正弦関数の加法・減法定理は
sin(θ1±θ2)=sinθ1cosθ2±sinθ2cosθ1
であるが,1751年,オイラーは逆正弦関数の加法定理
G(x)+G(y)=G(x(1−y^2)^1/2+y(1−x^2)^1/2)
との類似に基づいて,レムニスケート積分に対する加法定理
G(x)+G(y)=G((x(1−y^4)^1/2+y(1−x^4)^1/2))/(1+x^2y^2))
を構成することに成功している.
とくに,y=1の場合,反転公式
z→{(1−z^2)/(1+z^2)}^1/2
y=xの場合,倍角公式
z→2z(1−z^4)^1/2/(1+z^4)
を与えるというわけである.
今回のコラムでは,これらを拡張した結果について紹介するが,まずは円との間に認められる類似性を推し進めることにする.
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【1】円の場合
円:x^2+y^2=1→x+ydy/dx=0
の線素は
ds=(dx^2+dy^2)^1/2=dx/(1−x^2)^1/2
で与えられる.
倍角公式
x→2x(1−x^2)^1/2
はdsを2dsに変える.
また,反転公式
x→(1−x^2)^1/2
によりO(0,0)とP(1,0)は移り合い,弧OPは自分自身に移り弧長OPは保存される.
y^2=F(x)=1−x^2
とおくと,
ds=dx/y=dx/(1−x^2)^1/2.
このとき,微分方程式
dx/(1−x^2)^1/2=dy/(1−y^2)^1/2
の一般解は
x^2+y^2=c^2+2xy(1−c^2)^1/2
で与えられる.
c=0の場合が自明な解x=y,c=1の場合が反転公式
y=(1−x^2)^1/2
である.
一般解はyに関する2次方程式
y^2−2yx(1−c^2)^1/2+x^2−c^2=0
を解いて,
y=x(1−c^2)^1/2±c(1−x^2)^1/2
ここで,適宜変数を置き換えると,加法・減法公式
z=x(1−y^2)^1/2±y(1−x^2)^1/2
が得られる.
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【2】レムニスケートの場合
ベルヌーイのレムニスケートの方程式は
(x^2+y^2)^2=x^2−y^2
である.第1象限にある部分だけを考えることにして,この弧は原点O(0,0)を始点,P(1,0)を終点としてパラメータz(0≦z≦1)を用いれば,
x^2=1/2(z^2+z^4),y^2=1/2(z^2−z^4)
と表せる.(x,y)を楕円関数でパラメトライズしたというわけである.
この線素は
ds=(dx^2+dy^2)^1/2=dz/(1−z^4)^1/2
で与えられ,倍角公式
z→2z(1−z^4)^1/2/(1+z^4)
はdsを2dsに変える.
したがって,レムニスケートの2等分点を求める際,
sl(2z)=2z(1−z^4)^1/2/(1+z^4)=1
とおいてzを求めたあと,
x^2=1/2(z^2+z^4),y^2=1/2(z^2−z^4)
により,2等分点(x,y)を求めなければならないことになる.
また,反転公式は
z→{(1−z^2)/(1+z^2)}^1/2
で与えられる.
y^2=F(x)=1−x^4
とおくと,
ds=dx/y=dx/(1−x^4)^1/2.このとき,微分方程式
dx/(1−x^4)^1/2=dy/(1−y^4)^1/2
の一般解は
c^2x^2y^2+x^2+y^2=c^2+2xy(1−c^4)^1/2
で与えられる.
c=0の場合が自明な解x=y.c=1の場合,すなわち,
x^2y^2+x^2+y^2−1=0
y^2=(1−x^2)/(1+x^2)
が反転公式である.
一般解はyに関する2次方程式
y^2(1+c^2x^2)−2yx(1−c^4)^1/2x+x^2−c^2=0
を解いて,
y={x(1−c^4)^1/2±c(1−x^4)^1/2}/(1+c^2x^2)
ここで,適宜変数を置き換えると,加法・減法公式
z={x(1−y^4)^1/2±y(1−x^4)^1/2}/(1+x^2y^2)
が得られる.
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【3】y^2=F(x)=1+mx^2+nx^4の場合
このとき,微分方程式
dx/(1+mx^2+nx^4)^1/2=dy/(1+my^2+ny^4)
の一般解は
−nc^2x^2y^2+x^2+y^2=c^2+2xy(1+mc^2+nc^4)^1/2
で与えられる.
yに関する2次方程式
y^2(1−c^2x^2)−2yx(1+mc^2+nc^4)^1/2x+x^2−c^2=0
を解いて,
y={x(1+mc^2+nc^4)^1/2±c(1+mx^2+nx^4)^1/2}/(1−nc^2x^2)
c=0の場合が自明な解x=y.1+mc^2+nc^4=0の場合,
y=c(1+mx^2+nx^4)^1/2/(1−nc^2x^2)
が反転公式である.
ここで,適宜変数を置き換えると,加法・減法公式
x’={x(1+my^2+ny^4)^1/2±y(1+mx^2+nx^4)^1/2}/(1−nx^2y^2)
が得られる.レムニスケートではm=0,n=−1より,加法・減法公式は
x’={x(1−y^4)^1/2±y(1−x^4)^1/2}/(1+x^2y^2)
楕円曲線y^2=1+mx^2+nx^4において,A(0,1),B(a,b)にとれば,b^2=1+ma^2+na^4となるが,このとき,加法・減法公式は
x’=(bx±ay)/(1−na^2x^2)
と表すことができる.さらに加法公式においてx=yとおけば,
x’=2xy/(1−nx^4)=2x(1+mx^2+nx^4)^1/2/(1−nx^4)
となって,倍角公式を得ることができる.
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【4】雑感
ds=dx/(1−x^4)^1/2
において,第1種楕円積分∫dsはレムニスケートの求長問題であるが,y^2=1−x^4の有理数解,したがって,フェルマー方程式z^4=x^4−y^4の整数解を求める問題とほとんど同一の問題である.
それに対して,円錐曲線y^2=ax^2+bの場合,この曲線はa<0のとき楕円,a>0のとき双曲線であるが,ydy/dx=axであるからその線素は
ds=dx((1+qx^2)/(1+px^2))^1/2
p=a/b,q=(a+a^2)/b
で与えられる.円ではa=−1,b=1,p=−1,q=0より
ds=dx/(1−x^2)^1/2
となる.
楕円や双曲線の求長問題∫dsは第2種楕円積分の典型例となっていて,楕円積分にある種の味わいを添えるものである.たとえば,単振り子の振動周期や楕円の弧長を求める問題を考える場合,k[0,1]をパラメータとする不完全積分
f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)
f(x)={(1-k^2x^2)/(1-x^2)}^(1/2)
F(z)=∫(0,z)f(x)dx
が絡んでくる.
楕円積分
f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)
sn^(-1)(x,k)=∫(0,x)f(x)dx
はヤコビの楕円関数の1種であるエスエヌ関数の逆関数である.また,
f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)
K(k)=∫(0,1)f(x)dx
を第1種完全楕円積分,
f(x)={(1-k^2x^2)/(1-x^2)}^(1/2)
E(k)=∫(0,1)f(x)dx
を第2種完全楕円積分と呼ぶ.
第1種楕円積分は特に重要であるが,第1種楕円積分
K(k)=∫(0,1)1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)dx (ヤコビの標準形)
で,x=sinθと変換すると
K(k)=∫(0,π/2)dθ/(1-k^2sin^2θ)^(1/2) (ルジャンドルの標準形)
また,x=sin^2θ,λ=k^2とおけば
K(k)=∫(0,1)dz/{(z(1-z)(1-λz)}^(1/2) (リーマンの標準形)
が成立する.
これらの不定積分は初等関数では表せないが,たとえば,第1種完全楕円積分は
K(k)=π/2{1+(1/2k)^2+(3/8k^2)^2+(5/16k^3)^2+・・・}
とベキ級数展開できる.
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【補】ヤコビの楕円関数
ヤコビは第1種不完全楕円積分
f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)
ω=F(z)=∫(0-Z)f(x)dx
に対して,正弦関数をまねてF-1(ω)をsnω=F-1(ω)と定義し,
sn-1z=∫(0-Z)f(x)dx
を得ました.また,三角関数にならって
cnω=√(1-sn^2ω),dnω=√(1-k^2sn^2ω)
と定義しました.関数sn,cn,dnがヤコビの楕円関数です.また,ヤコビは指数関数に対応するテータ関数(周期関数)で,ヤコビの楕円関数を表すことにも成功しています.
第1種不完全楕円積分において,k→0とすると,
K(0)=∫(0-Z)f(x)dx=sin-1z
k→1とすると,
K(1)=∫(0-Z)f(x)dx=tanh-1z
ですから,snωはsinωとtanhωの中間に位置していることがわかります.実際にベキ級数展開を求めると,
snω=ω-(1+k^2)/6ω^3-(3+2k^2+3k^4)/40ω^5+・・・
が得られます.
また,完全楕円積分を用いると,
楕円:x^2/a^2+y^2/b^2=1の全周は4aE(b/a)
レムニスケート:(x^2+y^2)^2=2a^2(x^2-y^2)の全周は√(8)aK(1/√(2))
糸の長さlの単振り子の周期はT=4√(l/g)K(k)
したがって,振幅が小さいときT〜2π√(l/g)と表すことができます.
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