1/24切頂八面体である「中川の六面体」96ピースで菱形十二面体を組み立てることができる.このことについて,秋山仁先生は「中川の六面体は空間充填多面体の原子と考えられる.数でいえば素数のようなもの」と話しておられた.
これまでわかっている空間充填図形の原子についてまとめてみよう.
立方体 1/6立方体×6
菱形12面体 1/6立方体×12
立方体 1/8切頂八面体×2(16)
切頂八面体 1/8切頂八面体×8
菱形12面体 1/24切頂八面体(中川の六面体)×96
切頂八面体 1/24切頂八面体(中川の六面体)×24
すなわち,立方体と菱形12面体に共通する原子は1/6立方体,立方体と切頂八面体に共通する原子は1/8切頂八面体,菱形12面体と切頂八面体に共通する原子は1/24切頂八面体(中川の六面体)である.
それでは,3種類の空間充填図形(立方体・菱形12面体・切頂八面体)に共通する原子は何かと考えるのは自然な成り行きであろう.
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【1】分割のアイディア
切頂八面体を六角形面の中心を通るように中心から放射状に六分割するとダイヤモンドの指輪のような9面体(4^55^4)ができる.このようなカットをaとする.
また,切頂八面体の正方形面が田の字になるように八分割すると7面体(3^14^45^2)が得られる.このようなカットをbとする.
カットbでは正方形面が田の字になるように八分割したが,もうひとつの八分割として,切頂八面体の正方形面の対角線でマスの字型になるような切り方も考えられる.これをカットcと呼ぶことにする.
カットcを施された切頂八面体を2つ併せると元の切頂八面体の体積の1/4の立方体ができる.立方体を平面で切り分けると三角形,四角形,五角形,六角形などの断面が現れるが,断面が正六角形になるような切り方がカットcで,それは前述した1/8切頂八面体なのである.
また,カットaに引き続いてカットbを施すと,正方形1枚,大きな凧形1枚,小さな凧形2枚,不等辺四角形2枚からなる6面体(4^6)となる.これが「中川の六面体」である.
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【2】空間充填図形の素粒子
切頂八面体の六分割(カットa)と切頂八面体の八分割(カットb,カットc)をすべて組み合わせると,3種類の空間充填図形(立方体・菱形12面体・切頂八面体)に共通する原子が得られるのではないか・・・実に素朴なアイディアが浮かんだ.早速,中川宏さんにお願いして木工製作してもらうことにした.
a×bは中川の六面体であるが,a×b×cを施すことによって得られる図形は中川六面体の2分割体となる五面体であった.この五面体には1対の鏡像体があり,6対(48対)併せると立方体,24対で切頂八面体,96対で菱形12面体ができた.
なお,中川宏さんにはa×c,b×cについても検討してもらったのだが,a×cは立方体の6等分体になるものの,b×cは面白い形にはならなかったということである.
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【3】まとめ
中川六面体の2分割体は立方体・菱形12面体・切頂八面体に対する三重の空間充填図形である.ただし,中川六面体の2分割体には1対の鏡像体があり,3種類の空間充填図形に共通する「原子」というよりも「素粒子」が得られたことになる.秋山仁先生の言葉を借りれば「中川六面体の2分割体(五面体)は空間充填図形の正反の素粒子」と考えることができるのである.
この空間充填図形の素粒子についてまとめておきたい.
立方体 中川六面体の2分割体×2×6(48)
菱形12面体 中川六面体の2分割体×2×96
切頂八面体 中川六面体の2分割体×2×24
ところで,空間充填図形の問題は19世紀,シェーンフリースにより230通りの空間群が解明されたことで本質的にはすべて解決したといえるのかもしれないが,工藤の空間充填四面体や中川六面体,その2分割体のような具体的な例についてはかなりの部分が未解決と思える.今後も引き続き調べてみたいと思う.
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