■楕円積分の加法定理(その11)

 レムニスケートのk等分点に引き続いて,楕円のk等分点について考えてみることにしたい.その基礎的な事項は(その10)で与えてあるが,まずはその復習から.

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【1】楕円の場合

 円錐曲線y^2=ax^2+bの場合を考えてみよう.この曲線はa<0のとき楕円,a>0のとき双曲線であるが,ydy/dx=axであるからその線素は

  ds=dx((1+qx^2)/(1+px^2))^1/2

  p=a/b,q=(a+a^2)/b

で与えられる.円ではa=−1,b=1,p=−1,q=0より

  ds=dx/(1−x^2)^1/2

となる.

 この円錐曲線と1対1対応する楕円曲線

  z^2=F(x)=(1+px^2)(1+qx^2)

    =1+(p+q)x^2+pqx^4=1+mx^2+nx^4

  m=p+q,n=pq

を定義する.

 たとえば,楕円y^2=ax^2+bのx≧0,y≧0の部分を扱い,始点をP(0,√b),終点をQ=(α,0)

  α=√(−b/a)

にとると,P,Qはそれぞれ楕円曲線の上の点A(0,1),B(α,0)に対応する.

 ところで,楕円曲線z^2=1+mx^2+nx^4において,A(0,1),B(a,b)にとれば,b^2=1+ma^2+na^4となるが,このとき,加法・減法公式は

  x’=(bx±ay)/(1−na^2x^2)

と表すことができる(その10).

 減法公式にa=α,b=0,n=pqを適用すると,a^2=−1/pより

  x’=(bx±ay)/(1−na^2x^2)

    =α((1+px^2)/(1+qx^2))^1/2

となり,楕円の弧PQはQPに写像されPとQは移り合う.

 さらに,PQの線素

  ds=dx((1+qx^2)/(1+px^2))^1/2

  x’=α((1+px^2)/(1+qx^2))^1/2

を用いて

  ds=αdx/x’

一方,写像x→x’でdsを変換したものは

  ds’=αdx’/x

と書ける.ここで,M(x,y)をPQ上の任意の点,写像x→x’によるMの像をNとすると,

  弧PMの長さ:λ=α∫(0,x)dx/x’

  弧QNの長さ:λ’=−α∫(0,x)dx’/x

  λ’−λ=qαxx’

が得られる.

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【2】楕円のk等分点

 円ではy^2=F(x)=1−x^2,レムニスケートではy^2=F(x)=1−x^4とおいて,

  ds=dx/y

で与えられることをみてきたが,たとえば,レムニスケートの弧長では,加法公式

  x’={x(1−y^4)^1/2+y(1−x^4)^1/2}/(1+x^2y^2)

において,y=xとおくと倍角公式が得られる.また,y=1の場合の減法公式は,反転写像

  x’=(1−x^4)^1/2/(1+x^2)={(1−x^2)/(1+x^2)}^1/2

を与える.

 楕円の弧長を求めるには,楕円の弧と1対1対応する楕円曲線

  y^2=F(x)=(1+px^2)(1+qx^2)=1+mx^2+nx^4

の加法公式

  x’={x(1+my^2+ny^4)^1/2+y(1+mx^2+nx^4)^1/2}/(1−nx^2y^2)において,y=xとおくと倍角公式

  x’=2xy/(1−nx^4)=2x(1+mx^2+nx^4)^1/2/(1−nx^4)

が得られる.

 また,1+my^2+ny^4=0の場合,すなわち,1+py^2=0,y^2=−1/pの場合の減法公式は,

  x’=y(1+mx^2+nx^4)^1/2/(1−nx^2y^2)

  1+mx^2+nx^4=(1+px^2)(1+qx^2),n=pq,α^2=−1/p

より,反転写像

  x’=α((1+px^2)/(1+qx^2))^1/2

を与える.

 これ以降はレムニスケート型y^2=1−x^4の場合とまったく同様に進むことができて,k倍角公式でx’=αとおいてxを求めるとその点がk等分点に対応する.たとえば,楕円x^2/4+y^2=1,すなわち,a=−1/4,b=1,p=a/b=−1/4,q=(a+a^2)/b=−3/16,m=p+q=−7/16,n=pq=3/64,α=√(−b/a)=2の場合について次回以降,具体的に計算することにしたい.

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【3】雑感

 楕円のk等分点について考察してきたが,

  x’=α((1+px^2)/(1+qx^2))^1/2

が反転公式である.

 したがって,2等分点に対応する

  x=α((1+px^2)/(1+qx^2))^1/2

  qx^4+(1−pα^2)x^2−α^2=0

α^2=−1/pより

  pqx^4+2px^2+1=0

はx^2に関する2次方程式となる.3次方程式に帰着する作図問題は+−×÷√の演算を組み合わせても解けないが,2次方程式であるから楕円を定規とコンパスだけで2等分することができるはずである.

  x^2=1/pq(−p−(p^2−pq)^1/2)

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