(その21)では,分母が素数の「素数ゼータ関数」
ζp(s)=Σ(1/p^s)=1/2^s+1/3^s+1/5^s+1/7^s+1/11^s+・・・
を紹介しましたが,今回のコラムではそれを補足説明しておきたいと思います.
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【1】ディリクレの算術級数定理
1735年,オイラーはバーゼル問題
ζ(s)=1/1^s+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・+1/n^s+・・・
ζ(2)=Σ(1/n^2)=π^2/6
を証明しましたが,その後,1737年に素数pの逆数の和が発散すること
ζ(p<=n)=Σ(1/p)=1/2+1/3+1/5+1/7+1/11+・・・+1/n〜loglogn
ζp→∞
より,素数が無限個あることを示しました.
また,1775年,4で割って1余る素数qと3余る素数rに対しても,逆数の和が発散すること
ζq=1/5+1/13+1/17+・・・→∞
ζr=1/3+1/7+1/11+・・・→∞
を見つけました.どちらも無限個存在することがわかります.
ゼータ関数は,オイラーの積表示
ζ(s)=Π(1−p^(-s))^(-1)
を通して素数分布=#{n|素数p≦x}の問題に関係してきます.オイラーはオイラー積表示の関係式を用いて,素数が無限個あること,しかも自然数の中で相当な割合で現れるという事実を証明をしたのですが,これはギリシャ数学の単なる別証ではなく,その後の数学の発展に繋がるものだったのです.
そして,有名な素数定理(PT)は,漸近分布の形で
π(x)〜x/logx
と表すことができます.素数は無限個存在し,そして等差数列{a+kn}にも素数は無限に含まれるのですが,素数pでa+knの形のものの分布問題がディリクレの算術級数定理です(1837年).
π(x;a,n)〜C・x/logx C=1/φ(n)
オイラーの結果は
(n,a)=(1,1),(4,1),(4,3)
の場合になります.
算術級数定理は素数定理を精密化したもので,初項aの取り方にはよらないのですが,ここで,オイラーの関数φ(n)は1からn−1までの整数のうち,nと互いに素になるものの個数
φ(n)=#(Z/nZ)
として定義されます.たとえば,n=7の場合,1,2,3,4,5,6なのでφ(7)=6,n=10の場合1,3,7,9がそうなのでφ(10)=4となります.
1760年頃,オイラーは,数nが素因数p,q,r,・・・をもつときに,それらの重複度にかかわらず,
φ(n)=n(1−1/p)(1−1/q)(1−1/r)・・・
であることを示しました.この原理は「エラトステネスのふるい」によっているのですが,たとえば,10=2・5,44=2^2・11,100=2^2・5^2より,
φ(10)=10(1−1/2)(1−1/5)=4
φ(44)=44(1−1/2)(1−1/11)=20
φ(100)=100(1−1/2)(1−1/5)=40
また,任意の素数pに対して,
φ(p^n)=p^n(1−1/p)
したがって,
φ(p)=p(1−1/p)=p−1
となります.
なお,算術級数定理の証明にはディリクレのL関数
L(s,χ)=Σχ(p)/n^s=Π(1−χ(p)p^(-s))^(-1)
χは乗法群(Z/nZ)の1次元表現
が用いられます.
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【2】オイラー定数と素数オイラー定数
Hn=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n
と定義します(n>1ならばHn は整数にはなりません).
nを無限大にしたとき,調和級数
H∞=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・
は発散しますが,そのn次部分和Hnは離散的な世界で連続関数lognに対応するものであり,自然対数は双曲線y=1/xの下の面積として定義できます.
したがって,双曲線y=1/xを上と下から棒グラフではさんで近似することにより,lognとlogn+1の間に押し込まれまれることがわかります(∵∫1/xdx=logx).したがって,Hnとlognの比{Hn/logn}は
Hn/logn→1 (n→∞)
です.
一方,Hnとlognの差{Hn−logn}は確定した極限値γに収束します.
Hn−logn→γ
(Hn=logn+γ+O(1/n),Hn =logn+γ+o(1))
この極限値はオイラーの定数として知られており,約0.57722になります.オイラーの定数の比較的よい近似値は4/7で,さらによい近似値は41/71で与えられます.
Hnは上限と下限の間の約58%のところにあることがわかりましたが,今日に至るまで,オイラーの定数の値は有理数とも無理数ともわかっていません.おそらく,超越数なのでしょう.
また,オイラーの定数γを極限値lim(Σ1/k−logn)を直接計算するのは収束が遅くて非効率的です.そこで,
log(1+x)=x−x^2/2+x^3/3−x^4/4+・・・
log(1+1/x)=1/x−1/(2x^2)+1/(3x^3)−1/(4x^4)+・・・
より
logΓ(1+s)=−γs+ζ(2)/2s^2−ζ(3)/3s^3+・・・
これを用いると
γ=ζ(2)/2−ζ(3)/3+ζ(4)/4−ζ(5)/5+・・・
あるいは
γ=1−1/2(ζ(2)−1)−1/3(ζ(3)−1)−1/4(ζ(4)−1)−・・・
などと書けることになります.これらの無限級数はかなり速く収束します.
オイラー定数のさまざまな表示については
http://numbers.computation.free.fr/Constants/Gamma/gammaFormulas.html
を参照されたい.
なお,素数の逆数の和Σ(1/p)については,n→∞のとき,
γp={Σ(1/p)−loglogn}→γ+Σ(log(1−1/p)+1/p)=0.26149721・・・
が知られています(メルテンスの定理:1874年).素数オイラー定数γpの性質はオイラー定数γ以上に不明です.
ゼータ関数と素数ゼータ関数の間には
logζ(s)=−Σlog(1−p^-s)^-1=Σζp(sn)/n
γp=γ−Σζp(n)/n
が成り立ちますから,メビウスの反転公式により
ζp(s)=Σμ(n)/n・logζp(sn)
γp=γ+Σμ(n)/n・logζp(n)
すなわち,メビウス関数がゼータ関数と素数ゼータ関数の間をつなぐ式になっているというわけです.
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