやすくなる.3次元空間でいえば,立方体を直接切頂して切頂八面体を作るのではなく,正四面体を切稜・切頂した図形として切頂八面体を作る操作となる.実際,切頂八面体は,正方形面を上にして置くと立方体(あるいは正八面体)を切頂した図形にみえるが,正六角形面を上にして置くと正四面体を切稜・切頂した図形になっていることがわかる.
n次元の空間充填図形が立方格子を基にして導出されるという考え方からすれば,この考察は頗る意外なものであろう.定量的に表現すると,n次元空間の空間充填多胞体を正(n+1)胞体から構成する場合,頂点数はn+1個,辺数はn(n+1)/2個,面数は(n−1)n(n+1)/6個,・・・.
Σ(k=0~n-1)(n+1,k+1)=2^(n+1)−2
構成要素数は計2(2^n−1)個であり,そしてこれが圧縮されると構成要素の数だけ(n−1)次元面ができる.このことは,正単体を切稜・切頂することをイメージするとよいだろうというのがヒントンモデルである.
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【4】コンウェイの単体ブロックモデル
ヒントンの考察「はじめに単体ありき」は答えとしてはあっているのだが,自然な発想「はじめに格子ありき」とかけ離れていて,意外すぎて(少なくとも私にとっては)心理的抵抗感が大きく,面食らうばかりである.
コンウェイは平行多面体の概念を取り入れて,直方体モデルと単体モデルの統合を図っているのだが,n次元立方体には2n個の面があり,それに対して正単体の面数はn+1である.2つの正単体を底面で2つ併せることによって,面数は
2(n+1)−2=2n
となるが,これは立方体の面数に等しい.すなわち,定量的には直方体モデルとヒントンモデルの折衷になっていることがわかる.
このことの理解を助けるためにサイコロ(立方体)の2つの対蹠頂点を親指と人差指の間に挟んでそれを横から眺めてほしい.それは蓋・胴・底の3つの部分からなるが,コンウェイのモデルの場合,蓋と底の三角錐は考慮の対象となるが,胴の部分は必要ではないので注意を要する.
そして,コンウェイモデルでは単体の1つの頂点だけに注目する.1つ頂点の周りにはn−1次元超平面がn個,n−1次元超平面の辺(n−2次元超平面)がn(n−1)/2個,n−1次元超平面の角(n−3次元超平面)がn(n−1)(n−2)/6個,・・・
Σ(k=1~n)(n,k)=2^n−1
で計2^n−1個.平行多面体ではこれが2つ併合されて計2(2^n−1)個の構成要素があることになる.
2次元の場合は正三角形を切頂した図形(台形)を2つ併せて正六角形になり,3次元の場合は正四面体を切稜・切頂すると正四面体の頂点は六角形,辺は四角形になるから,この図形を2つ併せると切頂八面体が得られる.同様に,4次元ではこの操作により頂点は切頂八面体,辺は六角柱の30胞体となる.
このように4次元の空間充填の基本形は30胞体となるのだが,一般にn次元空間の空間充填多胞体は正(n+1)胞体を2つ併せたような2n面体から得られる2(2^n−1)胞体となるというのがコンウェイモデルである.コンウェイモデルの方が心理的抵抗感の少ない導入が可能と思われるが,この多胞体は安定かつ面数が最大の空間充填多胞体となる(コンウェイの舗石定理).
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【5】雑感
直方体モデルやヒントンの単体モデルはn−1次元の面をn次元の空間の中に収まっているものとしてみたモデルです.それに対して,コンウェイの単体モデルは単純に直方体を単体で置き換えたものではなく,その面がその内部情報からその面を離れられない生物にとって何がわかるかという内在的幾何学の例になっています.また,局所情報から大域的な情報を引き出す幾何学の例といってもよいでしょう.
最後に,ガウスがぶったまげた驚異の定理(Theorema egregium)を紹介します→[参]コラム「アステロイドの微分幾何学」.ベクトル空間はそれ自身の上にあるいはもっと次元の低い部分空間に写像することができます.高い次元の空間を低い次元の空間に写像すること(=投影)は容易であっても,低い次元の空間を高い次元の空間に写像すること(=埋め込み)は簡単ではないのです.
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曲線論の構造方程式:フレネー・セレーの公式にあたるものが,曲面論のガウスの公式とワインガルテンの公式です.それにより,gijとhijが独立ではなく,互いに関係していることが示されます.ところが,
K=det(G^(-1)Φ)={h11h22−(h12)^2}/Δ
がgijの式だけで表されることがガウスにより発見されました.すなわち,「ガウス曲率は第1基本形式だけで定まり,第2形式にはよらない.」のです.
われわれが曲面上に閉じこめられ,外の世界については何も知らないものとしましょう.その場合,われわれにとって知りうることは,座標と運動方向と長さ(第1基本形式)だけとなります.それに対して,第2基本形式は曲面を3次元空間のなかで考えてはじめて定義される量です.
曲面の性質を調べるとき,曲面の内的情報だけで記述できるものと,外の世界からの観測データを本質的に必要とするものとがあります.ガウスは,ガウス曲率が曲面の内部の情報だけで決定でき,外部情報に依存しないことを発見したことになります.そのとき,ガウスは相当ブッタマゲタらしく,この定理を「驚異の定理(Theorema egregium)」と呼んでいます.
第2基本形式のような曲面からみて外的な量を理論から排除し,曲面の上の住む生物にとって定義可能な内的な量のみを用いて,曲面の幾何学を構築するのがリーマン幾何学の考え方ですが,ガウス曲率が第1基本形式だけで書かれるという事実のおかげで,曲面人は自分の住む空間が曲がっていることを認識することができるのです.
われわれは地球が平らでないことを星を観測するなど外的な情報を用いて認識していますが,ガウス曲率のような手がかりを使えば,曲面人にとっても外部情報なしに,地球が平らでないことを認識できることになるというわけです.
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