1899年,ヒルベルトは代数学から幾何学への貢献となる素晴らしい発見をしています.
パップスの定理が成立する←→多元数系は可換
デザルグの定理が成立する←→多元数系は結合的
パップスは体積と重心に関するパップス・ギュルダンの定理,三角形についてのパップスの中線定理,射影幾何学におけるパップスの定理にその名を残しているのですが,ここでいうパップスの定理とは射影幾何学における定理を指します.また,デザルグの定理もヒルベルトにより射影幾何学のカギとなる定理であることが示されたというわけです.今回のコラムではこれらの定理について説明してみます.
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【1】パップス・ギュルダンの定理
半径aと半径b(b<a)の同心円に挟まれた円環状部分の面積は
πa^2−πb^2
で与えられるが,この図形は2次元の円に幅をもたせたものと考えることができる.
そこで,帯の幅(a−b)に重心(原点からの距離:(a+b)/2)が描く円周長2π(a+b)/2を乗ずると
円周長×幅=2π(a+b)/2×(a−b)=πa^2−πb^2
となって同じ値が得られる.
円を円と交わらない軸を中心にして3次元空間内で回転させるとトーラス(円環面)が得られる. 半径bの円を3次元空間内で半径aで回転させたトーラスの場合,
表面積=円周長2πb×円周長2πa=4π^2ab
体積=断面積πb^2×円周長2πa=2π^2ab^2
で表すことができる.すなわち,体積・表面積とも太さと長さの積で表せるというわけである.
円周率が2つ入っているが,この意味はトーラス面は環状に並べられた円であることにほかならない.トーラスの体積・表面積の解答を自力で見つけて感動を覚え,それが次の興味に繋がったという経験をお持ちの読者も少なくないだろう.トーラスを同心円の積層であることを自力でみつける姿勢は必要であろうし,わかるということの喜びを体験することができるのである.
(第1定理)回転体の体積は元になる図形の面積とその図形の重心が移動した距離の積になる.
(第2定理)表面積は図形の周となっている曲線の重心の移動距離とその図形の周長との積になる.
これらは円だけでなくあらゆる回転体について成り立つ回転体の体積と表面積に関する定理であり,4世紀前半に精力的に活動した数学者パップスにちなんで「パップスの定理」と呼ばれている.
(Q1)三角形の重心は底辺から高さの1/3のところにあるが,それでは半円の重心はどこにあるのだろうか?
(A1)パップスの第1定理を逆に使って求めてみよう.直径を軸として半円を回転させると球になる.アルキメデスによれば球の体積は
4/3πr^3
一方,パップスによればこの体積は半円の面積1/2πr^2と半円が回転したときの重心の移動距離2πdの積に等しい(重心と円の中心との距離をdとする).したがって,
d=4r/3π=0.42r
(Q2)半径rの半円形をした針金の重心は?
(A2)パップスの第2定理より,重心の移動距離2πdと半円の長さπrの積は球の表面積4πr^2は等しくなる.したがって
d=2r/π=0.64r
これらの問題は積分を使っても解くことができるが,それよりもパップスの定理を使った方が簡単であろう.また,パップスの定理は円が曲線に沿って移動するような軌跡問題などにも応用することができる.
[補]この回転体の体積や表面積についての定理は古代ギリシアの数学者パップス(4世紀前半)が言及し,後になってスイスの数学者ギュルダンによって証明が試みられました.そのため今日ではパップス・ギュルダンの定理と呼ばれています.
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【2】三角形についてのパップスの中点定理
△ABCにおいて,辺BC上に中点Mが与えられている.このとき,
AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2)
が成り立つ.
3辺の長さをa,b,c,AM=xで表すと,
2(x^2+(a/2)^2)=b^2+c^2
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【3】パスカルの共線定理
3点あるいはそれ以上の点が一直線上にあることを主張する定理は共線定理と呼ばれます.たとえば,三角形の外心と重心と垂心はその順番に一直線上に並んでいて,外心と垂心を結ぶ線分が重心によって1:2に内分されています.この共線はオイラー線と呼ばれています.ここでは,パスカルの定理とニュートンの定理を紹介します.パスカルもニュートンも,少年時代はみんなパズルずきの幾何少年だったのです.
[1]ニュートンの定理
四辺形ABCDの2組の対辺の延長の交点をE,F,対角線BDの中点をL,対角線ACの中点をM,線分EFの中点をNとすれば,3点L,M,Nは一直線上にある.
[2]パスカルの定理
円錐曲線すなわち楕円,双曲線,放物線に内接する任意の六角形の三組の対辺の交点は同一直線上にある.
パスカルはこの有名な定理をわずか17才の時に発見したのですが,これは射影幾何学の基本定理の一つになっています.射影幾何学とは,長さや角の大きさに無関係に,例えば,いくつかの点がある直線上にあるといった関係,射影によって不変な図形の性質,を研究する学問です.パスカルの定理の重要な系が「円錐曲線は任意の5点で一意に定まる」です.
射影平面上では,円錐曲線はただ1種類しかなく,双曲線・放物線・楕円などの区別はなく,どれも同種の曲線となります.また,射影平面上では点という語と直線という語を入れ替えても定理は成り立っています.これをポンスレーの双対原理と呼び,射影幾何学の最も美しい特質です.
パスカルの定理から150年以上たって,その双対にある共点定理「円錐曲線の外接する6辺形の対角線は1点で交わる」が発見されたのですが,それがブリアンションの定理です.
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【4】射影幾何学におけるパップスの定理とデザルグの定理
[1]パップスの定理
直線上に3点A,B,C,もう一つの直線上に3点A’,B’,C’をとる.AB’とA’Bの交点をP,BC’とB’Cの交点をQ,AC’とA’Cの交点をRとするとき,P,Q,Rは同一直線上にある.
すなわち,2直線上にすべての頂点がのっている6角形の反対側の位置にある辺同士の交点は同一直線上にあるというのが,射影幾何学におけるパップスの定理である.
パスカルの定理は円錐曲線が既約でない場合にも成り立つといわけで,これを発見したのもパップスである.直線は無限半径をもつ円であるが,2本の直線からなる退化した円錐曲線を考えれば容易にこの定理にたどりつくであろう.
[2]デザルグの定理
△ABCと△A’B’C’において,AA’とBB’とCC’が点Oで交わるとする.ABとA’B’の交点をP,BCとB’C’の交点をQ,ACとA’C’の交点をRとするとき,P,Q,Rは同一直線上にある.
透視図法で移り合う2つの三角形について,対応する辺の交点はすべて1直線上にあるというのがデザルグの定理である.平行でない直線は有限の点で交わるが,平行な直線群は同じ無限遠点で交わる.無限遠直線を導入すると,任意の2直線は必ず交わることになるのである.
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