先日,発泡スチロールカッターによる正多面体製作プロジェクトの件で,宮本次郎先生(釜石南高校)に仙台までお越しいただいた.前回の来仙の折り,ルーローの四面体の定幅図形からのズレは2.5%もあり,定幅図形でないことは明らかであるという話題になったのだが,再びその話も続きとなった.
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【1】マイスナーの論文
小生の記憶でも『ルーローの四面体とは正四面体(3次元単体)の各頂点を中心にして辺長を半径として球面を描くと作られる定幅曲面です.ルーローの三角形を3次元に拡張した図形であり,体積が最小となる定幅図形と信じられていますが,証明されてはいません.』となっているのだが,マイスナーの論文:
Meissner: Drei Gipsmodelle von Flaechen konstanter Breite, Z. Math. Phys. 60(1912),92-94
をあたってみたところ,マイスナーが定幅曲面の例としてあげているモデルは,
[1]フルヴィッツ・藤原曲線を対称軸の周りで回転させた回転面
[2]ルーローの円弧三角形を対称軸の周りで回転させた回転面
[3]4つの球面と3つのトーラス面よりなる非回転面
の3つである.
[1]のフルヴィッツ・藤原曲線は8次の定幅曲線である.これについては小生の書いたコラム「n角の穴をあけるドリル」シリーズを参照していただきたい.[3]はおそらくルーローの四面体を定幅図形に改良したものと思われる.いま問題となっている[2]は1つの球面と1つのトーラス面より構成されることになり,4つの球面からなるルーローの四面体とはまったく別物である.
小生に論文の読み間違いがあるかもしれないので,時間と費用ができたらこの回転体をNC加工してみて実際に定幅図形であるかどうかを調べてみたいと思う.
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【2】定幅立体の体積?
まず最初に,球面三角法を用いてルーローの四面体の体積を求めてみます.半径1の球面(単位球面)上に3点A,B,Cがあり,それぞれが大円の弧で結ばれているものとします.球面三角形ABCの3辺の長さ(球面距離)をa,b,cで表すとそれぞれ大円の中心角となります.すなわち,単位球では球面距離を中心角と同一視できるわけです.また,内角A,B,Cは大円同士が交わる面角の大きさです.
球面三角法の公式は多数ありますが,計算に便利なように単位球における式として与えられています.ここで用いるのは
cosc=cosa・cosb+sina・sinb・cosC
とその巡回置換,それに球面三角形ABCの面積Sを角過剰として表した
S=A+B+C−π
の2つだけです.
a=b=c=π/3より,cosC=1/3
A=B=C=arccos(1/3)
S=3arccos(1/3)−π
V=arccos(1/3)−π/3
一方,正四面体の体積V4はピタゴラスの定理を使えば中高生でも簡単に確かめることができると思われます.私の場合,計算力が鈍っているため,信頼率は50%以下と思われるのですが,
V4=√2/12
したがって,ルーローの四面体の体積は
4(V−V4)+V4
=4arccos(1/3)−4π/3−√2/4=0.381497
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次に,ルーローの円弧三角形を対称軸の周りで回転させた回転体の体積を求めてみます.
A(0,0),B=(√3/2,−1/2),C=(√3/2,1/2)
として,x軸の周りを回転させると
V=π(2/3−1/2arcsin√3/2)
=π(2/3−π/6)=0.449462
この数値も私が数式処理ソフトを用いずに手計算で求めた値であるので,信頼率は50%以下であることをお断りしておきます.
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ところが,ルーローの三角形を3次元に拡張したマイスナーの凸体の体積は
π(2/3−√3/4arccos(1/3))=0.41986
と書かれてある本もあり,事態はますます混沌としてしまいました.
マイスナーの凸体とは[3]を指すのでしょうか? それにしても,どうしてこういう誤解を生じてしまったのでしょうか?
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