■整数の積(その19)

 (その10)では,「どんな正定値2次形式に対しても,

  0≦(ax^2+2bcy+cy^2)^2≦|ac−b^2|・4/3

をみたすx,yが存在する」を扱った.

 (4/3)^1/2は2次のエルミート定数と呼ばれる.

  γ2=(4/3)^1/2

 この4/3は3次元球の体積

  4/3・πr^3

で与えられることと同値である.

 n次元単位球の体積は,nの増大につれて増大し続けはしない.驚くべきことにその体積はn=5のとき最大値に到達し,その後は減少し続けることである.

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 n次元ガウス積分を別の方法,直交座標でなく,極座標で求めてみましょう.球に相当するn次元の図形を超球と呼びます.n次元単位超球{x1^2+x2^2+・・・+xn^2≦1}の体積をVnとすると,V1=2(直径),V2=π(面積),V3=4π/3(体積)はご存知でしょう.また,単位超球の表面積Sn-1はnVn,半径rのn次元球の体積はvnr^n,表面積はnVnr^n-1となります.

 ガウス積分の被積分関数を原点を中心とする半径rの球面上で積分し,次にr=0からr=∞まで積分すると,半径rの球面上で被積分関数は一定値exp(-r^2)をとり,表面積はnVnr^n-1ですから,

I=∫(0,∞)exp(-r^2)nVnr^n-1dr

=nVn∫(0,∞)r^(n-1)exp(-r^2)dr

z=r^2と変数変換するとdz=2rdrより

I=nVn/2∫(0,∞)z^(n/2-1)exp(-z)dz

=Vnn/2Γ(n/2) n/2Γ(n/2)=Γ(n/2+1)

=VnΓ(n/2+1)

したがって,Vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)   rn=

を得ることができます.この結果は,形式的にVn=π^(n/2)/(n/2)!と書くことができます. Γ(m+1)=m!

 これより,半径rのn次元超球の超体積はVnrn=(πr^2)^(n/2)/Γ(n/2+1)となります.nが整数のとき,実際にVnの値を計算してみると,超球の体積はn=5のとき最大8π^2/15=5.2637・・・となり,以後は減少します.

n  Vn

1  2

2  3.14

3  4.19

4  4.93

5  5.263

6  5.167

7  4.72

8  4.06

9  3.30

10 2.55

(次元を整数に限らなければ5.256次元で最大となり,そのときの体積は5.277・・・である.)

Vn-1がわかればVnは漸化式:

Vn/Vn-1=Γ(1/2)Γ{(n+1)/2}/Γ(n/2+1)

=B(1/2,(n+1)/2)

によって求めることができますが,この計算は面倒ですから,Vn-2との漸化式

Vn/Vn-2=2π/n

を用いると任意のnに対して

nが奇数であればVn=2(2π)^((n-1)/2)/n!!

nが偶数であればVn=(2π)^(n/2)/n!!

とも書けることも理解されます.

n→∞のとき

Vn/Vn-2=2π/n→0

Sn-1/Sn-3=nVn/(n-2)Vn-2=2π/(n-2)→0

ですから,不思議なことに,単位球面の体積や表面積はn→∞のとき0に収束するのです.表面積はn=7のとき最大16π^3/15となる.

 また,このことから,n次元単位超立方体[-1,1]^nにおいて,単位超球が占める比率は,n=2であればπ/4(79%)であるが,n=5のときは16%に下落し,n=10となると0.25%になることも理解されます.高次元において,超立方体内に一様分布する標本を考えるとき,低次元の場合とは対照的に,大部分のデータは超球外に位置することになります.

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