■最密充填問題(その2)
ケプラーの球体充填問題を拡張する方向としては,ひとつには2種類の異なる性質をもつ球を配置する場合が考えられる.これは金属が融合してできた合金に新たに加わった性質を探る場合などに応用できる.とくに,球が電荷をもつ場合,たとえば,原子核内の核子(陽子と中性子)のようなモデルでは,体積を小さくしようとすれば,密度が高まり斥力が大きくなるから,その折り合いをどこでつけるかは興味深い問題である.
原子核は相互作用する多数の核子の安定状態とみなすことができる.安定した構造の秘密はマジックナンバーにあると指摘されている.原子核内部の核子はぎゅうぎゅう詰めになっているわけではなく,電子の軌道運動ほどではないにせよ,近隣の核子が作り出す力を平均した力の場のなかをかなり自由に運動していると考えることができる.
核子が
2,8,20,28,50,82,126
の原子核はとくに安定で,マジックナンバーと呼ばれている.1963年にはマイヤーとイェンゼンがマジックナンバーをうまく説明する「原子殻」を考えた功績により,ノーベル物理学賞を受賞している.
しかしながら,原子核は極めて小さく,不確定正原理が働く非日常的なスケールのため,個々の核子の振る舞いを直接確認することはできない.そのため,真実を部分的に捉えてはいるが互いに矛盾する核モデル
[1]殻モデル(独立粒子モデル,希ガス原子の閉電子殻型)
[2]液滴モデル(集団運動モデル:最近接粒子間のみの相互作用を考える)
[3]アルファ粒子モデル(クラスターモデル)
などが共存している.
コラム「常温核融合とFCC核モデル」で紹介したノーマン・クック氏のFCC核モデルを端的に表現するならば,
1×2,2×3,3×4,4×5,・・・,5×4,4×3,3×2,2×1
のように層が重なっていて,全核子数Aが
A=2Σk(k+1)=2n(n+1)(n+2)/3
=4,16,40,80,140,224,・・・
の魔法的安定性を予言する核モデルということになる.
FCC核モデルによる原子核構造は量子数と対応づけられるものであって,マジックナンバーとではない.そのため,
A=4,16,40,80,140,224,・・・
が魔法的安定核のマジックナンバーであり,陽子数Z=中性子数Nの場合,
He,O,Ca,Zr,Yb,Xx,・・・
がそれに対応する元素である.
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[補]アリストテレスは,5つの正多面体のうち空間を完全に埋め尽くすのは立方体と正四面体だけであると主張したらしい.しかし,正四面体は単独では空間充填できない.それでは
(Q)ひとつの頂点を共有するようにして正四面体をいくつ並べることができるか?
(A)20個の正四面体は1点を共有できるが,その隙間は21番目の正四面体を押し込めるほど大きくはない.
(Q)ひとつの辺を共有するようにして正四面体をいくつ並べることができるか?
(A)正四面体の二面角はcosθ=1/3→70.5288°.したがって,5個の正四面体は1辺を共有するが,7°くらいの隙間が残ってしまう.
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