1,1+q,1+q+q^2,・・・,1+q+q^2+・・・+q^(n-1),・・・
は,q→1とすることによって,1,2,3,・・・,n,・・・に近づく.このことから逆に
1,1+q,1+q+q^2,・・・,1+q+q^2+・・・+q^(n-1),・・・
=(1−q)/(1−q),(1−q^2)/(1−q),(1−q^3)/(1−q),・・・,(1−q^n)/(1−q),・・・
は自然数のqアナログを与えていると考えることができる.
qアナログとはqの多項式であって,qを1にしたときにもとの対象が現れるようなもののことである.qアナログは量子化の概念に非常によく似た形で与えられるといったほうがわかりやすいかもしれない.
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【1】q-2項係数(ガウス多項式)
階乗n!のqアナログは
Π(1-q^k)/(1-q)
となるが,2項係数(n,m)=n!/m!(n-m)!のqアナログ(q-2項係数)を
[n,m]
と書くことにして,さらに
(a;q)n=(1-a)(1-aq)・・・(1-aq^(n-1))=Π(1-aq^k)
なる記号を導入すると
(q;q)n=(1-q)(1-q^2)・・・(1-q^n)=Π(1-q^k)
になるので,
[n,m]=(1-q^n)(1-q^n-1)・・・(1-q^n-m+1)/(1-q^m)(1-q^m-1)・・・(1-q)=(q;q)n/(q;q)m(q;q)n-m
このようにして,2項定理
(1+z)^n=Σ(n,m)z^m
のqアナログは
(1+z)(1+zq)・・・(1+zq^(n-1))=(-z;q)n= Σ[n,m]q^(m(m-1)/2)・z^m
と表すことができる.
同様に,
(1-z)^-n=Σ(n+m-1,m)z^m
のqアナログは
1/{(1-zq)(1-zq^2)・・・(1-zq^n)}= Σ[n+m-1,m]q^m・z^m
が成り立つ.
二項級数は多くの重要な性質をもっている.
(n+m,m)=(n+m,n) (対称性)
(n,m)=(n-1,m)+(n-1,m-1) (漸化式)
(n+m,m)=(n+m-1,m)+(n+m-1,m-1) (漸化式)
Σ(n,m)=2^n
Σ(-1)^m(n,m)=0
Σ(n,m)^2=(2n,n)
これらの多くがqアナログに拡張される.
[n+m,m]=[n+m,n] (対称性)
[n+m,m]=[n+m-1,m]+q^m[n+m-1,m-1] (漸化式)
[n+m,m]=q^n[n+m-1,m]+[n+m-1,m-1] (漸化式)
Σ(-1)^m[n,m]=0 nが奇数のとき
Σ(-1)^m[n,m]=(1-q)(1-q^3)(1-q^5)・・・(1-q^n-1) nが偶数のとき
Σq^m^2[n,m]=[2n,m]
Σq^m/2[n,m]=(1+q^1/2)(1+q)(1+q^3/2)・・・(1+q^n/2)
Σq^l[m+l,m]=[n+m+1,n]
ここで,Σq^m^2[n,m]=[2n,m]において,n→∞とすると
Σq^m^2/{(1-q)^2(1-q^2)^2・・・(1-q^m)^2}= Π1/(1-q^n)
が導かれる.
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【2】q-超幾何関数
q-2項級数は
(az;q)∞/(z;q)∞=Σ(a;q)m/(q;q)m・z^m
ガンマ関数(階乗の一般化),ガウスの超幾何関数(2項級数の一般化)のqアナログも同様に与えることができて,
q-ガンマ関数:Γq(x)=(q;q)∞/(q^x;q)∞(1-q)^(1-x)
q-超幾何関数:2φ1(a,b,c:q,x)=Σ(a;q)m(b;q)n/(c;q)m(q;q)m・x^m
と定義される.
q-超幾何関数はハイネの超幾何関数2φ1とも呼称される.ガウスの超幾何関数2F1は超幾何微分方程式
x(1-x)d^2y/dx^2+{γ-(α+β+1)x}dy/dx-αβy=0
を満たすが,q-超幾何関数2φ1は類似の2階差分方程式をみたす.
Σq^m^2/{(1-q)^2(1-q^2)^2・・・(1-q^m)^2}= Π1/(1-q^n)
はq-超幾何関数
Σ(a-1)(a-q)・・・(a-q^n-1)(b-1)(b-q)・・・(b-q^n-1)x^n/(1-q)(1-q^2)・・・(1-q^n)(1-c)(1-cq)・・・(1-cq^n-1)=Π(1-caq^n)(1-cbq^n)/(1-cq^n)(1-abcq^n)
の特別な場合である.
Σq^m^2/{(1-q)(1-q^2)・・・(1-q^m)}= Π1/(1-q^(5n-4))(1-q^(5n-1)
Σq^(m^2+m)/{(1-q)(1-q^2)・・・(1-q^m)}= Π1/(1-q^(5n-3))(1-q^(5n-2)
はそれぞれロジャーズ・ラマヌジャンの第1恒等式,第2恒等式であるが,ロジャース・ラマヌジャン恒等式にはやさしい証明は存在せず,q二項係数とヤコビの三重積公式を使って証明される.
Σq^(k^2)/(q;q)k=1/(q;q^5)∞(q^4;q^5)∞(第1恒等式)
Σq^(k(k+1))/(q;q)k=1/(q^2;q^5)∞(q^3;q^5)∞(第2恒等式)
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