■幾何の問題(その3)

 先日,宮本次郎先生(釜石南高校)が来仙.表面積や赤道長が球と等しい図形を見せていただきました.その折り,ルーローの四面体が定幅図形でないことをご教示賜り,またまたびっくり.

 以下,コラム「幾何の問題(PartU)」の記述をそのまま転載すると

『平面における定幅図形(いかなる方向に関しても等しい幅をもっている図形)は円だけではなく,そのような形状は無数にあります.定幅図形の中で最大の面積をもつものは円であり,最小の面積をもつものはルーローの三角形です.

 ルーローの三角形とは,一辺の長さaの正三角形(2次元単体)の各頂点を中心にして半径aの円弧を描くと作られる,3つの円弧からなる等辺円弧三角形です.また,各角内に半径a+r,各対角内に半径rの円を描いても定幅曲線が得られます.正三角形の代わりに正(2q+1)角形についても同様です.

 また,ルーローの単体とは正四面体(3次元単体)の各頂点を中心にして辺長を半径として球面を描くと作られる定幅曲面です.ルーローの三角形を3次元に拡張した図形であり,マイスナーの凸体とも呼ばれます.体積が最小となる定幅図形と信じられていますが,証明されてはいません.一般に,3次元以上のd次元のとき,定幅で体積が最大のものはd次元球ですが,体積最小のものは解明されていないのです.』

 ルーローの三角形は定幅図形,よってルーローの四面体も定幅図形となるはず・・・ルーローの四面体が定幅図形ではないことを疑っている様子はまったくありません.しかるに,宮本先生によるとルーローの四面体の定幅図形からの誤差は2.5%もあり(ルーローの四角形の内転形からのズレは0.5%にも満たないのですから)その誤差はかなり大きいといえるでしょう.1種のパラドックスのように感じられます.

 パラドックスというとゼノンのパラドックス,とりわけアキレスとカメが有名ですが,幾何学のパラドックスといえば,すべての三角形は二等辺三角形であるとか,すべての円の周長は等しいとか,・・・があります.

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【1】アリストテレスの輪のパラドックス

 大きな円と小さな円を中心を重ねて固定します.同心円となるわけですが,大きな円が直線上を1回転するとき,同心の小さな円もそれと平行な直線上を1回転します.したがって,任意の2つの円周は等しくなり,すべての円の周の長さは等しいことが証明されます.

 しかし,これでは明らかにおかしく「アリストテレスの輪のパラドックス」と呼ばれます.このトリックは,大きな円は滑らないで回転するが,小さな円大きな円に引きずられながら回転していて,ある程度すべるということに気付けば解決できます.

 ガリレオは2つの円を正方形のような正多角形2個で置き換えてみるとわかりやすくなることに気づきました.同心の正方形2つからなる車輪を考えると,大正方形が1回転した後に小正方形の軌道には3箇所の隙間を生じます.すなわち,小さな正方形も円(正多角形の極限)も滑りながら進んでいるというわけです.

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【2】列車のパラドックス

 列車が動くとき,その列車のすべての部分が進行方向に向かって進んでいるわけではなく,車輪の一部は常に進行方向とは逆に動くというのが「列車のパラドックス」です.

 車輪が回転するとき,どの部分も動いている速度は同じに思えますが,実はそうではないのです.円が直線上を滑らずに回転するとき,その円の円周上の定点が描く曲線がサイクロイドですが,円上の点Pが同じ時間で移動する距離は場所ごとに異なります.

 点Pがサイクロイドの頂点にあるとき,すなわち,直線からもっとも離れた点では単位時間内に長い距離を移動するので,移動速度は最速となり,他の点より常に速く動いています.点Pが直線に接しているとき移動する向きが変わるため,移動速度は0になります.フリンジ(車輪のつばの部分)のように車輪の外側に置かれた定点はトロコイドを描きますから,進行方向とは逆向きに動いていることもあるのです.

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【3】バナッハ・タルスキーのパラドックス

 多面体を切り貼りしても体積は変わらないのですが,曲面で囲まれた立体ということになると,もはやその常識は通用しなくなります.1924年,バナッハとタルスキーは,球を有限個の小片に分割し,再結合させると元と同じ大きさの2つの球を作ることを示しました.したがって,元と同じ球体を好きな個数だけ作ることができることになります.

 このあまりにも奇妙な結論からパラドックスと呼ばれますが,れっきとした現代数学の定理です.数学が「無限」を扱うようになったために生ずる奇妙な定理なのですが,バナッハ・タルスキーの定理でいう球体とは物質としての球ではなく,空間中の点の集まり(集合)のことで,分割とは物質の分割ではなく,集合の分割のことです.

 また,球を円に代えて,平面でもバナッハ・タルスキーの定理と同じことがいえるかというとそれはできません.2次元と3次元では事情が異なっているのですが,この奇妙さの源は「体積」という概念にあるのです.

 デーンの定理やバナッハ・タルスキーのパラドックスは,平面幾何学の面積の理論には連続の公理を必要とはしないが,体積の理論を作るにはカヴァリエリの原理のような他の超越的な補助手段を採用しなければならないことを意味しています.

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【4】モ−ザーのパラドックス

 n次元ユークリッド空間において,1辺の長さが1の立方体[-1/2,1/2]^nをn次元単位立方体といいます.その体積は1ですが,もっとも離れた2頂点を結ぶ対角線の長さはn次元ユークリッド空間の距離の定義から

  √(1^2+1^2+・・・+1^2)=√n

となります.したがって,次元nが大きくなると対角線の長さ√nはどんどん大きくなり,身長170cmの人間はおろか,ついには地球でさえ含むことができるようになります.

 辺の長さが4の正方形に4つの単位円板を詰めると,4つの円板で囲まれた部分に,第5の小さな円を入れることができます.また,辺の長さが4の立方体の8つのカドに単位球を8個詰めると,中にできる隙間に第9の小さな球を入れることができます.ピタゴラスの定理によって第5の円,第9の球の半径はそれぞれ√2−1,√3−1だとわかります.

 これと同じことを4次元以上の空間で行うことができます.もはやイメージすることは不可能ですが,1辺の長さが4の4次元超立方体の16個のカドに16個の単位球を詰めると,中の隙間には半径√4−1=1の4次元超球(すなわち単位球)が入ります.同様に,1辺の長さが4のn次元超立方体の2^n個のカドに単位球を詰めると,中の隙間に半径√n−1のn次元超球が詰められるのです.

 しかし,ここの驚きが潜んでいます.たとえば,n=9の場合,中に詰められるn次元超球の半径は√9−1=2であり,この球は外側の立方体の表面に接してしまい,n>9だとはみ出してしまうのです.この驚くべき結論は,日常生活ではありえないだけに面食らってしまいます.

 次元とともにはみ出る部分が増えているのですが,球の詰め込みに関するこのはみ出し現象は,モーザーのパラドックスとして知られているものです.この逆説は,人間の直観や勘は3次元までの世界では働きますが,4次元以上の高次元についてはあまり働かないという例として,しばしば引き合いに出されます.

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