今回のコラムでは,黄瑞庭君(高校3年生)に教えてもらった代数曲線の接線,代数曲面の接平面の微分を用いない求め方について紹介します.彼は自ら発見したこの方法を「分解」と呼んでいるのですが,項別に接線,接平面を求めて足しあわせる方法であって,実際にやってみると簡単な規則だけで得られることがわかります.
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【1】2次曲線の場合
2次曲線:
f(x,y)=ax^2+hxy+by^2+cx+dy+e=0
の接線の方程式を求めるには
[1] x^2→x0x,y^2→y0y,xy→(xy0+x0y)/2,
x→(x+x0)/2,y→(y+y0)/2,e→e(定数項)
あるいは
[2] x^2→2x0x−x0^2,y^2→2y0y−y0^2,
xy→xy0+x0y−x0y0,
x→x,y→y,e→e(定数項)
と置換すればよいことは(その1)で説明した通りですが,高次元への一般化を考えて,ここでは[2]を採用することにします.
さらに見通しをよくするために,[2]を
x^2+x0^2→2x0x,y^2+y0^2→2y0y,
xy+x0y0→xy0+x0y,
x+x0→x+x0,y+y0→y+y0,e+e→e+e(定数項)
と変形してみます.
点P(x0,y0)はこの曲線上にありますから,f(x0,y0)は恒等的に0,したがって,それに何か定数をかけたものを加えたとしてももとの式の値は変わりません.
f(x,y)=f(x,y)+λf(x0,y0)
この定数を未定乗数と呼ぶのですが,ラグランジュの未定乗数法を微積分の講義で学んでおられる方も多いことでしょう.
λ=1,すなわち,
f(x,y)=a(x^2+x0^2)+h(xy+x0y0)+b(y^2+y0^2)+c(x+x0)+d(y+y0)+e+e=0
を
x^2+x0^2→2x0x,y^2+y0^2→2y0y,
xy+x0y0→xy0+x0y,
x+x0→x+x0,y+y0→y+y0,e+e→e+e(定数項)
と置換すると,接線の方程式
2ax0x+h(xy0+x0y)+2by0y+c(x+x0)+d(y+y0)+e+e=0
が得られることになります.
f(x0,y0)=0を明示しないで置換規則を表すならば
[3] 2x^2→2x0x,2y^2→2y0y,
2xy→xy0+x0y,
2x→x+x0,2y→y+y0,2e→2e(定数項)
となって,係数2が出現します.
置換[2]を変形した置換[3]は詰まるところ,置換[1]
x^2→x0x,y^2→y0y,xy→(xy0+x0y)/2,
x→(x+x0)/2,y→(y+y0)/2,e→e(定数項)
に帰着されることになります.
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【2】1次,3次曲線の場合
1次式:ax+by+c=0で,置換
x+x0→x+x0,y+y0→y+y0,c+c→c+c(定数項)
を行うと
a(x+x0)+b(y+y0)+c+c=ax+by+c=0
となることは自明です.
3次曲線の場合の置換規則には
[4] x^3→x0^2x,y^3→y0^2y,
x^2y→(2x0y0x+x0^2y)/3,
xy^2→(y0^2x+2x0y0y)/3,
x^2→(2x0x+x0^2)/3,y^2→(2y0y+y0^2)/3,
xy→(y0x+x0y+x0y0)/3,
x→(x+2x0)/3,y→(y+2y0)/3,j→j(定数項)
[5] x^3→(3x0^2x−x0^3)/2,y^3→(3y0^2y−y0^3)/2,
x^2y→(2x0y0x+x0^2y−x0^2y0)/2,
xy^2→(y0^2x+2x0y0y−x0y0^2)/2
x^2→x0x,y^2→y0y,xy→(y0x+x0y)/2,
x→(x+x0)/2,y→(y+y0)/2,j→j(定数項)
[6] x^3→3x0^2x−2x0^3,y^3→3y0^2y−2y0^3,
x^2y→2x0y0x+x0^2y−2x0^2y0,
xy^2→y0^2x+2x0y0y−2x0y0^2
x^2→2x0x−x0^2,y^2→2y0y−y0^2,
xy→y0x+x0y−x0y0,
x→x,y→y,j→j(定数項)
がありますが,置換[6]に対して,ラグランジュの未定乗数をλ=1とおいて,
f(x,y)=ax^3+bx^2y+cxy^2+dy^3+ex^2+fxy+gy^2+hx+iy+j=0
x^3+x0^3→3x0^2x−x0^3,y^3+y0^3→3y0^2y−y0^3,
x^2y+x0^2y0→2x0y0x+x0^2y−x0^2y0,
xy^2+x0y0^2→y0^2x+2x0y0y−x0y0^2
x^2+x0^2→2x0x,y^2+y0^2→2y0y,
xy+x0y0→y0x+x0y,
x+x0→x+x0,y+y0→y+y0,j+j→j+j(定数項)
f(x0,y0)=0を明示しないで置換規則を表すならば
[7] 2x^3→3x0^2x−x0^3,2y^3→3y0^2y−y0^3,
2x^2y→2x0y0x+x0^2y−x0^2y0,
2xy^2→y0^2x+2x0y0y−x0y0^2
2x^2→2x0x,2y^2→y0y,
2xy→xy0+x0y,
2x→x+x0,2y→y+y0,2j→2j(定数項)
となります.置換[7]は置換[4]とは表現形が異なりますが,置換[5]とは一致します.
また,置換[6]に対して,ラグランジュの未定乗数をλ=2とおくと,
x^3+2x0^3→3x0^2x,y^3+2y0^3→3y0^2y,
x^2y+2x0^2y0→2x0y0x+x0^2y,
xy^2+2x0y0^2→y0^2x+2x0y0y
x^2+2x0^2→2x0x+x0^2,y^2+2y0^2→2y0y+y0^2,
xy+2x0y0→y0x+x0y+x0y0,
x+2x0→x+2x0,y+2y0→y+2y0,j+2j→j+2j(定数項)となります.
f(x0,y0)=0を明示しなければ
3x^3→3x0^2x,3y^3→3y0^2y,
3x^2y→2x0y0x+x0^2y,
3xy^2→y0^2x+2x0y0y
3x^2→2x0x+x0^2,3y^2→2y0y+y0^2,
3xy→y0x+x0y+x0y0,
3x→x+2x0,3y→y+2y0,3j→3j
となりますから,λ=2とおいた場合は係数3が出現し,置換[4]に帰着されます.
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【3】黄君による一般化
いよいよ黄瑞庭君の方法を紹介します.置換[1]と置換[5]の2次以下の部分,置換[2]と置換[6]の2次以下の部分は完全に一致しています.置換[3]は[2]の変形,置換[7]は[6]の変形ですから一致するのは当然で,それぞれ置換[1]と置換[5]に帰着します.
それであれば,分数が現れない置換[3]と[7]が便利です.これらは未定乗数を次数に関わらずλ=1としたものであって,これにより高次元への一般化がもたらされることになります.すなわち,次数をnとした場合,(n,λ)=(1,0),(2,1),(3,2)などを別々に考えるのではなく,常に(n,λ)=(n,1)を考えるというのが黄瑞庭君のアイディアです.
これにより何次曲線であろうとf(x0,y0)=0をひとつ追加,曲面の場合はf(x0,y0,z0)=0をひとつ追加して考えることで,重要な進歩をもたらすことができます.そのときの置換規則は
[8] 2x^a→ax0^a-1x−(a−2)x0^a
2x^ay^b→ax0^a-1y0^bx+bx0^ay0^b-1y−(a+b−2)x0^ay0^b
2x^ay^bz^c→ax0^a-1y0^bz0^cx+bx0^ay0^b-1z0^cy+cx0^ay0^bz0^c-1z−(a+b+c−2)x0^ay0^bz0^c
ただひとつです.もちろん,定数項はそのまま保存されます.
これらは項別に分解して,偏微分した求めた接線,接平面の方程式
x^ay^bz^c→
ax0^a-1y0^bz0^c(x−x0)+bx0^ay0^b-1z0^c(y−y0)+cx0^ay0^bz0^c-1(z−z0)
=ax0^a-1y0^bz0^cx+bx0^ay0^b-1z0^cy+cx0^ay0^bz0^c-1z−(a+b+c)x0^ay0^bz0^c
と考えられるので,わざわざ黄君の方法が正しいことを検証するまでもありません.偏微分が正しい限り,黄君の方法は正しいのです.
それでは例題.
[Q] x^3+3y^4+2x^2y^3+z^2=0上の点P(x0,y0,z0)における接平面を求めよ.
[A]まず式全体を2倍する.
2x^3+2(3y^4)+2(2x^2y^3)+2z^2=0
置換規則[8]に従って項別に分解して足しあわせると
(3x0^2x−x0^3)+3(4y0^3y−2y0^4)+2(2x0y0^3x+3x0^2y0^2y−3x0^2y0^3)+2z0z=0
整理すると
(3x0^2+4x0y0^3)x+(12y0^3+6x0^2y0^2)y+2z0z−x0^3−6y0^4−6x0^2y0^3=0
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【4】さらなる一般化
黄君の方法は次数と変数の数に関わらず使えます.λ=0,2,3,・・・の場合も考えると唯一の置換方法ではありませんが,それはλ=1の場合のトリビアルな変形に過ぎません.
(λ+1)x^ay^bz^c→ax0^a-1y0^bz0^cx+bx0^ay0^b-1z0^cy+cx0^ay0^bz0^c-1z−(a+b+c−λ−1)x0^ay0^bz0^c
λ=0の場合が最も単純で,置換規則は
[9] x^a→ax0^a-1x−(a−1)x0^a
x^ay^b→ax0^a-1y0^bx+bx0^ay0^b-1y−(a+b−1)x0^ay0^b
x^ay^bz^c→ax0^a-1y0^bz0^cx+bx0^ay0^b-1z0^cy+cx0^ay0^bz0^c-1z−(a+b+c−1)x0^ay0^bz0^c
と表すことができます.この場合,式全体を2倍する必要もなくなります.
それでは同じ例題を解いてみましょう.
[A]x^3+3y^4+2x^2y^3+z^2=0
置換規則[9]に従って項別に分解して足しあわせると
(3x0^2x−2x0^3)+3(4y0^3y−3y0^4)+2(2x0y0^3x+3x0^2y0^2y−4x0^2y0^3)+(2z0z−z0^2)=0
整理すると
(3x0^2+4x0y0^3)x+(12y0^3+6x0^2y0^2)y+2z0z−2x0^3−9y0^4−8x0^2y0^3−z0^2=0
黄君の方法(λ=1)と式の形が違いますが,
x0^3+3y0^4+2x0^2y0^3+z0^2=0
なので,式変形することによって同じ式だとわかります.
λ=2の場合の置換規則は
[10] 3x^a→ax0^a-1x−(a−3)x0^a
3x^ay^b→ax0^a-1y0^bx+bx0^ay0^b-1y−(a+b−3)x0^ay0^b
3x^ay^bz^c→ax0^a-1y0^bz0^cx+bx0^ay0^b-1z0^cy+cx0^ay0^bz0^c-1z−(a+b+c−3)x0^ay0^bz0^c
となります.この場合は最初に式全体を3倍する必要があります.
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【5】雑感
2次曲線の場合は受験数学の問題になりますし,一般的な形で求めることは簡単です.私自身高校生のとき,置換規則
[1] x^2→x0x,y^2→y0y,xy→(xy0+x0y)/2,
x→(x+x0)/2,y→(y+y0)/2,e→e(定数項)
を発見できたことをいまでもはっきり覚えています.
しかし,黄君のようにそれをn次,n変数に拡張できること
[8] 2x^a→ax0^a-1x−(a−2)x0^a
2x^ay^b→ax0^a-1y0^bx+bx0^ay0^b-1y−(a+b−2)x0^ay0^b
2x^ay^bz^c→ax0^a-1y0^bz0^cx+bx0^ay0^b-1z0^cy+cx0^ay0^bz0^c-1z−(a+b+c−2)x0^ay0^bz0^c
には気づきませんでした.
さらに,[8]は
[9] x^a→ax0^a-1x−(a−1)x0^a
x^ay^b→ax0^a-1y0^bx+bx0^ay0^b-1y−(a+b−1)x0^ay0^b
x^ay^bz^c→ax0^a-1y0^bz0^cx+bx0^ay0^b-1z0^cy+cx0^ay0^bz0^c-1z−(a+b+c−1)x0^ay0^bz0^c
と書き直すこともできますし,より一般化すれば
(λ+1)x^ay^bz^c→ax0^a-1y0^bz0^cx+bx0^ay0^b-1z0^cy+cx0^ay0^bz0^c-1z−(a+b+c−λ−1)x0^ay0^bz0^c
になります.
偏微分は高校数学のカリキュラムから外れていると思いますが,黄君は高次元,多変数の場合の計算を知らないときに経験則的に試してみてここまでたどりついたようです.それで彼の方法を「微分を用いない方法」と呼んでいるのです.最も簡単な[9]すなわちλ=0の場合を検討していないのもそのためかと思われます.
しかし,経験則的にとはいっても自分でそれを発見できたわけですからとても意味深いことです.私にとっては衝撃的な内容に感じられましたが,黄君の方法の意義を汲み取ってくれるひとがひとりでもいてくれたらと思います.
最後に,偏微分を用いる方法
fx(x0,y0)(x−x0)+fy(x0,y0)(y−y0)=0
と黄君の方法
(λ+1)x^ay^bz^c→ax0^a-1y0^bz0^cx+bx0^ay0^b-1z0^cy+cx0^ay0^bz0^c-1z−(a+b+c−λ−1)x0^ay0^bz0^c
の違いをまとめておきます.
偏微分:変数別に偏微分する 定数項は保存されない
黄瑞庭:項別に偏微分する 定数項は保存される
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【6】ラグランジュの未定乗数法
ラグランジュの未定係数法は,たとえば「x^3−3xy+y^3=0の条件のもとでx^2+y^2の極値を求めよ」といった条件つき極値問題や制約条件付きの最小2乗法などの解を得るために導入された方法です.
[Q]点(x,y)が曲線:x^4+y^4−1=0上を動くとき,関数f(x,y)=x^3+2y^2の最大値と最小値を求めよ.
[A]f(x,y)=x^3+2y^2+λ(x^4+y^4−1)とおく.連立方程式
fx=3x^2+4λx^3=0
fy=4y+4λy^3=0
fλ=x^4+y^4−1=0
と解くと6組の解があるが,
(x,y,λ)=(0,1,−3/2)→f=2
(x,y,λ)=(0,−1,3/2)→f=−2
(x,y,λ)=(1,0,−3/4)→f=1
(x,y,λ)=(−1,0,3/4)→f=−1
(x,y,λ)=(−1/4√17,−2/4√17,34√17/4)→f=−4√17(最小値)
(x,y,λ)=(1/4√17,2/4√17,−34√17/4)→f=4√17(最大値)
(x,y,λ)=(−1,0,3/4)→f=−1
[Q]与えられた点(x0,y0)から直線:ax+by+c=0までの距離をラグランジュの未定乗数法で求めよ.
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