■わが闘争・2007

 今年は途中でパソコンが壊れたため,2,3カ月連載を休むことになったが,それでも100を超える記事を書くことができた.締めくくりとしてそれらをいくつかのジャンルに分類して,ダイジェスト版で紹介したい.

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【1】n角の穴をあけるドリル

 今年の前半はn角の穴をあけるドリルの設計で明け暮れたが,その甲斐あってこのシリーズでは多くの画像をアニメ化することができた.

 ルーローの三角形の動きをアニメ化しているものはあるが,藤原・掛谷の二角形の動きは他では見ることができないものだろう.また,円弧(2次曲線)を使ったn角の穴をあけるドリルのみならず,アステロイドの平行曲線の一般化による内転形の設計も本HPが初出ではないかと思われる.

 この曲線をフルヴィッツ・藤原曲線と呼ぶことにしたのだが,正n角形に内接しながら回転することができる図形を与えてくれる.その際,正n角形の内部でフルヴィッツ・藤原曲線の中心が円軌道を描くことは,数学者が見落とした重要な結果である.

 また,順回転の運動を逆回転に変えたものでは,n=4のペリトロコイド曲線はロータリーエンジンとして実際に応用されているが,n=3(パスカルのリマソン)は人工心臓のコンパクト化に応用できると思われる.これらをすべてアニメで見ることができる.

[1]長さが1である線分を1回転させるのに必要な最小面積の図形は何か.

[2]正三角形に内接しながら回転することができる円以外の図形は何か.

前者は有名な「掛谷の問題」であり,また,後者の解としては「藤原・掛谷の2角形」があげられる.

 藤原松三郎と掛谷宗一は東北大学創立当時の教官であるが,今年はちょうど東北大学創立100周年にあたっていることもあって「藤原松三郎と掛谷宗一」,サブタイトル「人工心臓をデザインする」を記念講演できることは実に光栄であった.

 コラム「アステロイドの平行曲線」,「デルトイドの平行曲線」は藤原の問題に,「デルトイドの幾何学」は掛谷の問題に関係した話題を取り扱ったものである.また,コラム「トロコイドの幾何学」ではハイポサイクロイドなどの対称図形が二面体群Dnを用いて,

  D1:F(x^2+y^2,x)

  D2:F(x^2+y^2,x^2)

  D3:F(x^2+y^2,x(x^2−3y^2))

  D4:F(x^2+y^2,x^2y^2)

と表される代数曲線であることを示したものである.

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【2】中川宏の木工多面体

 今年も中川宏さんとのジョイントで,いろいろな多面体の性質を発見することができた.コラム「ボロノイ細胞と平行多面体」では工藤の三角錐を4等分した中川の六面体を組み合わせると,切頂八面体(FCC)と菱形十二面体(BCC)が相互移行できることを示した.

 さらに,中川の六面体の2分割体を用いることによって,切頂八面体→菱形十二面体→立方体へと移行できることもわかる.すなわち,中川六面体の2分割体は立方体・菱形12面体・切頂八面体に対する三重の空間充填図形であるが,これらはいろいろな物理作用(相転移)を説明するために利用できると思われる.

 また,コラム「陽馬の木工製作」で紹介した「九章算術」の立方体,塹堵(ぜんと),陽馬,鼈臑(べつどう)はピースを並べ替えて等積変形により立体の体積を求積するもので,三角錐や角錐台の体積公式を得るときなどに用いられる.たとえば,陽馬は底面積と高さの等しい錐体の体積は柱体の体積の1/3であることを示すのに数学教育上重要な立体である.陽馬の2分割体が鼈臑である.鼈臑を並べ替えると三角柱を作ることもできる.その意味で,これらの多面体は同じく中国生まれの「タングラム」の立体版と考えられる.

 工藤の三角錐は4個の合同な中川の六面体に分割できるが,2対の鼈臑にも分割可能で,さらに工藤三角錐を分割するとフェドロフの空間充填平行多面体(立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体,切頂8面体の5種類)すべてに変形させることができることもわかった.中川宏さんの超日常的な発想の賜物であった.

 また,ダブル充填図形としては工藤の三角錐や鼈臑(べつどう),中村の三角錐があげられる.パウル・シャッツ立体は鼈臑を一般化した立体と考えることができる.それを6個組み合わせたパウル・シャッツ環は連続回転可能な多面体の輪になっている.

 コラム「パズルワールド散策」ではいろいろな平面分割,空間分割を取り上げたが,これも中川さんのお仕事に関係した内容になっている.

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【3】数学愛好者の紹介

 ご存知「奇数ゼータと杉岡の公式」は杉岡幹生氏の結果を取り上げたシリーズである.オイラーのゼータ関数の計算の仕方をオイラーシステムと呼ぶことにすると,杉岡氏の計算方法はいろいろな無限級数を用いるもので,氏はそれをテイラーシステムと名付けている.

 他にも高校3年生の黄瑞庭君の結果を紹介したコラム「代数曲線の接線,代数曲面の接平面」,京都府在住の藤本実さんが学生時代に発見した公式を紹介したコラム「素数を表す公式(藤本の公式)」などがある.

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【4】数学の問題

 「因数分解の算法(その19)」は複素整数,四元整数,八元整数に対して素因数分解の一意性を調べた記事である.

 未解決問題の解決と部分解決を扱ったコラムとしては

  「ポアンカレ予想が解かれた」

  「カタラン予想の解決」

  「佐藤sin^2予想」

  「変形する多面体とふいご予想」

 また,関数や公式の拡張に関するものでは

  「レムニスケート積分の拡張」

  「三角関数の拡張」

  「ピックの公式の拡張」

  「フィボナッチ数列の三角関数表現」

などがある.

 最後に,コラム「無理数・代数的数・超越数」の中からは分布法則を2つ紹介しておきたい.ひとつは物理学者・ベンフォードの法則.先頭の数字がどのような確率で出現するかを考えよう.単純に各数字(0〜9)の出現確率が同じと考えれば,同じ確率1/9で現れるはずであるが,実際には1から始まる数値が圧倒的に多く30%くらいもある.

  1→log102=0.3010,

  2→log103/2=0.1761,

  3→log104/3,

  ・・・・・・・・・,

  9→log1010/9=.0458

 しかし,ある値が乗法的なファクターに従属する場合,対数に移しかえれば乗法的問題は加法的問題に移行するから,その値の対数は一様な分布をしていなければならない.その結果,1から始まる数は2から始まる数よりもずっと頻繁に,2から始まる数は3から始まる数よりも頻繁に登場することを意味している.

 もうひとつは,ワイルの一様分布定理.無理数γを与えたとき,nγの非整数部分{nγ},n^2γの非整数部分{n^2γ}のn=1,2,3,・・・としたときの分布についての定理で,

[1]γが無理数であれば{nγ}は区間[0,1)において一様分布する

[2]γが無理数であれば{n^2γ}は区間[0,1)で一様分布する

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