■コーシー分布の離散化(その3)

 [参]加藤和也・黒川信重・斉藤毅「数論T,Fermatの夢と類体論」岩波書店

によると

  Σ(-∞,∞)1/(1+n^2)=π/tanh(π)

  Σ(-∞,∞)1/(1+n^2)^2=π/2(exp(4π)+4πexp(2π)−1)/(exp(2π)−1)^2

の2つの公式は,

  Σ(1,∞)1/n^2=π^2/6=ζ(2)

のようにゼータ関数の値を直接表すものではありませんが,

  Σ(1,∞)1/n^2=π^2/6=ζ(2)

と同様の世界に属していて,ζの香りが漂っているように思われるとコメントされています.

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【1】問題集

 このことからすぐ頭に浮かぶ問題をいくつかピックアップしてみます.これまで,コーシー分布

  f(x)=1/π(1+x^2) (-∞<x<∞)

は平均・分散のない分布で,実際,∫xf(x)dxのリーマン積分は1/π・1/2log(1+x2)であり,積分∫xf(x)dxは不定形∞−∞となるから定義されず,平均値が定義されないならば,もちろん分散も定義されないということを述べましたが,それでは,

[1]離散コーシー分布の平均

  Σ(-∞,∞)n/(1+n^2)

は存在するか?

 また,コーシー分布の累積分布関数は逆正接関数,ロジスティック分布の累積分布関数は双曲線正接関数で表されるのですが,

  Σ(-∞,∞)1/(1+n^2)=π/tanh(π)

は,見方によっては逆正接関数と双曲線正接関数の間の変換式になっているわけで,逆に,

[2]離散ロジスティック分布

f(n)=exp(-n)/{1+exp(-n)}^2=1/4[sech{n/2}]^2

において,Σ(-∞,∞)f(n)はarctanの関数(π/arctanπにはなりませんが,たとえばこのような式)として表すことができるか?

  Σ(-∞,∞)1/(1+n^2)=π/tanh(π)

をさらに一般化すると

  Σ(-∞,∞)1/((α/2π)^2+n^2)=π(2π/α)/tanh(α/2)

  α=2π→Σ(-∞,∞)1/(1+n^2)=π/tanh(π)

  α=π→ Σ(-∞,∞)1/(1/4+n^2)=2π/tanh(π/2)

を得ることができるが,他にも

[3]「ζの香りの漂う式」を見いだすことはできるか?

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【2】公式集

 これらの解答を求めて,公式集で「有理式の無限級数」をあたってみました.

  Σ(-∞,∞)1/(n+α)^2=π^2/(sin(πα))^2

この公式ではα≠整数ですから,たとえば,

  α=1/2→ Σ(-∞,∞)1/(n+1/2)^2=π^2=6ζ(2)

  Σ(-∞,∞)1/(n+α)^3=π^3/(tan(πα)(sin(πα))^2)

  Σ(-∞,∞)1/(n+α)^4=π^4/(1/(sin(πα))^4−2/3(sin(πα))^2)

 無限乗積の公式では

  Π(1,∞)(1+α^2/n^2)=sinh(πα)/πα

  Π(1,∞)(1−α^2/n^2)=sin(πα)/πα

  Π(1,∞)(1+α/n)exp(−α/n)=sin(πα)/πα

  Π(1,∞)(1−α/n)exp(α/n)=sin(πα)/πα

  Π(1,∞)cos(α/2^n)=sin(α)/α

  Π(1,∞)cosh(α/2^n)=sinh(α)/α

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  Σ(-∞,∞)1/(1+n^2)=π/tanh(π)

  Σ(1,∞)1/(1+n^2)=π/2tanh(π)−1/2

と等価の式ですが,

  Σ(1,∞)1/(a^2+n^2)=π/(2atanh(aπ))−1/(2a^2)

  Σ(-∞,∞)1/(a^2+n^2)=π/(atanh(aπ))

  Σ(1,∞)(−1)^nー1/(a^2+n^2)=−π/(2asinh(aπ))+1/(2a^2)

  Σ(-∞,∞)(−1)^n/(a^2+n^2)=π/(asinh(aπ))

 また,これらと等価な公式

  Σ(1,∞)1/(a^2−n^2)=π/(2atan(aπ))−1/(2a^2)

  Σ(-∞,∞)1/(a^2−n^2)=π/(atan(aπ))

  Σ(1,∞)(−1)^nー1/(a^2−n^2)=−π/(2asin(aπ))+1/(2a^2)

  Σ(-∞,∞)(−1)^n/(a^2−n^2)=π/(asin(aπ))

  Σ(-∞,∞)1/(1+n^2)^2=π/2(exp(4π)+4πexp(2π)−1)/(exp(2π)−1)^2

と等価な

  Σ(1,∞)1/(1+a^2n^2)^2=π^2/(2sinh(x/a))^2+π/(4atanh(x/a))−1/2

  Σ(1,∞)1/(1−a^2n^2)^2=π^2/(2sin(x/a))^2+π/(4atan(x/a))−1/2

などがみられましたが,残念ながら(その1)に掲げた以外の本質的にζの香りの漂う公式を探し出すことはできませんでした.

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