■書ききれなかった微分積分の話(その56)
曲線と曲面の「曲率」についてみていきましょう.
平面曲線C上の点Pにおける曲率とは,点PでCに接する円で,最もよくCを近似するものの半径の逆数をいいます.たとえば,半径aの円の曲率は一定で1/aとなりますし,放物線:y=ax^2の原点における曲率は2aです.このように平面曲線の曲率はスカラーの値です.空間曲線には,曲率の他に捻率(れいりつ)という概念がでてきます.
一方,曲面z=f(x,y)に対して「最もよく接触する球」は無理が多く,とくに双曲型の点では無意味です.そのため,曲面を最もよく近似する2時局面が不可欠になります.したがって,曲面の曲率は「テンソル」となりますが,曲面の曲がり方を測る尺度として,ガウス曲率・平均曲率というような概念もでてきます.
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【1】平面曲線と曲率
平面曲線についてのフレネー・セレーの公式は,
d/dtE=AE
で表されます.
ここで,
E=(e1(t),e2(t))’
A=| 0 , κ(t)|
|-κ(t), 0 |
Aは交代行列で,κ(t)は曲率を表すスカラー関数です.また,曲率の逆数を曲率半径といいます.
円周の場合,曲率半径は半径と一致し,したがって曲率中心はつねに原点となりますが,楕円ではどうなるでしょうか?
楕円:
x^2/a^2+y^2/b^2=1
のパラメータ表示
x=acost,
y=bsint
について曲率を求めると,
κ(t)=ab/(a^2sin^2t+b^2cos^2t)^(3/2)
これより,曲率中心を求めてみると
((a^2−b^2)/acos^3t,(a^2−b^2)/bsin^3t)
で与えられ,tが動くときの軌跡すなわち曲率中心の軌跡は,
(ax)^(2/3)+(by)^(2/3)=(a^2−b^2)^(2/3)
となり,この曲線はアステロイドとなることがわかります.
このように曲線が与えられたとき,微分幾何学的にフレネー・セレーの公式が書き下され,それから曲率が与えられ,さらに曲率中心の軌跡となる曲線を決めることができるのです.
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【2】空間曲線と捻率
半径a,勾配b/aの螺旋の曲率は一定で,a/(a^2+b^2)です.したがって,螺旋の曲率半径はa+b^2/aとなりますが,これは半径はa+b^2/aの円の曲率とまったく同じです.このことから,曲率だけでは空間曲線の形状を決定するには十分でないことがわかります.
空間曲線では曲率のほかに,捻率が新たに必要になります.空間曲線についてのフレネー・セレーの公式は,
d/dtE=AE
ただし,
E=(e1(t),e2(t),e3(t))’
| 0 , κ(t), 0 |
A=|-κ(t), 0 , τ(t)|
| 0 ,-τ(t), 0 |
Aは交代行列で,τ(t)は捻率を表すスカラー関数です.
フレネー・セレーの公式をもとに,曲がり方を与える曲率と捻れ方を与える捻率を定めることによって曲線の形は定まります.その場合の解の存在と一意性が常微分方程式の理論により示されるのですが,フレネー・セレーの公式は曲線を決定してしまう構造方程式となっているのです.
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【3】空間の曲面
曲面論では,曲率,捻率のかわりに第1,第2基本形式を定めます.
第1基本形式gは
g=g11(du)^2+2g12dudv+g22(dv)^2
で表されます.ここで,
g11=(xu,xu),g12=(xu,xv),g22=(xv,xv)
Δ=g11g22−(g12)^2>0 (正定値2次形式)
一方,第2基本形式hは,
h=h11(du)^2+2h12dudv+h22(dv)^2
ただし,
h11=(xuu,n),h12=(xuv,n),h22=(xvv,n)
hij=det(xij,x1,x2)/Δ^(1/2)
と表されます.
第1基本形式は,uv平面をどう伸縮して曲面を作るかを指定していて,緯線・経線の長さと曲線同士の角度を定めているといえます.それに対して,第2基本形式は,接平面を基準面として曲面の曲がり方を定めています.
ここで,対称行列G,Φを
G=|g11,g12| Φ=|h11,h12|
|g12,g22| |h12,h22|
とおくと,
g=(du,dv)G(du,dv)’
h=(du,dv)Φ(du,dv)’
のように,2次形式で表されます.曲率,捻率とは違って,これらは関数ではなくて接平面上における2次形式を与えるものであって,第1,2基本形式はテンソルと呼ばれる量なのです.
ところで,螺旋面(ヘリコイド)と(カテノイド)は第2基本形式は異なるものの第1基本形式はまったく同じです.すなわち,曲面の形は第1基本形式だけでは定まりません.このように,空間曲線論と同様,これら2つの基本形式で曲面の形が定まります.ただし,事情は曲線論よりも複雑になり,第1基本形式と第2基本形式は,偏微分方程式の積分可能条件である,
1)ガウスの方程式
2)マイナルディ・コダッチの方程式
を満たさなければなりません.
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【4】曲面の曲率
曲面の各点の法線を含んだ平面で切った切り口には曲がり方が最もきつい方向と緩やかな方向がありますが,これらを用いて曲面の曲率を定めることができます.
ガウス曲率Kは曲率の最大値と最小値の積で定義され,一方,平均曲率Hとは2方向の曲率の相加平均で定義されます.すなわち,ガウス曲率Kと平均曲率Hは
K=κ1κ2
H=(κ1+κ2)/2
であって,また,曲率κ1,κ2を主曲率と呼びます.
対称行列G,Φを用いると
K=det(G^(-1)Φ)=detΦ/detG
={h11h22−(h12)^2}/Δ
=κ1κ2
H=1/2tr(G^(-1)Φ)
=(g11h22−2g12h12+g22h11)/2Δ
=(κ1+κ2)/2
となることが示されます.
これらを用いれば,主曲率は2次方程式の根と係数の関係から
κ1=H−(H^2−K)^(1/2)
κ2=H+(H^2−K)^(1/2)
と表されます.
平均曲率Hが恒等的に0な曲面は極小曲面と呼ばれます.螺旋面や懸垂面は極小曲面の例となっています.
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