今回のコラムでは無理数の性質に関するワイルの一様分布定理を紹介する.
[参]スタイン・シャカルチ「フーリエ解析入門」日本評論社
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【1】ディリクレの定理の証明
ディリクレの定理,すなわち「任意の実数αについて
|α−an/bn|<1/bn^2
を満たす有理数an/bnが存在する.」の証明を再度掲げることにする.
(証)αが有理数で,α=p/qと表されたとする.{bn}は次々に大きくなる整数列であるから,q<bnである番号をとると
|α−an/bn|=|p/q−an/bn|=|pbn−qan|/qbn
しかし,an/bnはαとは一致しないので分子は1以上.したがって
|α−an/bn|≧1/qbn
であるが,これが<1/bn^2なのでq>bnとなり矛盾.すなわち,αは有理数ではあり得ないことになる.
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このように,「ディリクレの定理」の証明は,引き出し論法あるいは鳩の巣原理と呼ばれるものから容易に導かれる.この原理はn個の巣箱にn+1羽の鳩が入っているならば,ある巣箱には少なくとも2羽の鳩が入っていなければならないというものである.
xの小数部分x−[x]を{x}と書くことにすると,0≦{x}<1である.ここでq+1個の数,0,1,{α},{2α},・・・,{(q−1)α}を考えると,これらの数はすべて区間[0,1]に属する.
区間[0,1]をq個の互いに交わらないながさ1/qの小区間に分割すれば,q+1個の数のうちの2個は同じ小区間に入ることになる.その2数の差はbnα−anで,また,0<bn<qであるから,|bnα−an|≦1/qが成り立つ.
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【2】ワイルの一様分布定理
無理数γを与えたとき,nγの非整数部分{nγ}のn=1,2,3,・・・としたときの分布について何がいえるであろうか?
[1]γが有理数であれば{nγ}は有限個の相異なる値しかとらない
(証)γ=p/qならば,この数列の最初の第q項までは
{p/q},{2p/q},・・・,{(q−1)p/q},{qp/q}=0
そして第q+1項は
{(q+1)p/q}={1+p/q}={p/q}
以後,これの繰り返しとなる.
[2]γが無理数であれば{nγ}の値はすべて異なる
(証){n1γ}={n2γ}と仮定する.このとき,(n1−n2)γは整数→γは有理数となり矛盾.
[3]γが無理数であれば{nγ}は区間[0,1]において稠密である(クロネッカーの定理)
[4]γが無理数であれば{nγ}は区間[0,1)において一様分布する(ワイルの定理)
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【3】長方形ビリヤード
ワイルの一様分布定理により,長方形ビリヤード問題に幾何学的証明を与えることができる.
長方形のビリヤード台を考える.東西方向の壁にぶつかるときは南北方向の運動量の向きだけが逆になり,南北方向の壁にぶつかるときには東西方向の運動量の向きだけが逆になる.したがって,どんな軌道であろうと4通りの向きにしかならないのでこの運動は完全に予測可能である.
このように初期条件が与えられると未来を予測することができるような力学系を可積分系という.可積分系とは元来力学用語で,線形化可能あるいは線形系と関連づけられる非線形力学の総称であり,複雑系に対比される概念である.
また,ある位置からある角度でビリヤードの球を発射させると,何回か壁にあたった後,最初と同じ位置・同じ角度で戻ってくる場合がある.n回壁にあった後,同じ状態に戻る場合をn周期軌道と呼ぶことにすると,与えられたnに対して発射角度を求めるというのはおなじみのビリヤード問題であろう.
この問題に対する基本的な考え方は,球を反射させる代わりに,ビリヤード台の鏡像を枠の外に作ってやるというものである.すなわち,軌道自体を折り曲げる代わりに衝突するたびに衝突した辺を軸にビリヤード台自身をひっくり返すのである.
このような図形を鏡像群と呼べば,鏡像群を貫く直線がビリヤード球の軌跡に対応する.そして,この表示法のもとで長方形の互いに向かい合う辺同士をを同一視するとトーラスが得られる.トーラスの中で長方形ビリヤードの軌道は単純な直線運動で表されることになる.
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長方形ビリヤードの周期性について考えると,長方形ビリヤードが周期的となるための条件は軌道方向(tanθ)が有理数であることである(ビリヤード台の縦横比あるいはそれぞれの長さは無理数でもかなわない).軌道方向が無理数の場合,軌道は非周期的となり軌道が領域を埋めつくす.それに対し,周期軌道では軌道が領域を埋めつくすことはない.周期軌道は無数に考えられるが,非周期軌道は周期軌道より圧倒的に多数を占めるのである.
ついでに円型のビリヤード台(可積分系)では火線(コースティック)に対応する規則的な軌道がみられることを申し添えておく.数学的には包絡線というのだが,光学分野では焦線(caustic)あるいは火線という名で知られている.焦点では光が1点に集まるが,焦線とは点ではなくて線をなす場合をいうのである.楕円型ビリヤード台,外円(外球)と内円(内球)の2つの円(球)に挟まれた領域からなるビリヤード台なども可積分系である.
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【4】ワイルの規準
ワイルの規準とは,
『[0,1)内の実数列ξ1,ξ2,・・・が一様分布するには,すべての整数kに対して,N→∞のとき
1/NΣexp(2πikξn)→0
が成立するときに限られる』というものである.
ワイルの規準を用いることにより,以下の結果が示される.
[1]γが無理数であれば{n^2γ}は区間[0,1)で一様分布する
[2]P(x)=cnx^n+cn-1x^n-1+・・・+c1x+c0において,c1,・・・,cnのうち少なくともひとつが無理数であるとすると,{P(n)}は区間[0,1)で一様分布する
[3]sが整数でないならば{an^s}は区間[0,1)で一様分布する
ところが,
[4]{alogn}はいかなるaに対しても一様分布しない
[5]γn={((1+√5)/2)^n}とする.γnは[0,1]で一様分布しない
任意の無理数γを与えたとき,γ^nの非整数部分{γ^n}のn=1,2,3,・・・としたときの分布については,どのようなより強い結果,より深い結果が得られるのであろうか?
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