(その26)では,包絡線には魚の尻尾のような突起を生ずること,大ざっぱにいえば楕円を回転させたものと考えることができることを述べました.
魚の尻尾から,2004年に掲げたコラム「楕円の平行曲線」のことを思い出しました.楕円の平行曲線の時間発展を描いてみると,4つのカスプをもつ曲線が浮かび上がってきます.ツバメの尾と呼んだほうがいいかもしれませんが,どうです,よく似ているでしょう.
正n角形を,原点を中心とする半径aの円周上を(n−2)公転させながら,半径Rの円周上を1回自転させているのですが,aを小さくするとツバメの尾も小さくなりました.
ツバメの尾の特異点には2重点2個と尖点4個がありますが,今回のコラムではそれをレンズ型の2個にまで減らすことを考えてみます.
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【1】平行曲線
中心の軌跡が(ξ(θ),η(θ))でパラメータ表示される半径rの円
(x−ξ(θ))^2+(y−η(θ))^2=r^2
y=η(θ)±{r^2−(x−ξ(θ))^2}^(1/2)
の一部がドリルの円弧であるとき,
∂y/∂θ=0 → (x−ξ(θ))dξ/dθ+(y−η(θ))dη/dθ=0
これより,包絡線の方程式は
x=ξ(θ)+rdη/dθ/{(dξ/dθ)^2+(dη/dθ)^2}^(1/2)
y=η(θ)−rdξ/dθ/{(dη/dθ)^2+(dξ/dθ)^2}^(1/2)
および
x=ξ(θ)−rdη/dθ/{(dξ/dθ)^2+(dη/dθ)^2}^(1/2)
y=η(θ)+rdξ/dθ/{(dη/dθ)^2+(dξ/dθ)^2}^(1/2)
とパラメータ表示されます.
これは中心の軌跡(ξ,η)と直交する方向(法線方向)にrだけ離れた2点の軌跡です.すなわち,中心の軌跡の平行曲線を描くというわけです.
例をあげると,楕円:x^2/a^2+y^2/b^2=1
のパラメータ表示
ξ=acosθ,η=bsinθ
については
x=acosθ+rbcosθ/(a^2sin^2θ+b^2cos^2θ)^(1/2)
y=bsinθ+rasinθ/(a^2sin^2θ+b^2cos^2θ)^(1/2)
および
x=acosθ−rbcosθ/(a^2sin^2θ+b^2cos^2θ)^(1/2)
y=bsinθ−rasinθ/(a^2sin^2θ+b^2cos^2θ)^(1/2)
のようになります.
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【2】平行曲線の特異点はその曲線の縮閉線上に現れる
曲線の曲率中心の軌跡を縮閉線(エボリュート)といい,縮閉線に対してもとの曲線を伸開線(インボリュート)といいます.縮閉線の接線は伸開線の法線ですから,これら2曲線の間で測った長さは伸開線の曲率半径になります.
縮閉線は楕円や円の曲がり具合と直接関係していて,たとえば,円の各点から法線を引くと中心点に法線が集中してしまいますし,楕円の場合は4つのカスプをもつ曲線が浮かび上がってきます.縮閉線は与えられた曲線の曲率中心においてその法線と接するので,縮閉線は与えられた曲線の法線からなる直線族の包絡線(エンベロプ)を求めることにより得られることがわかります.
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楕円:
x=acost,y=bsint
については
e1(s)=dα(s)/ds=dα(t)/dt・dt/ds
であることに注意して,曲率を求めると,
κ(t)=ab/(a^2sin^2t+b^2cos^2t)^(3/2)
を得ることができます.
[補]一般のパラメータtを用いると
κ(t)=(x’y”−x”y’)/(x’^2+y’^2)^(3/2)
で与えられる.
これより,曲率中心を求めてみると
((a^2−b^2)/acos^3t,(a^2−b^2)/bsin^3t)
で与えられ,tが動くときの軌跡すなわち曲率中心の軌跡は,
(ax)^(2/3)+(by)^(2/3)=(a^2−b^2)^(2/3)
となり,この曲線は準アステロイドとなることがわかります.
このように曲線が与えられたとき,微分幾何学的にフレネー・セレーの公式が書き下され,それから曲率が与えられ,さらに曲率中心の軌跡となる曲線を決めることができるのです.
そして,楕円の平行曲線の特異点は,その曲線の縮閉線である準アステロイド上に現れます.
また,準アステロイドとx軸,y軸の交点はそれぞれ
(±(a^2−b^2)/a,0),(0,±(a^2−b^2)/b)
と計算されますが,特異点がこれらの交点の位置にあるとき,ツバメの尾は解消され,レンズ型となります.
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【3】特異点の解消
正n角形の枠を(n−2)公転について1回自転させたときの包絡線の方程式は
x=asinθsin(n−1)θ−Rsinθ+(n−1)acosθcos(n−1)θ
y=acosθsin(n−1)θ−Rcosθ−(n−1)asinθcos(n−1)θ
で表されます.
x=(n−1)acos(n−1)θ・cosθ+(asin(n−1)θ−R)・sinθ
y=−(n−1)acos(n−1)θ・sinθ+(asin(n−1)θ−R)・cosθ
と整理し,
v=(vx,vy)=((n−1)acos(n−1)θ,asin(n−1)θ−R)
er=(cosθ,sinθ)
eθ=(−sinθ,cosθ)
すなわち,erはr方向の単位ベクトル,eθはそれと直交する単位ベクトルとすると
(x,y)=vxer+vyeθ
となって,包絡線の性質について大ざっぱにいえば楕円
x^2/((n−1)a)^2+(y+R)^2/a^2=1
を回転させたものと考えることができます.
縮閉線は与えられた曲線の法線からなる直線族の包絡線(エンベロプ)を求めることにより得られるのですが,ここでは前節の結果を利用して
a=R/{(n−1)^2−1}
としてみます(厳密解ではない).
これによりツバメの尾も解消されましたが,ローターは予想以上に太ってしまいました.これが実際に正内転形(正n角形の各辺に接しながらその中で1回転できる卵形線)であるかどうかの検討は次回以降とします.
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【4】雑感
楕円:
x^2/a^2+y^2/b^2=1
の縮閉線は,4つのカスプをもつ曲線(準アステロイド)
(ax)^(2/3)+(by)^(2/3)=(a^2−b^2)^(2/3)
で,アステロイドと楕円とは縮閉線と伸開線という関係にあること,そして楕円の平行曲線の特異点は,その曲線の縮閉線である準アステロイド上に現れることを解説しました.
なお,アステロイドの式を一般化すると
(x/a)^(2/n)+(y/b)^(2/n)=1
が得られます.この曲線はn=1のとき楕円,n=2のとき菱形,n=3のときアステロイドになります.nを大きくすると次第に細い星型になりますが,尖っているところは正則ではない,すなわち,特異点となります.また,この曲線は,
x=acos^nθ
y=bsin^nθ
とパラメトライズすることができます.
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