空間充填立体でかつその展開図が平面充填図形となっているものをダブル充填図形と呼ぶ.このシリーズで取り上げたダブル充填図形としては,工藤の三角錐や鼈臑(べつどう)があげられる.
工藤の三角錐は空間充填立体(space filler)であるとともに,その展開図(三角形であれ平行四辺形であれ)も平面充填図形になっている.すなわち,ダブル充填可能というすばらしい利点をもっていて,ひとつには隙間なく詰め込めるので保管が効率的に行えること,2つ目のメリットはテトラパックの型紙(平行四辺形,長方形)を大きなロール紙から無駄なく裁断できるという点である.
今回のコラムではダブル充填図形についてまとめてみたいのだが,たとえば,中川六面体の2分割体は立方体・菱形12面体・切頂八面体に対する三重の空間充填図形であるが,ダブル充填は可能であろうか?
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【1】工藤の空間充填三角錐
工藤の空間充填三角錐とは,辺の長さの比が2:√3:√3の三角形を4枚貼り合わせてできる三角錐であり,この立体8個で相似な立体をなす単独空間充填多面体である.
工藤の三角錐にはもう一つ面白い性質が知られている.空間充填四面体でかつその展開図が平面を隙間なく敷き詰めるという性質である.工藤の三角錐の展開図は三角形あるいは平行四辺形になる.したがって,厚紙からその展開図をいくつも切り出す場合,まったく無駄を生じないことになる.
これを利用するとロールペーパーから牛乳のテトラパックのような紙容器を効率よく作ることができるのだが,この性質は
[参]中村義作「数理パズル」中公新書427
で初めて紹介されたものだという.
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【2】鼈臑(べつどう)
鼈臑(べつどう)とは,陽馬の二等分体である1/6立方体(三角錐)である.1/24三角錐をさらに半分に切り分けて1/48三角錐を作っても,鼈臑と相似比1:2の立体ができる.いずれにしても,その展開図は1:1:√2の直角三角形2枚,1:√2:√3の直角三角形2枚からなる.
この三角錐の展開図は3組の対辺がすべて平行な六角形になり,平面を隙間なく敷き詰められることが知られている.なお,鼈臑とはすっぽんのすね(前足の骨)の意であるそうだ.
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【3】中川の空間充填六面体の2分割体?
陽馬(1/3立方体,四角錐)の2分割体である鼈臑は立方体・菱形12面体に対する二重の空間充填図形となる.ただし,鼈臑には1対の鏡像体がある.
中川の六面体(1/24切頂八面体)の2分割体は立方体・菱形12面体・切頂八面体に対する三重の空間充填図形となる.ただし,中川六面体の2分割体にも1対の鏡像体がある.
これらの点で両者は非常によく似ていると考えられる.それでは中川六面体の2分割体もダブル充填図形であろうか? 中川宏さんに検討して頂いたのだが,残念ながらダブル充填図形ではなさそうであった.
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【4】雑感
[参]中村義作「数理パズル」中公新書427
には展開図が平面充填五角形になる四面体も紹介されている.この五角形を2個組み合わせると3組の対辺がすべて平行な六角形になるのだが,平行六辺形を敷き詰めたものを基本にして2個,3個,4個の五角形に分割した平面充填形が知られている.カイロのタイル貼りは平行6辺形の4分割の例である.
[参]秋山仁「知性の織りなす数学美」中公新書
には工藤の三角錐以外にもダブル充填可能な凸n面体が掲載されている.現在までn=4,5,6,7,8,9,12に対してダブル充填可能立体が明らかにされているものの,それらをすべて決定することはかなりの難問であるとのことである.n=10,11は本当に存在しないのだろうか?
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