今回のコラムでは(その1)で書き足りなかった問題を補足して掲載することにしたい.
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【1】レンガのブロック積み
立方体は単独で空間全体を格子状に埋めつくすことができる.このことはこれ以上説明するまでもないだろう.次に,立方体を1つおきに黒と白に塗り分けて市松模様をつくる.その後で黒立方体を除いてみると,空になった隙間を白立方体の正方形を底面とし隙間の中心を頂点とする6つの四角錐に分けられることに気づくだろう.
白い立方体と6つの四角錐を一緒にすると菱形十二面体ができあがる.空間全体を菱形十二面体で埋めつくすことができるから,菱形十二面体も空間充填多面体である.菱形十二面体の頂点には4つの立体が出会うものと6つの立体が出会うものの2種類あることになる.
どの頂点でも最低4つの多面体が出会わなければならないというのがルベーグの舗石定理である.3つでは不可能であるから当たり前だといわれるかもしれないが,それでは,
[Q]すべての頂点で4つの多面体が出会うことは可能だろうか?
このような多面体を見つけるためにレンガのブロック積みを考える.3つのレンガが1点で出会うように平面を敷き詰めると,すべてのレンガは6つのレンガに接することがわかる.2段目も1段目と同じように敷き詰めるが,1段目のレンガのすべての頂点を2段目のレンガで覆うようにずらして積み重ねると,1段目のレンガの上には4つのレンガが載ることになる.
3段目も同様に行うと同じ段に6,上の段に4,下の段にも4で合計14のレンガに接することになる.このことからレンガは元々14面体であって,それが普通のレンガの形に圧縮されたものと考えることができる.
元々の圧縮されない形を考えると切頂八面体に到達するが,切頂八面体はすべての頂点に3つの辺が集まる単体的多面体である.そのため,切頂八面体が空間を合同な部分に分割する際,どの頂点でも4つの切頂八面体が出会うようになっていて,安定かつ面数が最大の空間充填多面体となるのである.
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【2】ブロック模型の破綻
2次元空間充填の基本形は6角形,3次元空間充填多面体の基本形は14面体となるのだが,それでは
[Q]4次元,5次元,・・・,n次元での空間充填多面体の基本形はどうなるのだろう?
しかし,ここに落とし穴がある.n次元では2次元,3次元同様のレンガのブロック積みを考えてもうまくいかないのである.
n次元空間充填ではどの頂点でも最低n+1個の多面体が出会わなければならない(ルベーグの舗石定理).すべての頂点でn+1個の多面体が出会う場合,n次元ボロノイ細胞の1個の頂点の周りにn個のn−1次元面が集まることがわかる.すなわち,単体的多面体である.
このことからn次元空間充填ではn次元立方体ではなく,n次元正単体をイメージしたほうがわかりやすくなる.3次元空間でいえば,立方体を直接切頂して切頂八面体を作るのではなく,正四面体を切稜・切頂した図形として切頂八面体を作る操作となる.n次元の空間充填図形が立方格子を基にして導出されるという考え方からすれば,この考察は頗る意外なものであろう.
定量的に表現すると,立方体には2n個の面があり,それに対して正単体の面数はn+1である.2つの正単体を底面で2つ併せることによって,面数は
2(n+1)−2=2n
となるが,これは立方体の面数に等しい.
そして,ボロノイベクトルにはボロノイ細胞のn−1次元超平面の中心を通過するものがn個,n−1次元超平面の辺(n−2次元超平面)を通過するものがn(n−1)/2個,n−1次元超平面の角(n−3次元超平面)を通過するものがn(n−1)(n−2)/6個,・・・で計2^n−1個,これが2つ併合されているから計2(2^n−1)個のボロノイベクトルがあることになる.
そして,これが圧縮されるとボロノイベクトルの数だけ面ができる.このことは,正単体を切稜・切頂することをイメージするとよいだろう.ともあれ,2次元の場合は正三角形を切頂した図形(台形)を2つ併せて正六角形になり,3次元の場合は正四面体を切稜・切頂すると正四面体の頂点は六角形,辺は四角形になるから,この図形を2つ併せると切頂八面体が得られる.同様に,4次元ではこの操作により頂点は切頂八面体,辺は六角柱の30胞体となる.
このように4次元の空間充填の基本形は30胞体となるのだが,一般にn次元空間の空間充填多胞体は正(n+1)胞体(構成要素数:2^n−1)を切稜・切頂した図形を2つ併せることによって得られる2(2^n−1)胞体である.この多胞体は安定かつ面数が最大の空間充填多胞体となる(コンウェイの舗石定理).
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ボロノイベクトルを使うと面の形を知ることもできることがおわかり頂けたであろうか.3次元では4組(8枚)の六角形面と3組(六枚)の四角形面からなる14面体が得られる.3次元空間を充填するとき,切頂八面体は各頂点の周りに4個ずつ集まる.1点に4個の多面体が会すると頂点や辺だけで接している多面体がなくなり,ボロノイ分割に対して安定となる.
4次元では5組(10個)の切頂八面体と10組(20個)の六角柱からなる30胞体となる.これはケルビンの立体の4次元版で,各頂点の周りに5個ずつ集まることになるのである.
ここで「n次元の舗石定理」をまとめておきたい.
[1]n次元空間充填では,各頂点の周りに少なくともn+1個の多面体が集まる(ルベーグ).
[2]n+1個のとき,ボロノイ細胞の面数は最大2(2^n−1)個で,安定な空間充填となる(コンウィイ).
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【3】5角形面への変換
[Q]同じ体積の泡が集まっているときに,境界面積が最小となる泡の形は何だろうか?
水和物の世界では,単独の空間充填多面体としてケルビンの14面体(4^66^8:α14面体)やウィリアムズの14面体(4^25^86^4:β14面体),2種類以上の多面体(曲面)の組合せによる空間充填としてはウィアの12面体・14面体の組合せ(5^12+5^126^2)以外にも12面体(5^12)と16面体(5^126^4)の2種類の組合せ,12面体(5^12),12面体(4^35^66^3),20面体(5^126^8)の3種類の組合せの知られている.
このことから,等積空間充填多面体では5角形の頻度が最も高いと事実を窺い知ることができるだろう.それに対して,切頂八面体を含むケルビンの14面体はまったく5角形面をもたない.14面体の面のかたちについては,オイラーの多面体定理より必然的に辺数5を中心とする分布をなすことが計算されるのだが,
[Q]どうして5角形の頻度が高くなるのだろうか?
たとえば,α14面体(4^66^8)の2つの[4,6,6]型頂点を連結した屋根状部分を90°回転させて[5,5,5]型頂点に組み替える位相幾何学的変換を行うと8個の五角形,4個の六角形,2個の四角形の面をもつβ14面体(4^25^86^4)ができあがる.
すべての面が六角形であるような多面体は存在しない.蜂の巣状六角形タイル貼りに五角形タイルを1つ入れるとその部分が盛り上がった曲面となる.五角形タイルの数を増やしていって12枚になったところで閉じた多面体となる.すなわち,6角形面を5角形面に変換することは平面構造からから球面構造への変換に繋がるものである.
真空中はともかく,水中の空間分割では丸くなることが重要な物理的要請になっていると考えられる.このような位相幾何学的変換によって,側面に5角形を有する効率の良い空間分割を実現しているものと想像されるのである.
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[補]fkをn次元多面体のk次元面の数とし,
(f0,f1,・・・,fn-2,fn-1)
を構成要素とするn次元正多胞体では,組み合わせ的方法によって,k次元胞数fkが求められます.たとえば,正単体では
fk=(n+1,k+1)
なのですが,k=n−1のときfk=n+1であって,胞数はn+1と計算されます.
同様に,双対立方体では
fk=2^k+1(n,k+1),k=n−1のとき,fk=2^n
立方体では
fk=2^n-k(n,k),k=n−1のとき,fk=2n
となります.
もちろん,
正単体:fk=(n+1,k+1)
双対立方体:fk=2^k+1(n,k+1)
立方体:fk=2^n-k(n,k)
はオイラー・ポアンカレの定理:
f0−f1+f2−・・・+(−1)^(n-1)fn-1=1−(−1)^n
すなわち,nが奇数なら2,偶数なら0を満たします.この定理は正多胞体に限らず,n次元凸多胞体について常に成立します.
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