2本の帯の下に紙幣をいれるといつのまにか1本の帯の下に移っているという財布のトリックはよく知られている.そのトリックの秘密は蝶番の構造にあり,財布を両側から開けることができる.
正四面体の相対する稜は互いに直交している.8個以上の正四面体を稜同士を蝶番でつないでできる輪は,内と外が入れ替わりあうように連続的に回転することができる.正四面体でなく,細長くかつ平たい四面体では6個(鏡像体を3個ずつ交互に)をつなくだけでも回転する.
もう少しずんぐりした四面体を数個(6個とは限らない)で同様の立体を構成できる.また,適当な稜が蝶番でつながれた6つの立方体の輪も連続的に回転することができる.これらはくり返し裏返せる多面体の輪になっているというわけで,撹拌装置の原理として広く使われている.
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【1】パウル・シャッツ立体
とくに,6辺の辺長が
1,a,a,2a,2a,√5a (a=1/√3)
の四面体の鏡像体を辺長aの辺で3個ずつ交互に連結し環状に閉じたものは,3セットで辺長1の立方体に収まるという空間充填立体(1/18立方体)でもある特別な多面体の輪であり,パウル・シャッツ(Paul Schatz)により発見されたものであるという.
また,空間充填三角錐でかつその展開図が平面充填図形となっている立体として
[1]v=3:工藤の三角錐(二等辺三角形)
[2]v=4:工藤の三角錐(平行四辺形)
[3]v=5:中村の三角錐(平行六辺形を2等分した五角形)
[4]v=6:鼈臑(平行六辺形),パウル・シャッツ立体(平行六辺形)
にリストアップすることもできるだろう.
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【2】パウル・シャッツ立体の計量
パウル・シャッツ立体は2種類の直角三角形
(1,a,2a)2枚・・・・・内角30°と60°
(a,2a,√5a)2枚・・・内角27°と63°(=arctan2)
からなる四面体である(a=1/√3).
相対する1組の稜(辺長aの辺)は直交し,4頂点の座標は
A(0,0,0)
B(1,0,0)
C(0,a,0)
D(1,0,a)
と表せる.これをもとにして二面角を計算すると,
30°,75.5225°,90°
となる.
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【3】パウル・シャッツ環の木工製作
以下に中川宏さんにお願いして木工製作してもらったパウル・シャッツ立体とパウル・シャッツ環を掲げる.
1:a:aの直方体を2分割し,塹堵(ぜんと)型2個を作る.さらにそれを2:1に分割すると陽馬型と鼈臑(べつどう)型ができる.この鼈臑型がパウル・シャッツ立体である.
パウル・シャッツ環はパウル・シャッツ立体3対を使ったサメの顎のような動くおもちゃで,輪郭が正六角形となるとき中央には正三角形の穴があき,中央の穴が閉じたとき片面は正三角形の平面になる.
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