中川宏さんは空間充填図形を追い求めてきた.たとえば,中川六面体の2分割体は立方体,菱形12面体,切頂八面体に共通する3重の空間充填図形である(その14).この図形は単独空間充填図形ではないが,同数の鏡像体で立方体,菱形12面体,切頂八面体に組み換えることができる.また,あるときは日常的な発想を超えた新しい切り方による図形を探している(その16).中川さんが用いている方法はいずれの際も「空間充填多面体の分割」に基づくものである.
ところで,平行多面体とは平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体であって,立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体,切頂8面体の5種類しかない.これら5種類の図形(フェドロフの平行多面体)は3次元格子の幾何学的分類であり,5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていないが,少なくとも同じ程度に重要であると考えられる.
立方体,菱形12面体,切頂八面体は中川六面体の2分割体に分割することがわかったが,それでは残りの2つ,6角柱,長菱形12面体はどうなっているのだろうか? ただし,6角柱,長菱形12面体の場合は等辺平行多面体であることは要請しないことにする.この仮定があると難しい問題になるからである.今回のコラムでは中川さんによる6角柱,長菱形12面体の分割を紹介したい.
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【1】長菱形12面体
これまでの結果をまとめると
工藤三角錐(2/24立方体)×24→菱形12面体
工藤三角錐の2分割体(1/24立方体)×24→立方体
工藤三角錐の4分割体(中川六面体)×72→切頂八面体
であるが,以下の写真より
工藤三角錐の2分割体(1/24立方体)×72→長菱形12面体
となっていることがおわかり頂けるはずである.
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【2】六角柱
菱形12面体は六角柱から木工製作することができるから,ここでは菱形12面体を分割して六角柱を作ることを考えてみる.
菱形12面体の3価の頂点を天地に配して,頂点と辺の3等分点を通る水平面で水平断する(この切断は菱形12面体を菱形台形12面体に変形させるときに用いられるものである).
さらに稜線に沿ってする3等分すると菱形12面体の12等分体ができる.
その3つを貼り付けると,もとの菱形12面体の半分の高さ(1辺の長さの4/3)の六角柱ができる.これで菱形12面体と六角柱の分解合同が示された.
ところで,菱形12面体は24個の工藤三角錐よりなるので,菱形12面体の12等分体となるこの6面体は工藤三角錐の2個分に相当する.そこで,工藤三角形を変形させて,菱形12面体の12等分体の左半分(右半分)と作ることを考えよう.
工藤三角錐は1組の辺だけが直交する四面体である.直交する辺の中点を通り,直交する辺にまたがる2つの三角形の頂点と辺の3等分点を通る平面で,工藤の三角錐を切断する.そして,この工藤三角錐の1/6にあたる部分を立体蝶番返しをすると,菱形12面体の12等分体の左半分(右半分)ができる.両方を併せると菱形12面体の12等分体になる.
このアイディアも中川さんによる超日常的な発想のひとつであるが,このことから
工藤三角錐の1/6蝶番返し×2×12→6角柱
となっていることがおわかり頂けるだろう.
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【3】まとめ
フェドロフの空間充填平行多面体は,工藤三角錐を中心にまとめることができて
工藤三角錐(2/24立方体)×24→菱形12面体
工藤三角錐の2分割体(1/24立方体)×24→立方体
工藤三角錐の4分割体(中川六面体)×72→切頂八面体
工藤三角錐の2分割体(1/24立方体)×72→長菱形12面体
工藤三角錐の1/6蝶番返し×2×12→6角柱
となる.
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