■トロコイドの幾何学(その5)

 (その4)では,トロコイドf(x,y)=0が代数曲線F(r^2,r^ncosnφ)=0になることを示しました.r=(x^2+y^2)^1/2はx,yの多項式ではありませんが,r^2とすれば多項式になります.r^ncosnφも同様です.

 そこで,r^2=x^2+y^2,r^ncosnφ=(x,yのn次の同次多項式)で,具体的に書くと

  D1:F(x^2+y^2,x)

  D2:F(x^2+y^2,x^2)

  D3:F(x^2+y^2,x(x^2−3y^2))

  D4:F(x^2+y^2,x^2y^2)

と表され,代数曲線であることがおわかりいただけるでしょう.

 したがって,トロコイド曲線の次数はr^2,r^ncosnφが何次の形で入っているかによって決定され,Dnの対称性をもつトロコイドの場合は最低でもn次になることがわかります.実際,x^2+y^2はcosθのn次式,x,x^2,x(x^2−3y^2),x^2y^2などはcosθの2n次式となり,トロコイドは最低でも2n次式になるのです.

 しかし,出現する項がわかっていたとしても代数曲線の方程式を書き下すことはそれほど簡単なことではありません.対称性だけでなく,曲線固有の性質が次数と関係してくるのですが,次数が高くなるとcosθを消去する一般的な方法が明らかなものではなくなってしまうからです.

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【1】ハイポサイクロイドの次数

 n尖点ハイポサイクロイド

  x=(n−1)cosθ+cos(n−1)θ

  y=(n−1)sinθ−sin(n−1)θ

において,

  D0:x^2+y^2=2(n−1)cosnθ+(n−1)^2+1

とします.D0はcosθのn次式で表されることになります.

[1]n=2

  x=2cosθ,y=0

  D0:x^2+y^2=2cos2θ+2=4cos^2θ

  D2:x^2=4cos^2θ

よりcosθを消去すると,y=0

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[2]n=3

  x=2cosθ+cos2θ=2cos^2θ+2cosθ−1

  y=2sinθ−sin2θ=2sinθ(1−cosθ)

  D0:x^2+y^2=4cos3θ+5=16cos^3θ−12cosθ+5

  D3:x(x^2−3y^2)=(2cos^2θ+2cosθ−1){(2cos^2θ+2cosθ−1)^2−12(1−cos^2θ)(1−cosθ)^2}

あるいは

  x(x^2−3y^2)=x(−3(x^2+y^2)+4x^2)

として,D3を求めます.

 D0はcosθの3次式,D3は6次式となりますから,代数曲線を6次

  f(x,y)=(x^2+y^2+a)^2+bx(x^2−3y^2)+c=0

と仮定して,未定係数法で係数a,b,cを求めてみることにします.すると

  cosθ=1  → (9+a)^2+27b+c=0

  cosθ=0  → (5+a)^2+11b+c=0

  cosθ=−1 → (1+a)^2−b+c=0

より,a=9,b=−8,c=−108となって

 f(x,y)=(x^2+y^2+9)^2+8x(3y^2−x^2)−108=0

が得られます.

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[3]n=4

  x=3cosθ+cos3θ=4cos^3θ

  y=3sinθ−sin3θ=4sin^3θ

これより直ちにx^2/3+y2/3=4^2/3は求められるのですが,ここではD0,D4を用いることにします.

  D0:x^2+y^2=6cos4θ+10=48cos^4θ−48cos^2θ+16=−48cos^2θsin^2θ+16

  D4:x^2y^2=16^2cos^6θsin^6θ

cosθを消去すると

  (x^2+y^2−16)^3+432x^2y^2=0

 デルトイド同様,代数曲線を

  f(x,y)=(x^2+y^2+a)^3+bx^2y^2+c=0

と仮定すると,

  cosθ=1    → (16+a)^3+c=0

  cosθ=1/√2 → (4+a)^3+4b+c=0

  cosθ=1/2  → (7+a)^3+27/16b+c=0

より,a=−16,b=432,c=0はこの条件を満足させることがわかります.しかし,デルトイドの場合とは異なり,仮定式のように表せる保証はまったくありません.

  f(x,y)=(x^2+y^2)^3+a(x^2+y^2)^2+b(x^2+y^2)+cx(x^2−3y^2)+d=0

と仮定すべきところでしょう.

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【2】エピサイクロイドの次数

 一方,n尖点エピサイクロイド

  x=(n+1)cosθ−cos(n+1)θ

  y=(n+1)sinθ−sin(n+1)θ

の場合は,

  D0:x^2+y^2=−2(n+1)cosnθ+(n+1)^2+1

[1]n=1

  x=2cosθ−cos2θ

  y=2sinθ−sin2θ=2sinθ(1−cosθ)

  D0:x^2+y^2=−4cosθ+5

  D1:x=2cosθ−cos2θ=−2cos^2θ+2cosθ+1

よりcosθを消去すると,

  (x^2+y^2−3)^2+8x−12=0

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[2]n=2

  x=3cosθ−cos3θ=−4cos^3θ+6cosθ

  y=3sinθ−sin3θ=4sin^3θ

  D0:x^2+y^2=−6cos2θ+10=−12cos^2θ+16

  D2:x^2=4cos^2θ(3−2cos^2θ)^2

よりcosθを消去すると,

  (x^2+y^2−4)^3−108y^2=0

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[3]n=3

  x=4cosθ−cos4θ=−8cos^4θ+8cos^2θ+4cosθ−1

  y=4sinθ−sin4θ=−4sinθ(2cos^3θ−cosθ−1)

  D0:x^2+y^2=−8cos3θ+17=−32cos^3θ+24cosθ+17

  D3:x(x^2−3y^2)=(−8cos^4θ+8cos^2θ+4cosθ−1){(−8cos^4θ+8cos^2θ+4cosθ−1)^2−48(1−cos^2θ)(2cos^3θ−cosθ−1)^2}

あるいは

  x(x^2−3y^2)=x(−3(x^2+y^2)+4x^2)

 デルトイド,アステロイドのように

  f(x,y)=(x^2+y^2+a)^4+bx(x^2−3y^2)+c=0

とうまい具合に表せるとは限らないので,

  f(x,y)=(x^2+y^2)^4+a(x^2+y^2)^3+b(x^2+y^2)^2+c(x^2+y^2)+dx(x^2−3y^2)+e=0

と仮定します.

  cosθ=1 → x^2+y^2=9,x(x^2−3y^2)=27

  cosθ=−1 → x^2+y^2=25,x(x^2−3y^2)=−125

  cosθ=0 → x^2+y^2=17,x(x^2−3y^2)=47

  cosθ=1/2 → x^2+y^2=25,x(x^2−3y^2)=−125

  cosθ=−1/2 → x^2+y^2=9,x(x^2−3y^2)=27

 これで整数点,有理点が3つ得られました.どうしても整数点,有理点にこだわりたいならばcosθ=1/3,1/4,・・・とおくか,

  cosθ=(1−t^2)/(1+t^2)

  sinθ=2t/(1+t^2)

と表せばよいのですが,非有理点でもかまわなければ,

  cosθ=1/√2 → x^2+y^2=17+4√2,x(x^2−3y^2)=1−26√2

  cosθ=−1/√2 → x^2+y^2=17−4√2,x(x^2−3y^2)=1+26√2

を用いることもできます.

 (x^2+y^2,x(x^2−3y^2))=(9,27),(25,−125),(17,47),(17+4√2,1−26√2),(17−4√2,1+26√2)を利用した未定係数法により

  a=−20,b=−10,c=−180,d=512,e=−3375

が求められました.未定係数法の計算は畏友・阪本ひろむ氏にお願いしました.すなわち,n=3は8次曲線:

  f(x,y)=(x^2+y^2)^4−20(x^2+y^2)^3−10(x^2+y^2)^2−180(x^2+y^2)+512(x^3−3xy^2)−3375=0

となります.

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[4]n=4

  x=5cosθ−cos5θ=−16cos^5θ+20cos^3θ

  y=5sinθ−sin5θ=−16sin^5+20sin^3θ

  D0:x^2+y^2=−10cos4θ+26=−80cos^4θ+80cos^2θ+16=80cos^2θsin^2θ+16

  D4:x^2y^2=16cos^6θ(4cos^2θ−5)^2・16sin^6θ(4sin^2θ−5)^2=16^2cos^6θsin^6θ(16cos^2θsin^2θ+5)^2

cosθを消去すると,10次式

  (x^2+y^2−16)^3(x^2+y^2+9)^2−50000x^2y^2=0

が得られます.

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【3】まとめ

 cosθに関するn次方程式を解く方法は,nが大きくなると難しくなります.そのため,ハイポサイクロイド(エピサイクロイド)の一般的な代数曲線表示には別の方法を用いる必要がでてくるのですが,今回のコラムでは未定係数法を用いてみました.

 その結果,

       エピサイクロイド   ハイポサイクロド

  n=1    4次曲線

  n=2    6次曲線       1次

  n=3    8次曲線       4次曲線

  n=4    10次曲線       6次曲線

となることを示すことができました.

 ハイポサイクロイドのn=2の場合は1次直線ですが,半径が無限大となって全体が一面に拡がってしまった円弧(2次曲線)と解釈することができますから,これ以降も

  n     2(n+1)次    2(n−1)次

となることが予測されます.すなわち,ハイポサイクロイドではm=n−1,エピサイクロイドではm=n+1とおくと,2m次曲線になるというものです.

 未定係数法を用いれば,原理的には何次であろうとも係数を決定することができます.トロコイドでは出現する項がわかっているので,結局,未定係数法を用いて方程式を決定するのが最も近道かもしれません.

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