■ミンコフスキーの舗石定理(その2)
2次元充填の基本形は6角形,3次元充填の基本形は14面体である.それでは4次元,5次元,・・・,n次元での空間充填多面体の基本形はどうなるのだろう? どのような形になるのかを知る人はたとえいたとしても非常に少ないであろう.そこで(証明抜きで)次元論の敷石定理について解説する.
結論を先にいうと,「n次元の舗石定理」
[1]n次元空間充填では,各頂点の周りに少なくともn+1個の多面体が集まる(ルベーグ).
[2]n+1個のとき,空間充填の基本細胞の面数は最大2(2^n−1)個である(ミンコフスキー).
すなわち,平行多面体の最多面数は2次元では6角形,3次元では14面体,4次元では30胞体,5次元では62房体となるのである.
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【1】空間分割と14面体
空間分割の話にはいる前に,平面分割の幾何学的性質を調べてみよう.レンガのブロック積みを考える.3つのレンガが1点で出会うように平面を敷き詰めると,すべてのレンガは周りの6つのレンガに接することがわかる.お城の石垣でもタマネギの細胞でもこのような原則が成り立っていて,このことから平面充填図形の基本形は6角形であるといえる.6角形の1組の対辺を退化させると4角形になるが,それは6角形から2次的に派生したものと考えることができるだろう.
次に,空間分割のブロックモデルを考える.1段目を敷き詰めたあと,2段目も1段目と同じように敷き詰めるが,1段目のレンガのすべての頂点を2段目のレンガで覆うようにずらして積み重ねると,1段目のレンガの上には4つのレンガが載ることになる.3段目も同様に行うと同じ段に6,上の段に4,下の段にも4で合計14のレンガに接することになる.このことからレンガは元々14面体であって,それが普通のレンガの形に圧縮されたものと考えることができる.
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【2】空間分割漸化式
さて,[1]をもとにして高次元空間分割について考えてみよう.[1]で述べていることを漸化式に直してみると,
M2=6
M3=M2+2・4=M2+2・2^2
M4=M3+2・2^3=30
M5=M4+2・2^4=62
一般に
Mn−Mn-1=2(Mn-1−Mn-2)
より,
Mn=2(2^n−1)
が得られる.
すなわち,4次元では同じ段に14,上の段に8,下の段にも8で合計30,5次元では同じ段に30,上の段に16,下の段にも16で合計62のレンガに接することになるというわけである.n次元でも2次元,3次元同様のレンガのブロック積みを考えればうまくいくのである.
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【3】ヒントンの単体ブロックモデル
n次元空間充填ではどの頂点でも最低n+1個の多面体が出会わなければならない(ルベーグの舗石定理).すべての頂点でn+1個の多面体が出会う場合,n次元ボロノイ細胞の1個の頂点の周りにn個のn−1次元面が集まることがわかる.すなわち,単純多面体である.
このことからn次元空間充填ではn次元立方体ではなく,n次元正単体をイメージしたほうがわかりやすくなる.2次元の場合は正三角形を切頂した図形が正六角形になり,3次元空間でいえば,立方体を直接切頂して切頂八面体を作るのではなく,正四面体を切稜・切頂した図形として切頂八面体を作る操作を考えれば理解しやすくなるだろう.
実際,切頂八面体は正方形面を上にして置くと立方体(あるいは正八面体)を切頂した図形にみえるが,正六角形面を上にして置くと正四面体を切稜・切頂した図形になっていることがわかる.同様に,4次元ではこの操作により頂点は切頂八面体,辺は六角柱の30胞体となる.このように,4次元の空間充填の基本形は30胞体となるのだが,一般にn次元空間の空間充填多胞体は正単体を切稜・切頂した2(2^n−1)胞体となるというのがヒントンモデルである.
ヒントンモデルを定量的に表現すると,n次元空間の空間充填多胞体を正(n+1)胞体から構成する場合,頂点数はn+1個,辺数はn(n+1)/2個,面数は(n−1)n(n+1)/6個,・・・.
Σ(k=0~n-1)(n+1,k+1)=2^(n+1)−2
すなわち,構成要素数は計2(2^n−1)個であり,そしてこれが圧縮されると構成要素の数だけ(n−1)次元面ができる.
すなわち,このモデルによると,4次元では同じ段に10+10,上の段に5,下の段にも5で合計30,5次元では同じ段に15+20+15,上の段に6,下の段にも6で合計62のレンガに接することになるというわけである.
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【4】雑感
n次元の空間充填図形が立方格子を基にして導出されるという考え方からすれば,ヒントンの考察は頗る意外なものであろう.ヒントンの考察「はじめに単体ありき」は答えとしてはあっているのだが,自然な発想「はじめに格子ありき」とかけ離れていて,意外すぎて(少なくとも私にとっては)心理的抵抗感が大きく,面食らうばかりである.
ミンコフスキーの定理の簡単な証明について述べたが,2次元,3次元同様のレンガのブロック積みモデルは破綻していなかったのである.
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