調和級数を
Sn=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n
と定義します.調和級数は次第に減少する項からなりますが,nを無限大にしたとき,無限調和級数
S∞=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・
は発散します.
1350年頃,フランスの数学者ニコル・オレームがそのことを証明したのですが,1/2を無限個足したものよりも大きくなるという巧妙な証明です.
1/2=1/2
1/3+1/4>1/4+1/4=1/2
1/5+1/6+1/7+1/8>1/8+1/8+1/8+1/8=1/2
1/9+1/10+1/11+1/12+1/13+1/14+1/15+1/16>1/16+1/16+1/16+1/16+1/16+1/16+1/16+1/16=1/2
この結果,n→∞のとき,
Sn=1+1/2+1/2+1/2+1/2+・・・→∞
S2^n≧1+n/2→∞
であることを示すことができるというわけです.
ところで,正多面体は5種類しかないのに対して,正多角形の種類は無限にあります.今回のコラムでは正多角形からなる無限連鎖を取り上げて,幾何学的な無限の世界における漸近挙動を調べてみることにします.
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【Q1】
長さLの線分がある.その線分を1辺とする正三角形,正方形,正五角形,・・・,正n角形を順次描くと,正多角形の辺の数は外側にいくほど多くなる.正多角形は外側にいくほど大きくなるが,無限に大きくなるか?
[A1]
正n角形の1辺の長さ,外接円の半径,内接円の半径をそれぞれLn,Rn,rnとする.
Ln=2Rnsin(π/n)
Ln=2rntan(π/n)
L3=L4=L5=・・・=Lより,n→∞のとき,Rn→∞,rn→∞
すなわち,無限に大きくなる.
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【Q2】
半径r3の円がある.その円に正三角形を外接させる.その三角形に半径R3の円を外接させる.その円に正方形を外接させる.その正方形に半径R4の円を外接させる.その円に正五角形を外接させる.その正五角形に半径R5の円を外接させる・・・.正多角形は外側にいくほど大きくなるが,無限に大きくなるか?
[A2]
Rn/rn=1/cos(π/n)
ΠRi/ri=Π1/cos(π/i)
n→∞のとき,1/cos(π/n)→1となるのは,おなじみの内接(外接)する正多角形の辺の数→∞のとき,その多角形の周長の上限(下限)が円周の長さであることを表している.
ここで
R3=r4,R4=r5,R5=r6,・・・
より
Rn=r3Π1/cos(π/i) (i=3~n)
実際に無限乗積Π1/cos(π/i)の計算をしてみると,8.70に収束した.
Π1/cos(π/i)→8.70
Rn→r3×8.70
無限に大きくなっていくように思えるが,実際には上限があって,最初の円r3のおよそ9倍を超えることはできないのである.
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[補]オイラー積分
logΠ1/cos(π/i)=−Σlogcos(π/i)
がでてきたところで,有名なオイラー積分
I=∫(0,π/2)log(sinx)dx=-π/2log2
を求めてみることにしましょう.
sin(π-x)=sinxより,∫(0,π)log(sinx)dx=2I
cos(π/2-x)=sinxより,∫(0,π/2)log(cosx)dx
xを2xに置き換えると
2I=∫(0,π)log(sinx)dx=2∫(0,π/2)log(sin2x)dx
I=∫(0,π/2)log(sin2x)dx
=∫(0,π/2)log2dx+∫(0,π/2)log(sinx)dx+∫(0,π/2)log(cosx)dx
=π/2log2+2I
これより
I=∫(0,π/2)log(sinx)dx=-π/2log2=-1.088793045・・・
同じことではあるが,積分変数をxからπ/2−xに置き換えて
sin(π/2-x)=cosxより,
∫(0,π/2)log(sin(π/2-x))dx=∫(0,π/2)log(cosx)dx
2I=∫(0,π/2){log(sinx)+log(cosx)}dx=∫(0,π/2)log((sin2x)/2)dx
=-π/2log2+∫(0,π/2)log(sin2x)dx
再び積分変数をxからx/2に置き換えて
2I=-π/2log2+1/2∫(0,π)log(sinx)dx=-π/2log2+I
したがって,
I=-π/2log2
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【Q3】
正三角形の頂点を中心とする円弧を描き,ルーローの三角形を作る.ルーローの三角形は正方形の内転形である.その正方形の辺の中点を中心とする円弧を描き,ルーローの四角形を作る.ルーローの四角形は正五角形の擬内転形である.その正五角形の頂点を中心とする円弧を描き,ルーローの五角形を作る.ルーローの五角形は正六角形の内転形である・・・.ルーローの正多角形は外側にいくほど大きくなるが,無限に大きくなるか?
[A3]
正n角形の高さをHnで表すことにすると,
nが奇数のとき
Hn=Rn(1+cos(π/n))=rn(1+1/cos(π/n))
nが偶数のとき
Hn=2Rncos(π/n)=2rn
また,偶数正n角形に内接するルーローのn−1角形の正n−1角形部分に関して
Hn=2Rn-1cos(π/2(n−1))
ルーローの偶数n角形に擬外接する正n+1角形に関して
Hn+1=2rn{1+(tan(π/n)/2)^2}^1/2+rntan(π/n)tan(π/(n+1))
が成り立つ.
したがって
(1) Hn=2Rn-1cos(π/2(n−1))
Hn-1=Rn-1(1+cos(π/n))
→Hn/Hn-1=2cos(π/2(n−1))/(1+cos(π/n))
(2) Hn+1=2rn{1+(tan(π/n)/2)^2}^1/2+rntan(π/n)tan(π/(n+1))
Hn=2rn
→Hn+1/Hn={1+(tan(π/n)/2)^2}^1/2+tan(π/n)tan(π/(n+1))/2
以上より,
Hn+1/Hn-1={(4+tan^2(π/n))^1/2+tan(π/n)tan(π/(n+1))}cos(π/2(n−1))/(1+cos(π/n))
Hn+1=H3ΠHi+1/Hi-1 (i=4,6,8,・・・,n)
n→∞のとき,Hn+1/Hn-1→1
[Q3]の解は[Q2]の解より小さくなることは前もって予測できるが,ΠHi+1/Hi-1は3.00に収束した.[Q2]同様,上限があって
ΠHi+1/Hi-1→H3×3.00
すなわち,最初の三角形H3のおよそ3倍を超えることはできないのである.
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