(a1^2+b1^2)(a2^2+b2^2)=(a1a2−b1b2)^2+(b1a2+a1b2)^2
は2平方数の和同士の積が2平方数の和で表されることを示しているが,
(a1+b1i)(a2+b2i)=(a1a2−b1b2)+(b1a2+a1b2)i
という複素数の積の公式に他ならない.
しかし,3平方数の和が2平方数の和同士の積で表されないことは明白である.たとえば,3=1^2+1^2+1^2,5=0^2+1^2+2^3の積15は3平方数の和ではない.3=1^2+1^2+1^2,21=1^2+2^2+4^3の積63も同様である.8n+7の形の整数は3平方数の和では表されないのである.
|a|・|b|=|c|
すなわち,平方数の和が積の演算で閉じていることを示す
(a1^2+a2^2+・・・+an^2)(b1^2+b2^2+・・・+bn^2)=(c1^2+c2^2+・・・+cn^2)
の恒等式は,n=1,2,4,8に対してだけ満たされるという驚くべき結果が19世紀末,フルヴィッツにより証明されている(1898年).
したがって,ある条件のもとで,数の体系は八元数までですべてであることが知られていて,数の系列は
実数(一元数)→複素数(二元数:ガウス)→四元数(ハミルトン)→八元数(ケイリー)
というようになっているのである.
四元数は1843年ハミルトンにより,八元数は1845年ケイリーによって発明された.四元数では乗法の交換法則は成り立たない(ab≠ba)のだが,積の可換性を放棄することで,残りすべてのつじつまが合うようになった.また,八元数では乗法の結合法則も破れている(a(bc)≠(ab)c).
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【1】4元数と球面の回転
球面の任意の回転は複素関数
f(z)=(az+b)/(−b~z+a~)
という形で表される.~は共役を表している.
ここで,a=α+βi,b=γ+δiとおけば,
[ a ,b ]=[ α+βi,γ+δi]
[−b~,a~] [−γ+δi,α−βi]
=α[1,0]+β[i, 0]+γ[ 0,1]+δ[0,i]
[0,1] [0,−i] [−1,0] [i,0]
=αE+βI+γJ+δK
と書くことができる.
行列E,I,J,Kはパウリ行列と呼ばれるもので,球面の回転は量子力学でも重要な役割を果たしている.
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【2】8元数と多元数
8元数はケイリー数,またはケイリー・グレーブス数とも呼ばれるが,その集合はOという記号で表される.RからC,CからH,HからOが作られるのだが,それぞれの数体系はその前の数体系の順序対(a,b)から
(a1,b1)×(a2+b2)=(a1a2−b1~b2,b1a2+a1b2~)
によって対の積の規則が定められる.
[1]Cは乗法が可換かつ結合的である唯一の多元数系である(ワイエルシュトラス,1884).
[2]Hは乗法が結合的であるC以外の唯一の多元数系である(フロベニウス,1878).
[3]OはC,H以外の唯一の多元数系である(フルヴィッツ,1898).
その後,ヒルベルトは代数学から幾何学への貢献となる素晴らしい発見をする(1899年).
[4]パップスの定理が成立する←→多元数系は可換
デザルグの定理が成立する←→多元数系は結合的
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【3】雑感
(a1^2+b1^2)(a2^2+b2^2)
=(a1a2−b1b2)^2+(b1a2+a1b2)^2
=(a1a2+b1b2)^2+(b1a2−a1b2)^2
は2個の平方数の積が再び2個の平方数の和になることのみならず,その表し方が2通りあることを示しています.
たとえば,5=1^2+2^2,13=2^2+3^2の積65は2通りの平方数の和8^2+1^2,4^2+7^2を与えます.5=1^2+2^2,10=1^2+3^2の積50は7^2+1^2,5^2+5^2は2つの平方数の和として2通りにかける最小の整数で,その次が65です.
冒頭に掲げた3=1^2+1^2+1^2,21=1^2+2^2+4^3の積63は8n+7の形の整数(したがって3平方数の和では表されない)であって,3つの0でない平方数の和同士の積で表される最小の数になっています.
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√2の近似値は1/1,3/2,7/5,17/12,41/29,・・・です.√2は2つの整数の比p/qではないので,√2=p/qすなわちp^2=2q^2になるような2つの整数p,qを見つけることはできません.しかし,誤差±1を許すことにすると
2q^2=p^2±1 (ペル方程式)
なる2つの整数p,qを見つけることができます.
2^2+2^2=3^2−1
5^2+5^2=7^2+1
12^2+12^2=17^2−1
・・・・・・・・・・・・・
このような分数を全部求めるには1/1から出発して1+1=2が次の分母になり,1+2=3が次の分子になる,3+2=5が第3の分母,2+5=7が第3の分子になって,同様に続いていくという算術的な規則があります.
1/1↓ ↑3/2↓ ↑7/5↓ ↑17/12↓ ↑41/29↓ ・・・
すなわち,ペル方程式:p^2−2q^2=±1を満たすp/qがひとつの分数で,P/Qが次の分数だとすると
Q=p+q,P=q+Q=p+2q
P^2−2Q^2=2q^2−p^2=±1
となって,P/QもまたP^2−2Q^2=±1となる分数を与えることができることになります.1/1から始まって次々に解となる分数を見つけることができるというわけです.
なお,フェルマー・ワイルスの定理より
x^n+y^n=z^n
に整数解が存在するのは,n=1と2の場合だけです.したがって,a^3+b^3=c^3になるような3つの整数a,b,cを見つけることはできませんが,誤差±1を許すことにすると
6^3+9^3=9^3−1
のようにぎりぎりこれに近い式を見つけることができます.
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