今回のコラムでは,特殊なK・S多面体の表面積を求めるとともに,その木工模型を中川宏さんに製作してもらうことになった.
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【1】K・S多面体の表面積
最も簡単なK・S多面体
x1=<t>
x2=<s>
x3=<1−t−s>
の臨界平面はx1+x2+x3=1であるから,1辺の長さ1の立方体に内接する正四面体になる.1辺の長さ√2の正四面体であるから,表面積は2√3である.
立方体に正四面体を内接させることができることは,最初ケプラーにより指摘されたことからケプラー四面体と呼ばれる.また,立方体に2個の正四面体を天地逆転させて重ねて内接させた相貫体にはケプラー八角星(星形八面体)という名前がつけられている.ケプラー八角星を通常の多面体としてみると表面積は3√3となるが,ケプラー四面体の相貫体(臨界平面の和集合)としてみると,表面積は2√3×2=4√3となる.
今回のコラムでは
x1=<t>
x2=<s>
x3=<a−t−s> (0<a<1)
を取り扱うが,このK・S多面体の相貫体の表面積はaに依存せず,4√3になるという.a→0またはa→1ならば,2重に覆われたケプラー四面体に帰着されるというわけである.
たとえば,a=1/2の場合の臨界平面は
x1+x2+x3=1/2 → 1辺の長さ√2/2の正三角形(面積:√3/8)
となるが,
x1+x2+x3=1/2+1 → 1辺の長さ√2/2の正六角形(面積:6√3/8)
x1+x2+x3=1/2+2 → 1辺の長さ√2/2の正三角形(面積:√3/8)
を考えることによって,このK・S多面体の相貫体のうち,8枚は正三角形,4枚は正六角形をもつ閉(自己交差)多面体になることがわかる.その表面積は√3×4=4√3である.
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【2】a=1の木工製作
星形八面体は2つの正四面体をそれぞれの辺が直角に2等分されるように配置したもので,その外側に立方体,内側に正8面体をもっている.正8面体を収納できるように,正四面体4個を貼り付けて固定し,蓋と底を作る上下二段の木工模型を製作してもらった.
それに対して,準結晶で有名な花形十二面体は,鋭角型の黄金菱形六面体を20個を組み合わせたものである.花形十二面体は小川泰先生がペンローズ格子(3次元版)について研究中に見つけられて命名された多面体とのことでまさしく「黄金の華」である.
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【3】a=1/2の木工製作
このK・S多面体の相貫体は立方八面体の正方形面を凹ませた形で,星形八面体の上下の段を入れ替えたものになる.
立方体はその重心を頂点,それぞれの面を底面とする6つの正4角錐からなる.これらの正4角錐を立方体の面に貼り付けることにより菱形12面体ができる.その双対図形が立方八面体である.
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[参]シェーンベルグ「数学点描」近代科学社