すべての面が正三角形で構成されている立体をデルタ多面体(正三角面体)といいます.結論を先にいうと,正3角形ばかりを集めると4面体から20面体まで,18面体以外の8種類すべての偶数多面体ができあがります.そのうち,正4面体,正8面体,正20面体は正多面体にも分類されるのですが,デルタ多面体はそれらを含めて全部で8種類あることがわかりました.
正多面体でない5個のうち,2個は重角錐(f=6,f=10)ですが,三角柱の正方形面に四角錐を貼り付けたもの(f=14),正方反角柱の正方形面に四角を貼り付けたもの(f=16),コクセターにより双子の12面体,ジョンソンにより歪両楔体と呼ばれるもの(f=12)があります.
逆にいうと,もし多面体の各面が正三角形ならば8つの多面体の中のどれかひとつであるということになります.同様に,正方形1種類では立方体のみ,正5角形1種類では正12面体のみが得られ,正6角形以上の正多角形ばかりでは凸多面体はできません.結局,1種類の正多角形でできる凸多面体は合計10種類あることになります.
===================================
【1】オイラーの定理(デルタ多面体の必要条件)
3次元凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,
v−e+f=2 (オイラーの多面体定理)
が成り立ちます.これは3次元立体について,0次元の特性数であるv,1次元の特性数であるe,2次元の特性数であるfの関係を述べたものと解釈され,最も美しい数学の10大定理の1つに挙げられるものです.
また,正則な多面体とはその面が正多角形で,どの面にも同じ数の面が集まっている凸多面体のことで,正多面体では
pf=2e,qv=2e
でしたが,正則とは限らない一般の多面体では
Σpi=p1+・・・+pf=2e,
Σqi=q1+・・・+qv=2e
となります.
pi=3,3≦qi≦5ですから
3f=2e (fは偶数)
3v≦2e≦5v
これをオイラーの多面体定理
v−e+f=2
に代入すると
6≦e≦30
これより
4≦f≦20,(3≦v≦20)
が得られます.3f=2eよりfは偶数ですから,4面体から20面体までの偶数多面体がデルタ多面体の候補となります.
f e v
4 6 4
6 9 5
8 12 6
10 15 7
12 18 8
14 21 9
16 24 10
18 27 11
20 30 12
3次元では,オイラーの多面体公式
v−e+f=2
以外に
f≦2v−4,v≦2f−4
を満たせばよいことが証明されています(シュタイニッツ,1906年).デルタ多面体では,これ以上面数fを大きくできないという
f≦2v−4
の上限に達していることも理解されます.
なお,これらの式の頂点vと面fの対称性により,f面凸多面体とv点凸多面体は同数になるのですが,「4面体は4つの頂点と4つの面から構成されるので,頂点数を加えていうと,4点4面体である.5面体には4角錐(5点5面体)と3角柱(6点5面体)がある.6面体には5点6面体が1種類,6点6面体,7点6面体,8点6面体が2種類ずつの合計7種類ある.以下,7面体には34種類,8面体には257種類,9面体には2606種類ある.
見方を変えて,凸多面体を頂点数で分類すると,4点多面体は1種類,5点多面体は2種類,6点多面体は7種類,7点多面体は34種類,8点多面体は257種類,9点多面体は2606種類,10点多面体は32300種類ある.」・・・両者で同じ数値が出現していることに気づかれたかと思います.
===================================
【2】デカルトの定理(デルタ多面体の必要条件)
凸多面体の頂点で,そこに集まる面角の和は2πより小さくならなければなりません.その不足量を
δ=2π−Σ(面角)
とすると,不足量の和は4πに等しいというのが,デカルトの定理です.
Σδ=4π
(証)n辺をもつ面の数をfnとおく.f=Σfn,e=1/2Σnfn.また,n辺形の面角の和は(n−2)πであるから,
Σδ=2πv−Σ(n−2)πfn
=2πv−πΣnfn+2πΣfn
=2π(v−e+f)=4π
デルタ多面体では各頂点に3,4,5個の正三角形が集まるので,その頂点での不足量はπ,2π/3,π/3のいずれかになる.頂点にn個の正三角形が集まる頂点をvnとし,
a=Σv3,b=Σv4,c=Σv5
とおくと
πa+2πb/3+πc/3=4π
a+2b/3+c/3=4
となる.
すべての可能な整数解(a,b,c)のリストは,
a b c (v,e,f)
4 0 0 ○ (4,6,4)
3 1 1 ×
3 0 3 ×
2 3 0 ○ (5,9,6)
2 2 2 ×
2 1 4 ×
2 0 6 ×
1 4 1 ×
1 3 3 ×
1 2 5 ×
1 1 7 ×
1 0 9 ×
0 6 0 ○ (6,12,8)
0 5 2 ○ (7,15,10)
0 4 4 ○ (8,18,12)
0 3 6 ○ (9,21,14)
0 2 8 ○ (10,24,16)
0 1 10 ×
0 0 12 ○ (12,30,20)
であるが,v3とv5は隣接しないことよりa>0→a+b≧4,c>0→b+c≧6,a=1は不可能であること,(a,b,c)=(0,1,10)は不可能であることより,不可能なケースを除外することができる.
===================================
【3】デルタ多面体の構成(十分条件)
デルタ多面体の必要条件はわかりましたが,十分条件を得るには実際に構成してみることになります.正4面体は正三角形の上の単角錐,正8面体は正方形の上の重角錐です.
また,アルキメデスの正角柱(上下の底面が正多角形で,側面がすべて正方形であるもの)を少しひねって,側面をすべて正三角形にしたものをアルキメデスの反角柱と呼びます.正20面体は側面が10個の正三角形からなる五角反柱の上下の面に正五角錐をつけると構成することができます.
デルタ4面体,デルタ10面体はそれぞれ正三角形の上の重角錐,正五角形の上の重角錐としてできあがります.
重角錐として構成できるのはここまでで,デルタ12面体からは角錐の間に正三角形からなる帯をつけて,角錐の傘で上下からフタをすることになります.まず最初に,6個の正三角形からなる三角反柱の帯を作ってみたところ,これは正八面体となるのですが,そこの上下に正三角形のフタをすると正八面体そのものです.そこで,三角反柱の帯に正三角錐でフタをすると,正八面体と正四面体の二面角は互いに補角ですから平行六面体となってしまいます.これは空間充填形となるのですが,デルタ多面体とはなりません.
次に,8個の正三角形からなる四角反柱の帯を作ってみました.この場合,上下のフタとしては正二角錐(2個の正三角形を辺同士で繋いだものをこう呼ぶことにする)と正四角錐が可能になるのですが,「ポリドロン」では四角反柱の帯が剛性体ではなく変形可能で,これらのいずれも上下の面にうまくはめ込むことができました.正二角錐2個をはめ込むとデルタ12面体,正二角錐と正四角錐ではデルタ14面体,正四角錐2個をはめ込むとデルタ16面体となります.
このうち,デルタ14面体は側面が正方形の正三角柱(アルキメデスの正角柱)の側面に正四角錐3個をはめ込んだ立体とみることもできて,きれいな対称性を示しています.
次に10個の正三角形からなる五角反柱の帯ということになるのですが,この場合,正五角錐のフタだけが可能になって,正二十面体ができ上がります.
最後に,ポリドロンによるf=18の模型を掲げますが,凸体に近いものの凸でない多面体ができあがりました.同じf=18を2つの方向から見た図を掲げます.
こうしてデルタ18面体は構成不可能であることがわかりましたが,十分条件を満たさないことを直接幾何学的に証明できるかどうかまではわかりませんでした.
結論をまとめますと,デルタ多面体(正三角面体)は正4面体,正8面体,正20面体も含めて全部で8種類あります.面数の少ない順に並べると4,6,8,10,12,14,16,20面体で,デルタ18面体は存在しません.
f e v
4 6 4 ○
6 9 5 ○
8 12 6 ○
10 15 7 ○
12 18 8 ○
14 21 9 ○
16 24 10 ○
18 27 11 ×
20 30 12 ○
1942年,フロイデンタールによってこのことが証明されたとあるのですが,f=18(v=11)が十分条件を満たさないことはどのようにして証明されるのでしょうか?
この点について一松信先生にうかがったのですが,この証明は殊の外厄介ということでした.それは凸多面体という条件がつくためなのですが,結局は頂点数11の形を分類してどのような組でも凸体にならないことを確かめるという手間を要します.f=18の不可能性の証明は端的にいって「あらゆる可能性を調べて凸体にならない」ことを示すような厄介な話でなのです.
===================================