■ある学会にて(日本結晶学会,その2)

 (その1)はあまり知られているとはいえないペンタドロンの販売促進を兼ねて行った講演であるが,もう一つ,誰も知らない話を用意した.まったく期待していなかったのであるが思った以上に興味深く受け入れられた.高次元離散幾何学の面目躍如である.

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【2】高次元結晶

 4次元,5次元,・・・,n次元での空間充填多面体の基本形はどうなるのだろう? どのような形になるのかを知る人はたとえいたとしても非常に少ないであろう.そこで,4種類の高次元結晶を構成してみた.

[1]ミンコフスキー結晶

 n次元空間充填では,各頂点の周りに少なくともn+1個の多面体が集まる(ルベーグ).そして,n+1個のとき,空間充填の基本細胞の面数は最大2(2^n−1)個である(ミンコフスキー).

 すなわち,2次元では6角形による平面充填であり,3次元では14面体(切頂八面体)による空間充填であるが,4次元では30胞体,5次元では62房体となるのである(平行多面体の最多面数).

 各頂点の周りに集まる多面体数が多くなると,広い面で接触していたものが辺接触に近くなり,力学的に不安定になる.したがって,各頂点の周りに集まる多面体数がn+1のとき,安定な空間充填となるというのが,ミンコフスキーの舗石定理の本質なのである.

 ミンコフスキー結晶は3次元では体心立方格子型結晶と一致するが,n次元では何に相当するのか正体不明(ミステリアス)である.

[2]体心立方格子型結晶(BCC結晶)

 これはn次元立方体を削りとることによって構成する準正多面体である.3次元では[1]に一致する切頂八面体であり,4次元では[3]に一致する正24面体となる.

[3]面心立方格子型結晶(FCC結晶)

 これはn次元立方体を削るのではなく逆に盛り上げることによって構成する.準正多面体ではない.3次元では菱形12面体となる.面は正則でないし,頂点次数も一様ではない.

 私のもっている技術(ワイソフ算術)では高次元準正多面体を扱うことはできても非準正多面体を扱うことはできない.しかし,この双対を考えると,準正多面体になるので,k次元面数などを求めることが可能になる.

[4]六方細密充填型結晶(HCP結晶)

 [3]を超平面上でねじることによってHCP結晶を作ることができる.またねじり操作によって,4回回転対称性は消失し,2回,3回回転対称性だけが残る.

 この図形は高次元正軸体の中心を通る超平面の切断面として得ることができるのであるが,このことがねじり操作を保証してくれるのである.

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