■ピックの公式の拡張(その1)

 ピックの公式(1899年)とは,任意の格子多角形の面積が以下の式で表されるというものである.

  A=I+B/2−1

   A:格子多角形の面積

   I:内部の点の個数

   B:境界線上の点の個数

 すなわち,格子点平面の折れ線で囲まれた面積は(凸であれ凹であれ)格子点の数で表せるという「格子の幾何学」の美しい公式である.

 ピックの定理を一般化して,3次元格子上に頂点をもつ多面体の体積公式を作ることができるだろうか? 実は,3次元の任意の格子多面体に対しては内部や境界面上の点の個数から体積を求める式はないことが証明されている(リーブ,1957).

 凸格子点多面体に限ると,すべての凸格子点多面体に対して成り立つ公式は存在するのだが,それでも非常に複雑なものになるという.

  [参]「スチュアート教授のおもしろ数学入門」日経サイエンス社

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【1】格子長方形を考える

 ピックの公式の特別な場合として,単純な図形を考えてみよう.この公式は格子長方形(縦a,横b,面積ab)の場合を考えるとわかりやすい.

  全格子点数=(a+1)(b+1)

  内部の格子点数=(a−1)(b−1)=I

  境界線上の格子点数=全格子点数−内部の格子点数=2(a+b)=B

したがって,

  I+B/2−1=(a−1)(b−1)+(a+b)−1=ab=A

となる.

 また,この格子長方形(縦a,横b,面積ab)にもう一つの格子長方形(縦c,横d,面積cd)を辺同士で貼り付けると,1辺は重なり,境界線の上の点の一部は合体し,その両端以外は内部の点に移行するから,公式の形は加法的に保たれる.一般にピックの公式が成り立っている2つの格子多角形について,それをくっつけても公式は成り立つ.

 ピックの公式は長方形に対して成り立つことがわかったが,長方形に対して成り立つならば直角三角形に対して成り立つ→任意の三角形に対して成り立つ→任意の格子多角形に対しても成り立つというわけである.

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【2】格子直方体を考える

 縦a,横b,奥行きc,体積abcの直方体の場合を考える.

  全格子点数=(a+1)(b+1)(c+1)

  内部の格子点数=(a−1)(b−1)(c−1)

  面上の格子点数=2(a+1)(b+1)+2(a+b)(c−1)

  辺上の格子点数=4(a+b)+4(c−1)

すると

  内部の格子点数+面上の格子点数/2−辺上の格子点数/4−1=abc

 すなわち,

  体積=内部の格子点数+面上の格子点数/2−辺上の格子点数/4−1

となっていて,単純な直方体の場合には非常に見やすい公式が得られたことになる.なお,頂点および辺上の格子点は面上の格子点としても計2回カウントされていることに注意されたい.

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【3】格子直方体の貼り付け

 単純な直方体の場合の公式を2つの直方体の面同士の貼り付けの場合に適用させる場合,内部の格子点数,面上の格子点数は通常どおりに数えるのだが,辺上の格子点数を数える場合は+1,0,−1の付け替えが必要になる.

 谷折り辺の中間部の点は+1ではなく−1,谷折り辺同士が合流する点は+1ではなく0と数えることにするとつじつまが合うようになるのだが,公式の加法性を保つためには算入法に工夫を凝らさなければならないことがわかる.

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【4】一般の場合への拡張

  体積=内部の格子点数+面上の格子点数/2−辺上の格子点数/4−1

が任意の格子多面体に対して成り立つならば話は簡単なのだが,そうは問屋が卸さない.

  体積=内部の格子点数+面上の格子点数/2−辺上の格子点数/4−1

が成立しない反例をあげると,4点(0,0,0),(1,0,0),(0,1,0),(1,1,z)を頂点とする三角錐(体積z/6)では,

  内部の格子点数=0

  面上の格子点数=4

  辺上の格子点数=4

より

  内部の格子点数+面上の格子点数/2−辺上の格子点数/4−1=0

 凸格子点多面体に限っても,一般の場合に適用させようとすると,ここに掲げることができないほど複雑なものになる.半整数格子を導入すればこれが可能になるのだが,これについてはリーブの論文が参考になるとのことである.論文を取り寄せてから改めてレポートしたい.

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