朝鮮サイコロ(old Korean dice)は正方形6枚と六角形(正六角形ではない)8枚の2種類の面をもつ14面サイコロです.普通の立方体のサイコロの8つの角を三角に切り落とした形(切頂立方体)で,球に外接しかつS^3/V^2比が最小となる14面体です.
この多面体は内接球をもちますから,中心から各面までの距離は同じです.正方形面(S4)と六角形面(S6)の面積は異なりますが,
S4:S6=8:9
と簡単な整数比になります.今回のコラムでは答えが簡単な整数比になる幾何の問題を取り上げてみます.
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[Q1]同一の円に内接・外接する2つの正六角形を考える.小さい正六角形の面積が3のとき,大きい正六角形の面積は?
[A1]小さい正六角形の頂点と大きい正六角形の辺の中点が一致するように,外側の正六角形を回転させる.次に円の中心と内側の正六角形の頂点を結び,内側の正六角形を正三角形で6等分する.さらに正三角形の重心と頂点を結び,内角30°,30°,120°の二等辺三角形で内側の正六角形を18等分する.
このように線でわけると「麻の葉文様」の24個の合同な三角形ができる.そのうち18個が小さな正六角形を形作る.面積比は18:24=3:4であるから,大きい正六角形の面積は4となる.この問題に三角関数は不要であって,計算してはならない問題なのである.
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[Q2]1辺の長さが2の正方形に内接する正十二角形の面積は?
[A2]2×2正方形は16個の合同な正三角形と32個の合同な二等辺三角形(内角15°,15°,150°)に分割される.正十二角形は12個の正三角形と24個の二等辺三角形により形作られる.したがって,この正十二角形の面積は3である.すなわち,半径1の円に内接する正十二角形の面積は3であるという円周率πの近似を与えていることになる.
この問題は1898年にハンガリーの数学者キルシェクにより十二角形の面積が決定されたもので「キルシェクのタイル」と呼ばれる.正方形の中に各辺を1辺とする正三角形を4個作る.次に正三角形の頂点で正方形の中にあるもの同士を結んで正方形を作る.すると,正方形の各辺の中点4個と4つの正三角形の交点8個で正十二角形ができる.このように,正三角形の頂点を結んで作られた正方形と正十二角形がキルシェクのタイルの基本形となる.
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[Q3]縦横が整数比の長方形のビリヤード台がある.1つの隅から球を45°の角度で打ち出すと,何回か跳ね返ってから4隅のうちの1つに達する.このとき跳ね返る回数は?
[A3]この問題に対する基本的な考え方は,球を反射させる代わりに,ビリヤード台の鏡像を枠の外に作ってやるというものである.すなわち,軌道自体を折り曲げる代わりに衝突するたびに衝突した辺を軸にビリヤード台自身をひっくり返すのである.このような図形を鏡像群と呼べば,鏡像群を貫く直線がビリヤード球の軌跡に対応し,球の折れ線の路は直線で置き換えられる.
球の経路を求める際に直角二等辺三角形ができるためには,ビリヤード台の縦横の整数比(既約)をp:qとすると,縦方向にq−1回,横方向にp−1回折り返せばよいので,跳ね返る回数はp+q−2回となる.
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【あとがき】
コラム「ボロノイ細胞と平行多面体(その19)」ではダブル充填図形を取り扱った.『立方体が空間充填図形であることは明らかである.立方体の展開図は11種類あり,意外なことにそのすべてが平面充填図形となる.』と書いたのだが,コラム「パズルワールド散策(その6)」では『回転や反転で同型になるものは同じと数えると,モノミノ(1),ドミノ(1),トロミノ(2),テトロミノ(5),ペントミノ(12),ヘキソミノ(35),ヘプトミノ(108),オクトミノ(369),・・・』すなわち,ヘキソミノは全部で35種類ある.
ヘキソミノは6つの正方形を組み合わせた平面図形であるから,両者の主張は矛盾しているようにも聞こえるかもしれない.しかし,ヘキソミノの中には立方体の展開図にならないものも含まれているのであって,矛盾にはあたらない.
立方体の展開するには8頂点すべてにはさみを入れることが必要で,その辺のうち7本を切り離して展開してできる図形が展開図である.立方体の展開図とヘキソミノはイコールではないのである.
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