(a)オイラーの五角数定理(1750年)
Π(1-q^n)=Σ(-1)^mq^(m(3m-1)/2)) n:1~∞,m:-∞~∞,m(3m-1)/2は五角数
(b)ヤコビの三角数定理(1829年)
Π(1-q^n)^3=Σ(-1)^m(2m+1)q^((m^2+m)/2) n:1~∞,m:0~∞,(m^2+m)/2は三角数
はヤコビの三重積公式を使うとあっさり証明できる.まず,それをみていくことにしよう.
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【1】ヤコビの3重積公式
(a;q)n=(1-a)(1-aq)・・・(1-aq^(n-1))=Π(1-aq^k)
なる記号を導入すると
(q;q)n=(1-q)(1-q^2)・・・(1-q^n)=Π(1-q^k)
になるが,ヤコビの3重積公式
Σz^nq^(n(n+1)/2)=Π(1-q^n)(1+zq^n)(1+z^(-1)q^(n-1))
は
(x;q)∞(q/x;q)∞(q;q)∞=Σ(-1)^m・q^(m(m-1)/2)・x^m x=-z
と表現される.
[1]ヤコビの3重積公式において,qをすべてq^3に置き換え,x=qとすれば,左辺はΠ(1-q^3n)(1-q^3n-1)(1-q^3n-2)=Π(1-q^n)=(q;q)∞となり,
Π(1-q^n)=Σ(-1)^m・q^(m(3m+1)/2) (オイラーの5角数定理)
と表される.
[2]また,qをすべてq^2に置き換え,x=qとすれば,左辺は
Π(1-q^2n)(1-q^2n-1)^2
ここで,異なる数への分割と奇数への分割が同数あるという結果に対応する
Π(1-q^2n-1)=Π1/(1+q^n)
より,
Π(1-q^n)/(1+q^n)=Σ(-1)^m・q^(m^2)
[3]今度はx=−qとすれば,(-1;q)∞=2Π(1+q^n)より,左辺は
2Π(1-q^2n)(1+q^n-1)=2Π(1-q^2n)/(1-q^2n-1)
右辺はΣ(-∞~∞)q^(m(m+1)/2)であるが,m(m+1)/2はm=-1/2について対称であるから和を取る範囲をm:-∞~∞からm:0~∞に狭めることができて
Σ(-∞~∞)q^(m(m+1)/2)=2Σ(0~∞)q^(m(m+1)/2)
これより
Π(1-q^2n)/(1-q^2n-1)=Σq^(m(m+1)/2) m:0~∞
[4]x=δとすれば,
(x;q)∞(q/x;q)∞(q;q)∞=(1-δ)(δq;q)∞(q/δ;q)∞(q;q)∞
Σ(-1)^m・q^(m(m-1)/2)・x^m=Σ(1~∞)(-1)^m・q^(m(m-1)/2)・(δ^m-δ^-m+1)=Σ(0~∞)(-1)^m+1・q^(m(m+1)/2)・δ^-m(δ^2m+1-1)
両辺を(1-δ)で割り,δ→1とすれば,
左辺→Π(1-q^n)^3
右辺→Σ(0~∞)(-1)^m-1・(2m+1)q^(m(m+1)/2)
より,
Π(1-q^n)^3=Σ(-1)^m(2m+1)q^((m^2+m)/2) (ヤコビの3角数定理)
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ヤコビの3重積公式はテータ関数そのものを表しているのであって,これから
Σ(-1)^n・q^(n^2)=(q;q)∞/(-q;q)∞
Σq^(n(n+1)/2)=(q^2;q^2)∞/(q;q^2)∞
Σq^(k^2)/(q;q)k=1/(q;q^5)∞(q^4;q^5)∞
Σq^(k(k+1))/(q;q)k=1/(q^2;q^5)∞(q^3;q^5)∞
Σq^(k^2)/(q;q)2k=1/(q;q^2)∞(q^4;q^20)∞(q^16;q^20)∞
Σq^(k(k+2))/(q;q)2k+1=1/(q;q^2)∞(q^8;q^20)∞(q^12;q^20)∞
Σq^(k^2)/(q;q)k(q;q)n-k=Σ(-1)^k・q^{(5k^2-k)/2}/(q;q)n-k(q;q)n+k
Σ2q^(k^2)/(q;q)k(q;q)n-k=Σ(-1)^k・(1+q^k)q^{(5k^2-k)/2}/(q;q)n-k(q;q)n+k
などの恒等式が得られる.
このうち,後6者のq恒等式
Σq^(k^2)/(q;q)k=1/(q;q^5)∞(q^4;q^5)∞
Σq^(k(k+1))/(q;q)k=1/(q^2;q^5)∞(q^3;q^5)∞
Σq^(k^2)/(q;q)2k=1/(q;q^2)∞(q^4;q^20)∞(q^16;q^20)∞
Σq^(k(k+2))/(q;q)2k+1=1/(q;q^2)∞(q^8;q^20)∞(q^12;q^20)∞
Σq^(k^2)/(q;q)k(q;q)n-k=Σ(-1)^k・q^{(5k^2-k)/2}/(q;q)n-k(q;q)n+k
Σ2q^(k^2)/(q;q)k(q;q)n-k=Σ(-1)^k・(1+q^k)q^{(5k^2-k)/2}/(q;q)n-k(q;q)n+k
はロジャース・ラマヌジャン恒等式と呼ばれるものの例である.
これらの分割恒等式はロジャーズ(1894),また彼とは独立にラマヌジャン(1913)によって得られた.ロジャース・ラマヌジャン恒等式は,最初ロジャースにより発見されたのであるが,誰の興味も惹かず忘れ去られていたところ,ラマヌジャンにより別証明が与えられたというわけである.
ロジャース・ラマヌジャン恒等式にはやさしい証明は存在せず,q二項係数とヤコビの三重積公式を使って証明される.ロジャース・ラマヌジャン型の恒等式は数論とのみ結びついていると考えられていたが,いまとなっては組合せ論を介して数理物理の計算に当たり前のように現れてくることが知られている.
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【2】自然な発想だが,・・・
ところで前節[1]には五角数,[2]には四角数,[3],[4]には三角数が出現している.これらの相互転化,たとえば,オイラーの五角数定理←→ヤコビの三角数定理を直接証明するうまい方法はないだろうか?
(その3)では五角数Pn=n(3n−1)/2については,五角数の和が
ΣPk=n^2(n+1)/2
となること,三角数Tn=n(n+1)/2との関係では
Pn=T2n-1−Tn-1,Pn=T3n-1/3
が成り立つことを紹介した.
また,三角数の母関数は
(1-x^2)(1-x^4)(1-x^6)・・・/(1-x)(1-x^3)(1-x^5)・・・
=1+x+x^3+x^6+x^10+・・・
となる.これらを利用して証明できないかと考えるのは自然な発想であろう.
前節[1]より,オイラーの5角数定理は
Π(1-q^3n)(1-q^3n-1)(1-q^3n-2)=Σ(-1)^m・q^(Pm)
T3n-1=3Pnより
Π(1-q^3n)(1-q^3n-1)(1-q^3n-2)=Σ(-1)^m・q^(T3m-1/3)
q→q^3に置き換えると
Π(1-q^9n)(1-q^9n-3)(1-q^9n-6)=Σ(-1)^m・q^(T3m-1)
Π(1-q^3n)/(1-q^3n-1)(1-q^3n-2)=Σ(-1)^m・q^(3m(3m-1)/2)
のように形式的には三角数となるが,実質的には五角数のままであり,これ以上は進めそうにない.
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