■パズルワールド散策(その12)

 今回のコラムでは,数列の次の項を予想するという数列のパズルを取り上げたいのですが,まず(その11)のカタラン数列{Cn}

  {Cn}={1,2,5,14,42,132,429,1430,4862,16796,・・・}

の補足から始めたいと思います.

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【1】カタラン数

 カタラン数は,凸n角形を対角線で三角形分割する仕方は何通りあるかとか,n対のかみ合い括弧の種類数などいろいろな場面で登場する数なのですが,

  Cn=2nCn/(n+1)=(2n)!/n!(n+1)!,

  Cn=2n+1Cn/(2n+1),

あるいは

  Cn=2nCn−2nCn-1=1,2,5,14,42,・・・

と表されます.

 カタラン数から一般項が何かを予想するのは難しいのですが,ここでは

  Cn=2nCn/(n+1)   (C0=1)

がわかっているものとして,母関数

  F(t)=ΣCnt^n   

を求めてみます.

 この級数は,第0項:C0=1から始まるので,そのまま項比をとると

  an+1xn+1/anxn=(n+1/2)(n+1)/(n+2)*4x/(n+1)

したがって,

  F(x)=2F1(1/2,1,2,4x)=2/{1+(1-4x)^(1/2)}

      ={1-(1-4x)^(1/2)}/2x

  (1-4x)^(1/2)=Σ(-4)^k1/2Ck・x^k

より

  Cn=-1/2(-4)^(n+1)1/2C(n+1)

これをさらに式変形すれば,

  Cn=2nCn/(n+1)

になる.この結果,二項展開を丹念に使えば

  {1-(1-4x)^(1/2)}/2x=Σ2nCnx^n/(n+1)

が得られるはず・・・.

 この方法は試してはいないのですが,かなり面倒そうです.実はカタラン数に対しては,漸化式

  Cn=ΣCkCn-k-1=C0Cn-1+C1Cn-2+・・・+Cn-1C0

が成り立つので,母関数は

  F(t)=ΣCnt^n=ΣCkt^kΣCn-k-1t^n-k+1

      =F(t)・tF(t)+1

すなわち,

  tF(t)^2−F(t)−1=0

なる2次方程式を満たすことが知られています.

 C0=1を満足させなければならないので,複号は負号をとると,

  F(t)={1-(1-4x)^(1/2)}/2x

がでてきます.

 凸n角形を対角線で三角形分割する仕方は何通りあるかという問題は,回転や反転で同型になるものを同じと数えると,

  1,1,1,3,4,12,27,82,228,733,2282,7528,・・・

となることを付記しておきたいと思います.

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【2】飽和炭化水素の構造異性体数

 炭化水素の中で単結合のみで構成されている飽和炭化水素(アルカン,パラフィン系)は分子式CkH2k+2をもつ.炭素原子Cの原子値は4,水素原子Hの原子値は1である.

    H       H H       H H H

    |       | |       | | |

  H−C−H   H−C−C−H   H−C−C−C−H

    |       | |       | | |

    H       H H       H H H

メタン,エタン,プロパンのCを・(頂点),C−C結合を−(辺)で表すことにすると,それぞれ

    ・       ・−・       ・−・−・

のようにグラフで表現できる.

 ブタン,ペンタン,ヘキサンは

  ・−・−・−・  ・−・−・−・−・   ・−・−・−・−・−・

となるが,それぞれに構造異性体があり,

(k=4)

    ・

  ・−・−・

(k=5)

      ・       ・

      |       |

  ・−・−・−・   ・−・−・

              |

              ・

(k=6)

        ・        ・        ・

        |        |        |

  ・−・−・−・−・  ・−・−・−・−・  ・−・−・−・

                          |

                          ・

    ・ ・

    | |

  ・−・−・−・

 すなわち,

  位数  :1,2,3,4,5,6,7, 8, 9,10, 11, 12, 13,・・・,k,・・・

  異性体数:1,1,1,2,3,5,9,18,35,75,159,357,799,・・・,f(k),・・・

となる.

 ところが,異性体数f(k)の一般的なkに対する数え上げ公式はないということである.また,同型でない木グラフの総数をg(k)とおくと

  位数  :1,2,3,4,5,6, 7, 8, 9, 10, 11,12,   13,・・・,k,・・・

  g(k):1,1,1,2,3,6,11,23,47,106,235,551,1301,・・・,g(k),・・・

 これらの詳細についてはコラム「飽和炭化水素の構造異性体数」を参照されたい.

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【3】円の最大分割数(その1)

(問)1つの円をn本の弦で分割する.その際,分割によってできる領域が最も多くなるようにする.最大分割領域数Snはいくつになるか?

(答)パンケーキをnスライスしたときの最大ピース数を求めよという問題ですが,この問題は実は円という条件を取り去っても同じ答えになります.すなわち,平面をn本の線で分割する.その際,分割によってできる領域が最も多くなるようにする.最大分割領域数Snはいくつになるか?

 分割される領域数が最大になるためには,新しい線(弦)を引くとき,それ以前のすべての線(弦)と新しい交点で交わるようにします.既存の交点を通ると分割される領域が最大数にならないからです.

  S0=1,S1=2,S2=4,S3=7

はすぐに求められます.このことからn本目の線(弦)を引くと新しい領域がn個増えることがわかります.これを式で表すと

  Sn=Sn-1+n

  Sn=Sn-1+n

  Sn-1=Sn-2+n−1

  ・・・・・・・・・・

  S1=S0+1

  S0=1

を辺々加えると,一般式

  Sn=1+(1+2+3+・・・+n)=1+n(n+1)/2

    =(n^2+n+2)/2

が得られます.

  S0=1,S1=2,S2=4,S3=7,

  S4=11,S5=16,S6=22,S7=29,

  S8=37,S9=46,S10=56,・・・

と続くというわけです.

 パンケーキではなく,ケーキをnスライスしたときの最大ピース数を求めよという問題では,

  Sn=(n+2)(n+3)/6

  S0=1,S1=2,S2=4,S3=8,

  S4=15,S5=26,S6=42,S7=64,

  S8=93,S9=130,S10=176,・・・

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【4】円の最大分割数(その2)

(問)円周上にn点をとり,円周上の点同士をすべて互いに弦で結ぶ.その際,円の分割によってできる領域が最も多くなるようにする.最大分割領域数Mnはいくつになるか?

(答)M1=1,M2=2は明らか.また,円に内接する三角形,四角形,五角形を描くと

  M3=4,M4=8,M5=16

このことから,

  Mn=2^(n-1)

であると予想されます.しかし,この式ではM0=1/2となってしまい,M0=1とならないことが気にかかるところです.

 n=6の場合を実際にやってみると,正六角形のように3本の線が1点で交わってしまう場合は最大領域数にならないのでNGですが,第6の点が既存の弦の交点を通らないように注意すると,M6=32ではなく,M6=31となることがわかります.

 ここで

  Mn=2^(n-1)

は間違いであることに気づかされるのですが,さらに

  M7=57,M8=99,M9=163

となり,数列

  {1,2,4,8,16,31,57,99,163,・・・}

は,公比2の等比数列

  {1,2,4,8,16,32,64,128,256,・・・}

から大きく離れていきます.

 それでは一般式はどのように表されるのでしょうか? 図を描きながらパターンを探してみると,円周上に3点がある場合は三角形の外側に3つの領域,内側に1つの領域,4点の場合は四角形の外側に4つの領域,内側に4つの領域ができる.

  4=3+1,8=4+4

 円周上に5点がある場合は五角形の外側に5つの領域,すぐ内側に10個の三角形領域,中心部に五角形がひとつある.

  16=5+10+1

 円周上に6点がある場合は六角形の外側に6つの領域,すぐ内側に18個の三角形領域,その内側に3つの五角形と3つの四角形,そして中心部に三角形がひとつある.

  31=6+18+6+1

 しかしこのパターンからはどうしてもこれといったアイディアが浮かばないのですが,領域の数は弦の数や交点の数と関係していることは明らかであって,前者はnC2,後者はnC4で計算されます.

 図なしにこれ以上説明することは難しいので,結論を述べますが

  [参]コンウィイ・ガイ「数の本」シュプリンガー・フェアラーク東京

には,すべての領域にラベルを与えると,ラベルを含む数の個数は0,1,2,3,4のいずれかであって,2項係数の和

  Mn=n-1C0+n-1C1+n-1C2+n-1C3+n-1C4

    =1+(n−1)+(n−1)(n−2)/2+(n−1)(n−2)(n−3)/6+(n−1)(n−2)(n−3)(n−4)/24

    =(n^4−6n^3+23n^2−18n+24)/24 

となることが示されています.

 パスカルの三角形のはじめの5項の和というわけですが,

  n-1C0+n-1C1+n-1C2+n-1C3+n-1C4+・・・+n-1Cn-1=2^(n-1)

ですから,nが大きくなればその答えは2^(n-1)からますます離れていくというわけです.

  M1=1,M2=2,M3=4,M4=8,M5=16,

  M6=31,M7=57,M8=99,M9=163,M10=256,

  M11=386,M12=562,M13=794,M14=1093,

  M15=1471,M16=1941,M17=2517,M18=3214,

  M19=4048,M20=5036,M21=6196,M22=7547,

  M23=9109,M24=10903,M25=12951,M26=15276,

  M27=17902,M28=20854,M29=24158,M30=27841,

  M31=31931,・・・

 数列

  {Mn}={1,2,4,8,16,31,57,99,163,・・・}

をこの問題を提起したモーザーにちなんでモーザー数列と呼ぶことにすると,モーザー数列は先入観から間違った答えを予想してしまう例としてしばしば引き合いにだされるものになっています.

 なお,カタラン数列のはじめの4項1,2,5,14は初項1から始まって前項を3倍して1を引いたものに一致するのですが,5項目以降は異なってしまいます.

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【5】畳の敷き方数

(問)n×2mの長方形の部屋にn×m枚の畳を敷く場合の敷き方は何通りあるか?

(答)

m/n 1 2 3 4 5

1 1 2 3 5 8

2 1 5 11 36 95

3 1 13 41 281 1183

4 1 34 153 2245 14824

5 1 89 571 18061 185928

 m=1の行はフィボナッチ数列となるのですが,その他の行はどのような数列になるのでしょうか? トリボナッチ数列,テトラナッチ数列,ペンタナッチ数列,ヘキサナッチ数列・・・とその変形(an=an-2+an-5,an=an-2+an-3(パドヴァン数列・ペラン数列),an=an-1+an-3,an=2an-1+an-2(ペル数列),an=an-2+an-3+an-4,・・・)でないことはすでに検討済みです.

 しかし,an=(an-1)^2−an-2のような数列の可能性があり,手がかりを求めて,

  [参]Sloane, A handbook of integer sequences, Academic Press

を参照してみたのですが,該当する数列は掲載されておりませんでした.

 なお,(n,2m)=(6,6)の場合に分断線が現れないように畳を敷くことができません.それ以外の場合は分断線が生じないように畳を敷くことができることが証明されています.

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