■πとeの話(その12)
【1】中心極限定理
キュムラント母関数を用いて,「独立な確率変数xiがいずれも同一の平均値μと分散σ2をもつような任意の分布に対して,その標本平均の確率分布はn→∞の極限で正規分布N(μ,σ^2/n)になる」を証明してみましょう.
(証明)独立な確率変数xiがいずれも同一の平均値μ,分散σ^2と積率母関数M(t)をもつものとすると,n個の変数の和s=x1+x2+・・・+xnの積率母関数は,
M(t)=[Mx(t)]^n
したがって,z=s/√(n)とすると,その積率母関数は
Mz(t)=[Mx(t/√(n))]^n
これよりzのキュムラント母関数は
nlogMx(t/√(n))=n{κ1t/√(n)+κ2/2t^2/n+κ3/6(t/√(n))^3+・・・}
=√(n)μt+σ2/2t^2+κ3/6t^3/√(n)+・・・
r次のキュムラントはκrn^(-r/2+1)となって,n→∞のとき,3次以上のキュムラントが0に近づく.すなわち,s/√nはN(√nμ,σ2)に収束する.(厳密な証明ではありません)
このような内容の定理を「中心極限定理」といい,自然界における正規分布の普遍性を説明する1つの根拠とされています.中心極限定理にはいろいろなバリエーションがあり,s=(x1+x2+・・・+xn)とすると,標本平均s/nが適当な条件のもとで正規分布N(μ,σ^2/n)に,s/√nがN(√nμ,σ2)に,あるいはsがN(nμ,nσ2)に収束することを示したものの総称です.
たくさんの確率変数の和は,各々の確率分布の形によらず,普遍的な正規分布に従うという事実は,いい換えれば,巨視的なアウトラインは微視的なディテールには依存せず,平均値や分散など大まかな性質だけで決まってしまうというものであり,量子論におけるくりこみの考え方に似ています.すなわち,中間状態のたし上げは1種の平均操作であり,その結果,微視的なディテールは見えなくなって,巨視的に意味のあるものだけが残るのだと考えられます.
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