宮本次郎先生(釜石南高校)と一緒に,秋山仁先生の教育開発研究所を訪問した際,多面体の任意の切り口がすべて平面充填図形になる立体,多面体の展開図の周長が最小となる展開の仕方の話をうかがった.ただし,この展開図は辺に沿って切っても,好き勝手に切り込みを入れたものでも構わないものとする.
さらに
立方数の和=三角数Tnの平方 (Σk^3=(n(n+1)/2)^2)
の証明用の数学模型を見せていただいたが,列和だけでなく,グノモン型の和をとり,2通りの方法で計算することにより得られる等式であることが明確になった.
ところで,m角数とは「初項1,公差m−2の等差数列の和」として定義される図形数である.正の整数は3つの三角数の和あるいは4つの四角数の和として表される・・・.
一般に「m角数定理」とは「すべての自然数はたかだかm個のm角数で表せる」というものである.三角数を△,四角数を□,五角数を☆で表すことにすると,この定理でm=3の場合がガウスの定理「n=△+△+△」,m=4の場合がラグランジュの定理「n=□+□+□+□」,m=5の場合が五角数定理「n=☆+☆+☆+☆+☆」に相当する.
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【1】五角数とフィボナッチ数
五角数1,5,12,22,35,・・・,Pn=n(3n−1)/2については,五角数の和が
ΣPk=n^2(n+1)/2
となること,三角数との関係では
Pn=T2n-1−Tn-1,Pn=T3n-1/3
となることは高校生でも計算できるだろう.
五角数に限らず,m角数を図形的に考えてみると,m角形にn−1番目の三角数Tn-1=(n−1)n/2個の点からなる三角形を追加して作ることができるから
n+(m−2)Tn-1=1/2・n・{2+(m−2)(n−1)}
と考えることができる.したがって,三角数との関係は五角数に特別のものではない.それでは,五角数には何か面白い性質はないのだろうか?
フィボナッチ数Fnは指数関数的であって,たとえば,初項1,第2項2のフィボナッチ数列1,2,3,5,8,13,・・・の一般項は
Fn=1/√5[{(1+√5)/2}^n+1−{(1−√5)/2}^n+1]
と表される.また,三角関数を使った積表示
Fn=Π(l=1~[(n+1)/2]{1+4cos^2(lπ/(n+1))}
をもつ.
初項1,第2項1のフィボナッチ数列の場合は積表示においてn+1→nとなるだけのことであり,いろいろな恒等式
Fn・Fn+2=Fn+1^2−(−1)^n (カッシーニの公式)
F1+F2+F3+・・・+Fn=Fn+2−1
F1+F3+F5+・・・+F2n-1=F2n
F2+F4+F6+・・・+F2n=F2n+1−1
フィボナッチ数の平方の和については
F1^2+F2^2+F3^2+・・・+Fn^2=Fn・Fn+1
Fn+1^2=4FnFn-1+Fn-2^2
Fn+1^2=2Fn^2+2Fn-1^2−Fn-2^2
Fn+1^2=4Fn-1^2+4Fn-1Fn-2+Fn-2^2
Fn+1^2=4Fn^2−4Fn-1Fn-2−3Fn-2^2
などが知られている.
それに対して,五角数Pnは多項式関数であるから,積表示はもたないだろうと思われる.特別な点といえば,五角数(したがって三角数も)整数の分割数と深く関係していることであろう.
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【2】オイラーの五角数定理
ある恒等式が分割の立場から何を意味するかという逆問題を考えてみましょう.
1/(1-x)=1+x+x^2+x^3+x^4+・・・
=(1+x)(1+x^2)(1+x^4)(1+x^8)・・・
において,1+x+x^2+x^3+x^4+・・・の指数は整数そのものの母関数と考えられます.一方,(1+x)(1+x^2)(1+x^4)(1+x^8)・・・は整数を繰り返しなしで2のベキに分解しています.したがって,各整数は2のベキの総和として一意に表せることを意味しているのです.
n=k1+2k2+2^2k3+・・・
ところで,オイラーの分割関数の分母
g(x)=Π(1-x^n)
に関してオイラーが発見した定理をもう一つ紹介しておきましょう.
分割数p(n)の母関数の逆数
Π(1-x^n)=(1-x)(1-x^2)(1-x^3)・・・
を考えます.これを展開すると,級数中の係数がすべて0か±1の級数
Π(1-x^n)=1-x-x^2+x^5+x^7-x^12-x^15+x^22+x^26-x^35-x^40+x^51+・・・
=Σ(x^(6m^2-m)-x^(6m^2+5m+1))
が得られますが,これが何を意味しているかを発見できるでしょうか?
一見したところ,何を意味しているのかすら明らかではないのですが,この級数は,mが負になる項も含んだ
Π(1-x^n)=Σ(-1)^mx^(m(3m-1)/2))
の形にまとめられ,ここで指数の引数がm(3m−1)/2,すなわち,1,5,12,22,35,51,・・・という数列がピタゴラスの五角数であることから,五角数定理と呼ばれています.
この恒等式は,級数中のx^nの係数がすべて0か±1なのですが,組合せ論の解釈から,偶数個の異なる整数への分割数と奇数個の異なる整数への分割数の差
Peven(n)-Podd(n)=(-1)^m n=m(3m+1)/2
Peven(n)-Podd(n)=0 その他の場合
を表すものと考えられます.
たとえば,n=8の場合,偶数個の異なる整数への分割は7+1=6+2=5+3の3通り,奇数個の異なる整数への分割は8=5+2+1=4+3+1の3通りですから,その差は0となります.n=5の場合,偶数個の異なる整数への分割は4+1=3+2の2通り,奇数個の異なる整数への分割は5の1通りですから,その差は1となります.
個数の差があるのはn=m(3m+1)/2またはn=m(3m−1)/2,すなわち,
n=1,2,5,7,12,15,22,26,・・・
の場合で,このn=m(3m±1)/2を5角数といいます.nが5角数の場合に限ってPeven(n)とPodd(n)が異なるのですが,五角数は分割問題でも役立つというわけです.
もう一度,オイラーの5角数定理についてまとめておくと,ある種の数に対する補正項をe(n)とおいて
#{偶数個の異なる整数への分割}=#{奇数個の異なる整数への分割}+e(n)
ここで,e(n)=(-1)^j n=j(3j±1)/2
e(n)=0
オイラーの5角数定理を用いると,分割関数に対する再帰関係式
Σp(n-j(3j±1)/2)(-1)^j=0
p(n)=p(n-1)+p(n-2)-p(n-5)-p(n-7)+p(n-12)+・・・
p(n)-p(n-1)-p(n-2)+p(n-5)+p(n-7)-p(n-12)-p(n-15)+・・・=0^n
が得られます.ただし,n=0のとき0^n=1,nが正のときは0^n=0とします.
+(-1)^kp(n-1/2k(3k-1))+(-1)^kp(n-1/2k(3k+1))
のように,符号は2つずつ組になって反転していますが,それにしても不思議な公式です.これより
p(0)=1,p(1)=1,p(2)=2,p(3)=3,p(4)=5,p(5)=7,p(6)=11,
p(7)=15,p(8)=22,p(9)=30,p(10)=41,p(11)=56,p(12)=77,・・・
を効率的に計算することができます.
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【3】ヤコビの3重積公式
Π(1-q^n)=Σ(-1)^mq^(m(3m-1)/2))
は,オイラーが分割関数p(n)の研究中に発見した関数等式です(1750年).オイラーの五角数定理はヤコビの三重積公式を使うとあっさり証明できるのですが,現在,五角数定理にはヤコビの三重積公式による証明やフランクリンによる組合せ的証明があります.
ヤコビの3重積公式は無限和と無限積を結びつける公式Σ=Πであって,その重要な応用として,
(a)オイラーの五角数定理(1750年)
Π(1-q^n)=Σ(-1)^mq^(m(3m-1)/2)) m(3m-1)/2は五角数
(b)ヤコビの三角数定理(1829年)
Π(1-q^n)^3=Σ(-1)^m(2m+1)q^((m^2+m)/2) (m^2+m)/2は三角数
など,加法的整数論の有名な公式があります.
五角数定理の完全な証明は,ヤコビのテータ関数や保型形式の理論の中に求められなければなりません.しかし,ヤコビを待つまでもなく,オイラーは五角数定理を証明しました.オイラーはこの定理の証明にほぼ10年を要した(発見は1741年,証明は1750年)のですが,その間,たとえ完全な証明は与えられなくとも正しいことは間違いないことを確信していて,結果の正しさについて,微塵の疑いも抱いていなかったようです.
オイラー自身による証明はヴェイユの「数論」に紹介されています.梅田亨先生の解説によると,今日的な眼からすれば,オイラーの証明には無限次行列に対する跡公式と呼ばれるアイディアが使われているというのですが,跡公式とは,行列Aにおいて対角和=固有値の和,すなわち
trA=Σλ
の左辺が解析的,右辺が幾何学的に得られたものであるように,ある作用素の跡を2通りの方法で計算することにより得られる等式であって,作用素とはいわば無限次行列のことと考えておくとよいと思われます.
2通りに計算するということを喩えていうならば,家計簿つけのシーンにおいて,まず行ごとの合計を求めそれを総計する,次に列ごとの合計を求めそれを総計する,そして計算が正しければその2つの計算結果は一致するはずというわけです.
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