■媒介変数表示の代数曲線化(その4)
アステロイド:f(x,y)=(x^2+y^2−4)^3+108x^2y^2=0
カージオイド:f(x,y)=(x^2+y^2−2x)^2−4(x^2+y^2)=0
ネフロイド:f(x,y)=(x^2+y^2−4)^3−108x^2=0
デルトイド:f(x,y)=(x^2+y^2+9)^2+8x(3y^2−x^2)−108=0
などの方程式は,それぞれの代数曲線の対称性を表現していると考えられます.
たとえば,カージオイドとデルトイドでは多項式にx項が含まれているため,y軸に関して対称ではありません.今回のコラムでは2変数多項式の対称性について調べてみましょう.
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【1】対称多項式
直線y=xに関する裏返しによって,点(x,y)は点(y,x)に移ります.そして多項式fが任意のx,yについて
f(y,x)=f(x,y)
となるとき,対称多項式といいます.
g(x)={g(x)+g(−x)}/2+{g(x)−g(−x)}/2
より,任意の関数は偶関数と奇関数の和として表すことができますから,
u=x+y,v=x−y,x=(u+v)/2,y=(u−v)/2
として,新しい座標系を導入すると
f(x,y)=F(u,v)
x,yを入れ替えるとu→u,v→−vですから,f(y,x)=f(x,y)よりF(u,−v)=F(u,v).したがって,変数vは偶数乗v^2nの形で入っていることになります.すなわち,
f(x,y)=F(u,v^2)=F(x+y,(x−y)^2)
であることがわかります.
また,(x−y)^2=(x+y)^2−4xyとなって,
f(x,y)=F(x+y,xy)
このように,対称多項式は2つの変数の和と積:x+y,xyの多項式の形に表すことができます.σ1=x+y,σ2=xyは2変数基本対称式と呼ばれますが,任意の2変数対称式は基本対称式の多項式の形に表されます.
例として
sn=x^n+y^n
を考えると
sn=(x+y)(x^n-1+y^n-1)−xy(x^n-2+y^n-2)
=σ1sn-1−σ2sn-2
であることがわかります.この漸化式をいくつか書き下してみると
s0=2
s1=σ1
s2=σ1^2−2σ2
s3=σ1^3−3σ1σ2
s4=σ1^4−4σ1^2σ2+2σ2^2
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【2】対称多項式の拡張(D1)
n次多項式:f(x)=a0x^n+a1x^(n-1)+・・・+an-1x+an
が関係式
f(x)=f(-1-x)(-1)^n
を満たすとき,n次対称多項式と呼ぶことにします.
0次対称多項式:f(x)=c(定数関数)
1次対称多項式:f(x)=x+1/2,f(x)=ax+a/2
2次対称多項式:f(x)=ax^2+ax+c
n次対称多項式:f(x)=ax^n+a(1+x)^n
などはその例です.すなわち,xの代わりに−1−xを代入すると,nが奇数のとき符号が交代,nが偶数のとき交代しない関数が対称多項式です.
f(x)=f(-1-x)(-1)^n
の両辺を微分すると
f'(x)=f'(-1-x)(-1)^(n-1)
f"(x)=f"(-1-x)(-1)^(n-2)
(n-k)次導関数も対称多項式になります.x=0とおくと,n次多項式:f(x)=a0x^n+a1x^(n-1)+・・・+an-1x+anが対称多項式であるための必要十分条件は
f(k)(0)=f(k)(-1)(-1)^(n-k) (k=0~n)
が成り立つことであることがわかります.そのためには係数の間に関係式
{1+(-1)^(k-1)}ak=Σ(n-i,n-k)ai(-1)^i (k=0~n)
が成り立たねばなりません.
また,s次対称多項式Fs(x)を適当に選んで
f(x)=ΣcsFn-s(x)
がn次対称多項式になるためにはc2k+1=0が成り立たねばなりません.
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[1]ベルヌーイ多項式
B0(x)=1,B2k+1(0)=0,B's(x)=Bs-1(x)
を満たすs次対称多項式をベルヌーイ多項式Bs(x)として定義します.この条件より帰納的にBs(x)を求めることができます.
また,文献によって定義の仕方が異なるのですが,ここではベルヌーイ数を
Br=(2r)!(-1)^(r-1)B2r(0)
として定義します.たとえば,
B1=1/6,B2=1/30,B3=1/42,B4=1/30,B5=5/66,B6=691/2730
[2]オイラー多項式Es(x)
E0(x)=1/2,E2k(0)=0,E's(x)=Es-1(x)
を満たすs次対称多項式をオイラー多項式Es(x)として帰納的に定義します.また,タンジェント数を
Tr=(2r-1)!2^2r(-1)^(r-1)E2r-1(0)
で定義しておきます.
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ベルヌーイ多項式やオイラー多項式のような例も含めることにすると,対称多項式を直線y=xに関する裏返し以外にも拡張しておくほうが便利です.任意の直線:ax+by+c=0に関する裏返しによって,点(x,y)が点(X,Y)に移るとしましょう.簡単な計算によって
X=−{(a^2−b^2)x+2a(by+c)}/(a^2+b^2)
Y=−{(b^2−a^2)y+2b(ax+c)}/(a^2+b^2)
このときの不変量として
aX+bY=ax+by
bX−aY=bx−ay
が成立します.したがって,
f(X,Y)=f(x,y)
となるとき,この多項式は和と差の平方:
f(ax+by,(ay−bx)^2)
の多項式の形に表すことができることがわかります.
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【3】対称多項式の拡張(Cn)
ここまでは群D1(恒等変換と裏返しでできている群)を考えましたが,ここでは群Cn,原点を中心として2π/nの整数倍の回転で変わらない多項式を考えてみます.
x=rcosφ,y=rsinφ,θ=2π/n,k=0〜n−1とおくと
[X]=[coskθ,−sinkθ][x]=[rcos(kθ+φ)]
[Y] [sinkθ, coskθ][y] [rsin(kθ+φ)]
f(X,Y)=f(x,y)
のとき,
X^2+Y^2=x^2+y^2=r^2
は不変量のひとつとなりますが,nに依存する不変量
r^ncosnφ,r^nsinnφ
もθの整数倍回転で不変です.
n=1のとき
rcosφ=x
rsinφ=y
n=2のとき
r^2cos2φ=r^2(cos^2φ−sin^2φ)=x^2−y^2
r^2sin2φ=2cosφsinφ=2xy
n=3のとき
r^3cos3φ=r^3(cos2φcosφ−sin2φsinφ)=(x^2−y^2)x−(2xy)y=x^3−3xy^2
r^3sin3φ=r^3(sin2φcosφ+cos2φsinφ)=(2xy)x+(x^2−y^2)y=3x^2y−y^3
n=4のとき
r^4cos4φ=r^4(cos3φcosφ−sin3φsinφ)
=(x^3−3xy^2)x−(3x^2y−y^3)y=x^4−6x^2y^2+y^4 r^4sin4φ=r^4(sin3φcosφ+cos3φsinφ)
=(3x^2y−y^3)x+(x^3−3xy^2)y=4x^3y−4xy^3
複素数を使うと証明は簡単になります.証明は略しますが,
(x+yi)^n=r^n(cosφ+isinφ)^n=r^ncosnφ+ir^nsinnφ
となって,r^ncosnφ,r^nsinnφはそれぞれ(x+yi)^nの実部と虚部であることはおわかり頂けるでしょう.
ともあれ,群Cnで不変な多項式はすべてr^2,r^ncosnφ,r^nsinnφの多項式となるのです.
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【4】対称多項式の拡張(Dn)
次に,群Dnに関して不変な多項式を考えます.群Dnは群Cnに裏返しを加えたもので,このとき,x軸に関する裏返しという制約をつけても一般性は失われません.x軸に関する裏返しでは,φ→−φより
r^2→r^2,
r^ncosnφ→r^ncosnφ,
r^nsinnφ→−r^nsinnφ
したがって,r^nsinnφは偶数乗の形でしか現れませんから,
F(r^2,r^ncosnφ,(r^nsinnφ)^2)
=F(r^2,r^ncosnφ,(r^2)^n−(r^ncosnφ)^2)
=F(r^2,r^ncosnφ)
より,群Dnで不変な多項式はすべてr^2,r^ncosnφの多項式となるのです.
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【5】トロコイドへの応用
アステロイドはD4,カージオイドはD1,ネフロイドはD2,デルトイドはD3の対称性を有する代数曲線ですから,r^2=x^2+y^2,r^ncosnφの多項式になります.
r^ncosnφはそれぞれ,
x^4−6x^2y^2+y^4=(x^2+y^2)^2−10x^2y^2
x
x^2−y^2=(x^2+y^2)−2y^2=−(x^2+y^2)+2x^2
x^3−3xy^2=x(x^2−3y^2)
よりF(x^2+y^2,x^2y^2),F(x^2+y^2,x),F(x^2+y^2,x^2),F(x^2+y^2,x(x^2−3y^2))で表されることがわかります.
一般に,
x=r1cosω1t+r2cosω2t
y=r1sinω1t+r2sinω2t
は,ω2=−ω1のとき楕円を描きますが,
ω1/ω2=k,r2/r1=|k|
という比をもつとき,kサイクロイドを描くことになります.
kが無理数のときは代数的ではなく,半径がr1+r2,|r1−r2|の2つの円で囲まれた環状領域を埋めつくします.kが有理数のときは周期的となり,サイクロイドは代数曲線であることが証明されます.
(証)この曲線は半径r1の円と半径r2の円の回転運動の組み合わせになるわけですが,前者の周期は2π/ω1,後者の周期は2π/ω2となりますから,後者が1回転したとき,前者はまだω1/ω2回転しかしていません.周期的となるためには両者が同時に整数N回転しなければなりません.
このとき,サイクロイドはDNの対称性をもつことになりますが,関数r^NcosNφはx,yのN次の同次多項式となることが帰納法で簡単に証明できるので,サイクロイドが多項式(代数曲線)になることは明らかです.
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