■n角の穴をあけるドリル(その48)

 先日,東北大学工学部・発明工房にて,講演

  「藤原松三郎と掛谷宗一  《人工心臓をデザインする》」

を行った.今回のコラムではそのとき話す事のできなかった問題を補足して掲載することにしたい.

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【1】人工心臓への応用

 公転と自転を逆回転にした運動で,n=4のペリトロコイド曲線はロータリーエンジンとして実際に応用されているが,n=3のペリトロコイド曲線は人工心臓のコンパクト化に応用できると思われる.n=3の場合をアニメで見てみよう.

 これは藤原・掛谷の二角形を原型として設計したもので,心臓形のペリトロコイド曲線の中をローターが回転している.(その16)において,このペリトロコイド曲線をパスカルのリマソン(蝸牛線)と紹介したが,リマソンは4次曲線である.しかるに(その38)では8次曲線と記している.

 ペリトロコイド曲線はリマソンの拡張であって,n=3のペリトロコイド曲線は確かにリマソンに似ているのだが,どうやら(その16)では計算間違いがあったようだ.(その38)では代数曲線の次数を系統的に計算していて,nペリトロコイド曲線の次数は2(n+1)次が正しい.

 ところで,このモデルがすでに特許出願されているかどうかを調べてみたところ,カナダの特許がでていることがわかった(米国にも同じものがでている).

  http://patents.ic.go.ca/cipo/en/patent/1207089/images.html?

  page=2&section=drawings&modeificationDate=19930628&scale=25rotation=0

 カナダの特許は2点接触型なので,コンパクト性やアウトプットの性能,逆流量の面で3点接触型のペリトロコイド曲線に劣っているが,内周の形状がシンプルなので,製作が簡単で長期使用に向いているものと思われる.すなわち,ペリトロコイド曲線の基本原理をほぼ保ちながら設計した代物と考えられ,前述のアニメよりは以下の2タイプ(ルーローの二角形を原型として設計したものとフルヴィッツ・藤原の二角形を原型として設計したもの)によく似ている.

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【2】円弧ローターの変遷

 マイケル・ゴールドバーグの論文

  M. Goldberg, Rotors in polygons and polyhedra, Math Comput, 14(1960), 229-239

を読むと,これまで実にさまざまな円弧ローターが考案されていたことがわかる.

 とくに,n(>4)角形の中を回転するローターでは

  曲率半径が等しくない円弧を用いている不等辺型

  1つの弧に異なる曲率半径の円弧を接合した複合型

などが紹介されている.

 しかし,これらには本質的な無理があるように思える.初期のルーロー模型は徐々に複雑なものとなっていき,より複雑になるにしたがい,初期のエレガントさは徐々に失われてしまった感があるのだが,その点,私が考案したルーローの四角形は単純素朴なものといえるだろう.

 ルーローの四角形は完全な内転形でないなどの不備のあることが明らかになったが,それでも高精度の擬内転形となっている.以下,ルーローの四角形(擬内転形)とフルヴィッツ・藤原の四角形(内転形)のアニメを並べて掲げておく.

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