■奇数ゼータと杉岡の公式(その23)

 杉岡幹生氏はいろいろな工夫をして「杉岡の公式」を生み出してきました.これまでにわかっていることをもう一度整理しておきます.

  (1)奇数ゼータと偶数Lは偶数ゼータの無限和として表される

  (2)奇数L,偶数L1,奇数L2は偶数ゼータの有限和で表される

  (3)正の奇数ゼータのみならず,負の奇数ゼータも偶数ゼータの無限和として表現できる,等々.

 (その17)において,杉岡氏はテイラーシステムと呼んでいる方法を用いてこれらの結果を拡張しています.今回のコラムでは,新たに拡張された結果

  (4)奇数ゼータは奇数ゼータの有理数係数の無限和として表される

  (5)偶数ゼータは偶数ゼータの有理数係数の無限和として表される

について紹介したいと思います.

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【1】テイラーシステム・再掲

 オイラーシステムでは

  Σcos(2nx)/n

が本質的な役割をしているのですが,杉岡氏のシステムでは

  f(x)=Σcos(2nx)/n^s (n=1~)

とします.

  f(π)=ζ(s)

  f(π/2)=-{1-2^(1ーs)}ζ(s)

  f(π/4)=-2^(-s){1-2^(1ーs)}ζ(s)

はその特殊値です.

 次にcosをテイラー展開します.とりあえず0の周りで展開してみますが,

  cos(x)=Σ(-1)^k・x^2k/(2k)! (k=0~)

  cos(2nx)=Σ(-1)^k・(2nx)^2k/(2k)!

  f(x)=ΣΣ(-1)^k・(2nx)^2k/(2k)!/n^s

 ここで,2重級数の順番:Σ(n=1)とΣ(k=0)を交換すると

  f(x)=ΣΣ(-1)^k・(2nx)^2k/(2k)!/n^s

=ζ(s)-ζ(s-2)/2!・(2x)^2+ζ(s-4)/4!・(4x)^4-ζ(s-6)/6!・(6x)^6+・・・

x=πを代入すると,f(π)=ζ(s)より

  ζ(s-2)/2!・(2π)^2=ζ(s-4)/4!・(4π)^4-ζ(s-6)/6!・(6π)^6+・・・

  ζ(s)=ζ(s-2)・2!/4!・(4π)^4/(2π)^2-ζ(s-4)・2!/6!・(6π)^6/(2π)^2+・・・

  ζ(s)=Σ2!/(2(i+1)!)・(2(i+1)π)^(2(i+1))/(2π)^2ζ(s-2i) (i=1~)

     =Σwiζ(s-2i) (i=1~)

 ここで,右辺のゼータ関数は降順になっていますが,関数等式

  ζ(s)=π^(s-1/2)Γ((1-s)/2)/Γ(s/2)ζ(1-s)

を用いれば

  ζ(s-2i)=π^(s-2i-1/2)Γ((1-s+2i)/2)/Γ(s/2+i)ζ(1-s+2i)

より昇順にすることができます.

 すなわち

  ζ(s)=Σwiζ(1-s+2i) (i=1~)

より,奇数ゼータは偶数ゼータの無限和として表されることがわかりますが,半整数ゼータは半整数ゼータの無限和,非整数ゼータは非整数ゼータの無限和として表されることも理解されます.

 なお,偶数ゼータの無限和に関しては,

  Σζ(2k)/4^(k-1)=2

なども知られています.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 また,

  g(x)=Σsin(2nx)/n^s (n=1~)

とおくと

  g(π/4)=L(s)

ですから,L関数に関する類似の結果(偶数Lは偶数ゼータの無限和として表される)が得られます.

 このようにして,杉岡幹生氏のホームページには類似の公式が多数掲げられています.また,確認したわけではありませんが,杉岡氏によるとこれらの式は収束速度の点でも計算効率がよいそうです.

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【2】テイラーシステムの微分

  ζ(s)=Σwiζ(1-s+2i) (i=1~)

より,奇数ゼータは偶数ゼータの無限和として表されることがわかりました.さらに,各成分の重みwiがsの関数であることに注意しながらsについて微分して

  ζ(-2i)=0 (i=1~)

を代入して整理します.

 さらに,関数等式

  ζ(s)=π^(s-1/2)Γ((1-s)/2)/Γ(s/2)ζ(1-s)

  ζ(s)=2Γ(1-s)sin(πs/2)(2π)^(s-1)ζ(1-s)

の微分を利用して整理すると,奇数ゼータは奇数ゼータの有理数係数の無限和として表されるという結果が得られます.

 その詳細は

  http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page152.htm

を参照していただきたいのですが,たとえば,具体例をひとつ挙げると

  (1-1/2^2)(1-1/2^3)2!ζ(3)=(1-1/2^5)(4!/2!2^4)ζ(5)+(1-1/2^7)(6!/4!2^6)ζ(7)+(1-1/2^9)(8!/6!2^8)ζ(9)+(1-1/2^11)(10!/8!2^10)ζ(11)+・・・

のようになります.

 結局,テイラーシステムの微分から得られる結果は

  (1-1/2^(n-1))(1-1/2^n)(n-1)!ζ(n)=(1-1/2^(n+2))((n+1)!/2!2^(n+1))ζ(n+2)+(1-1/2^(n+4))((n+3)!/4!2^(n+3))ζ(n+4)+(1-1/2^(n+6))((n+6)!/6!2^(n+5))ζ(n+6)+(1-1/2^(n+8))((n+7)!/8!2^(n+7))ζ(n+7)+・・・

  ζ(2s+1)=Σwiζ(2s+1+2i) (i=1~)

と表示することができます.ここで,重みwiは有理数係数というわけです.

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【3】雑感

  ζ(2m)=2^(2m-1)Bm/(2m)!・π^2m

Bmはベルヌーイ数で,ζ(2m)はπ^2mの有理数倍になることがわかっている.

 ζ(2k+1)についてよくわかっておらず,ζ(3)は無理数になることが1978年になってようやく証明された(アペリ).その他のζ(2k+1)についてはζ(5),ζ(7),・・・,ζ(17),ζ(19)の8つの特殊値のうち,ひとつは無理数であることが2001年に証明されたという(V.V. Zudilin).

 私が杉岡氏の結果を見て直ちに思ったことは,テイラーシステムおよびその微分がこの種の証明に応用できないかということであった.今後の発展を期待している.

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