■代数曲線の接線,代数曲面の接平面(その1)

 昨日,高校3年生の黄瑞庭君より代数曲線の接線,代数曲面の接平面の公式を「微分を用いない方法!」で導き出したというお手紙をいただきました.黄君の方法は次回紹介することにして,今回のコラムでは「微分を用いる方法」について復習しておきたいと思います.

===================================

【1】2次曲線

 2変数x,yの多項式f(x,y)=0で定義される曲線を平面代数曲線と呼びます.f(x,y)=0が2次式の場合,その一般式は,

  f(x,y)=ax^2+hxy+by^2+cx+dy+e=0

のごとく,項数6の多項式として書くことができます.2次曲線には楕円,放物線,双曲線があり,それらは円錐(必ずしも直円錐でなくてよい)を平面で切断したときの切り口として現れる一群の曲線,すなわち円錐曲線です.

 2次曲線上の点P(x0,y0)における接線の方程式は,受験生なら誰でも知っていることなのですが,両辺をxで微分して

  f’(x)=2ax+hy+hxy’+2byy’+c+dy’=0

より

  (hx+2by+d)y’+2ax+hy+c=0

したがって,点P(x0,y0)における接線の傾きmは

  m=−(2ax0+hy0+c)/(hx0+2by0+d)

 接線の方程式:y−y0=m(x−x0)に代入して整理すると

  ax0x+h(xy0+x0y)/2+by0y+c(x+x0)/2+d(y+y0)/2+e=0

となります.

 これを

  ax^2+hxy+by^2+cx+dy+e=0

と比較すると,接線の方程式を求めるには

  x^2→x0x,y^2→y0y,xy→(xy0+x0y)/2,

  x→(x+x0)/2,y→(y+y0)/2,e→e(定数項)

と置換すればよいことがわかります.

 たとえば,

  円:x^2+y^2=r^2の接線 → x0x+y0y=r^2

  放物線:y^2=4pxの接線 → y0y=2p(x+x0)

といった具合です.

 それでは3次曲線の接線や曲面の接平面の場合もこのような便利な置換公式が存在するのでしょうか? その検討に移る前に偏微分を復習しておきましょう.

===================================

【2】偏微分すれば・・・

 偏微分は高校数学のカリキュラムから外れていると思いますが,偏微分を使ってもよいならば

  f(x,y)=ax^2+hxy+by^2+cx+dy+e=0

の両辺をxで偏微分して

  fx=2ax+hy+c

  fy=hx+2by+d

  fx+fyy’=0

より,

  y’=−fx/fy=−(2ax+hy+c)/(hx+2by+d)

となって[1]と同じ式が得られます.

 このように接線・接平面の方程式を求めるには,微分よりも偏微分を用いるほうが便利で,2次曲線の場合を含んで一般のn次曲線f(x,y)=0の接線は

  fx(x0,y0)(x−x0)+fy(x0,y0)(y−y0)=0

で与えられます.こうすれば分母:hx0+2by0+d=0の場合を考慮する必要もなくなります.

 また,曲面z=f(x,y)の勾配はgradf=(fx,fy)と表されますから,接平面は

  z−z0=fx(x0,y0)(x−x0)+fy(x0,y0)(y−y0)

で与えられます.

 n変数の場合の接超平面も同様に定義され,f(x,y,z,w,・・・)=0上の点P(x0,y0,z0,w0,・・・)における接超平面の方程式は

  fx(x0,y0,z0,w0,・・・)(x−x0)+fy(x0,y0,z0,w0,・・・)(y−y0)+fz(x0,y0,z0,w0,・・・)(z−z0)+fw(x0,y0,z0,w0,・・・)(w−w0)+・・・=0

となります.

 g(x,y,z)=z−f(x,y)の場合は

  gx=−fx,gy=−fy,gz=1

ですから,接平面は

  z−z0=fx(x0,y0)(x−x0)+fy(x0,y0)(y−y0)

で与えられるというわけです.

 なお,2変数版テイラーの定理は

  f(x+Δx,y+Δy)=f(x0,y0)+1/1!(Δx∂/∂x+Δy∂/∂x)f(x0,y0)+1/2!(Δx∂/∂x+Δy∂/∂x)^2f(x0,y0)+1/(n−1)!(Δx∂/∂x+Δy∂/∂x)^(n-1)f(x0,y0)+1/n!(Δx∂/∂x+Δy∂/∂x)^nf(x0+θΔx,y0+θΔy)

n変数版も同様に表されます.

===================================

【3】1次,3次曲線の場合

 [1]の2次曲線では接線の定数項:

  −(2ax0+hy0+c)x0−(hx0+2by0+d)y0

 =−2ax0^2−2hx0y0−2by0^2−cx0−dy0

 =2e+cx0+dy0

としましたが,

 =e−ax0^2−hx0y0−by0^2

とおくこともできます.

 この場合の接線の方程式は

  a(2x0x−x0^2)+h(xy0+x0y−x0y0)+b(2y0y−y0^2)+cx+dy+e=0

置換の仕方は

  x^2→2x0x−x0^2,y^2→2y0y−y0^2,xy→xy0+x0y−x0y0,

  x→x,y→y,e→e(定数項)

となります.定数項の処理の仕方によって,置換の表現形が異なるので注意が必要です.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 直線:ax+by+c=0上の点P(x0,y0)における接線は,点Pがどこにあろうともその直線自身です.

  fx=a,fy=b → a(x−x0)+b(y−y0)=0

ここでax0+by0+c=0ですから,接線の方程式は

  ax+by+c=0

 1次式の置換はx→x,y→y,c→cですから,したがって[1]に掲げた2次式の置換

  x→(x+x0)/2,y→(y+y0)/2,c→c

よりもここで掲げた

  x→x,y→y,e→e(定数項)

のほうが整合性がとれていて,高次元に一般化するのに都合がいいかもしれません.

 3次曲線の場合,

  f(x,y)=ax^3+bx^2y+cxy^2+dy^3+ex^2+fxy+gy^2+hx+iy+j=0

  fx=3ax^2+2bxy+cy^2+2ex+fy+h

  fy=bx^2+2cxy+3dy^2+fx+2gy+i

 接線の方程式は

  (3ax0^2+2bx0y0+cy0^2+2ex0+fy0+h)(x−x0)+(bx0^2+2cx0y0+3dy0^2+fx0+2gy0+i)(y−y0)=0

その定数項は

  −(3ax0^2+2bx0y0+cy0^2+2ex0+fy0+h)x0−(bx0^2+2cx0y0+3dy0^2+fx0+2gy0+i)y0

 =−3ax0^3−3bx0^2y0−3cx0y0^2−3dy0^3−2ex0^2−2fx0y0−2gy0^2−hx0−iy0

 =3j+ex0^2+fx0y0+gy0^2+2hx0+2iy0

 ここで,接線の方程式を(変数ごとでなく)係数ごとに整理してみます.すると,

  ax0^2x+b(2x0y0x+x0^2y)/3+c(y0^2x+2x0y0y)/3+dy0^2y+e(2x0x+x0^2)/3+f(y0x+x0y+x0y0)/3+g(2y0y+y0^2)/3+h(x+2x0)/3+i(y+2y0)/3+j=0

置換は

  x^3→x0^2x,y^3→y0^2y,

  x^2y→(2x0y0x+x0^2y)/3,

  xy^2→(y0^2x+2x0y0y)/3,

  x^2→(2x0x+x0^2)/3,y^2→(2y0y+y0^2)/3,

  xy→(y0x+x0y+x0y0)/3,

  x→(x+2x0)/3,y→(y+2y0)/3,j→j(定数項)

 また,定数項を

 =2j−ax0^3−bx0^2y0−cx0y0^2−dy0^3+hx0+iy0

とおいた場合の接線の方程式は,

  a(3x0^2x−x0^3)+b(2x0y0x+x0^2y−x0^2y0)+c(y0^2x+2x0y0y−x0y0^2)+d(3y0^2y−y0^3)+2ex0x+f(y0x+x0y)+2gy0y+h(x+x0)+i(y+y0)+2j=0

となって,置換は

  x^3→(3x0^2x−x0^3)/2,y^3→(3y0^2y−y0^3)/2,

  x^2y→(2x0y0x+x0^2y−x0^2y0)/2,

  xy^2→(y0^2x+2x0y0y−x0y0^2)/2

  x^2→x0x,y^2→y0y,xy→(y0x+x0y)/2,

  x→(x+x0)/2,y→(y+y0)/2,j→j(定数項)

となります.置換公式は一意には決まらないのです.

 あるいは,定数項を

 =j−2ax0^3−2bx0^2y0−2cx0y0^2−2dy0^3−ex0^2−fx0y0−gy0^2

とおくと,接線の方程式は,

  a(3x0^2x−2x0^3)+b(2x0y0x+x0^2y−2x0^2y0)+c(y0^2x+2x0y0y−2x0y0^2)+d(3y0^2y−2y0^3)+e(2x0x−x0^2)+f(y0x+x0y−x0y0)+g(2y0y−y0^2)+hx+iy+j=0

置換は

  x^3→3x0^2x−2x0^3,y^3→3y0^2y−2y0^3,

  x^2y→2x0y0x+x0^2y−2x0^2y0,

  xy^2→y0^2x+2x0y0y−2x0y0^2

  x^2→2x0x−x0^2,y^2→2y0y−y0^2,

  xy→y0x+x0y−x0y0,

  x→x,y→y,j→j(定数項)

となります.2次式の場合と比べるといかめしく感じられるのですが,何か法則性はありそうです.

===================================

【4】平面代数曲線

 x,yの多項式:f(x,y)=0で与えられている曲線を代数曲線,多項式の次数をこの曲線の次数と呼びます.次数が2より大きい代数曲線は尖点や自己交差点のような特異点をもつこともあります.

 3次曲線とはf(x,y)=0が2変数x,yの3次あるいは3次以下の方程式で与えられた曲線です.3次曲線の例としては,ディオクレスのシッソイド(x^3+xy^2=y^2)があげられますが,これは古代ギリシアにおいて立方体倍積問題に用いられた曲線です.また,

  y=x^3+x^2+x+1

  y^3=xy^2−2x^2y+y−3

なども3次曲線で,一般式の項数は10になります.そこで,・・・

(Q)平面内n次曲線f(x,y)=0の一般式の項数は?

(A)3Hn=n+2Cn=(n+2)(n+1)/2

 2次曲線の分類については,3種類の円錐曲線,すなわち楕円,双曲線,放物線になることは既に述べたとおりですが,同じことをもっと高次の曲線・曲面に対して考えるのは自然なことでしょう.3次曲線の分類には,2次曲線とは異なった種類の難解さが要求されましたが,ニュートンはあらゆる場合を考察して,最終的に3次曲線は全部で78種類が必要であることを示すに至り,さらに3次曲線の一般式が5個の標準形に帰することを示しました.

 ニュートンの3次曲線の分類に引き続いて,オイラーは4次平面曲線の分類を企てましたが,可能な場合の数が非常に多いという理由で断念しています.この問題に対する答えは長い間知られていなかったのですが,プリュッカーが19世紀に4次曲線の152の型を数え上げることによって解かれました.

 また,一直線上にない3点を通る2次曲線,4点を通る3次曲線はただひとつ存在しますが,それは座標軸の方向が定まっている場合:

  y=ax^2+bx+c,y=ax^3+bx^2+cx+d

のようにy=f(x)の場合であって,一般には,平面上の任意の位置にある5点が唯一の円錐曲線を決定します.ニュートンは「プリンキピア」のなかで5点を通る円錐曲線の作図法などを案出しながら壮大な天体力学を展開しています.

 n次平面代数曲線の方程式f(x,y)=0は,(n+1)(n+2)/2個の係数をもっていますが,fに定数を掛けても曲線は変わりませんから,n次曲線はn(n+3)/2個のパラメータに依っていることになります.そこで,平面内に与えられたn(n+3)/2個の点(xi,yi)を通るという条件によって曲線を決定するという問題が自然に提起されます.ニュートンはこうした研究を応用して,2次曲線上の5点,3次曲線上の7点が与えられた場合にこれを作図する方法を見いだしたのです.

===================================

【5】代数曲面の分類

 空間内の2次曲面の分類もよく知られていて,2次曲面f(x,y,z)=0は楕円面,一葉双曲面,二葉双曲面,楕円放物面,双曲放物面のどれかに分類されます.2次曲面には無数に多くの直線がのっているものがあり,その場合には直線を織りなして得られる曲面という意味で「線織面」と呼ばれます.直線が乗っている曲面といいかえてももよいでしょう.

 円柱や円錐は線織面になっています.円柱や円錐は1通りの直線族でできていますが,線織面の中には2通りの直線族によって作られているものもあり,一葉双曲面(つづみ型)や双曲放物面がその例です.線織面のガウス曲率は常にゼロ以下ですが,ガウス曲率が常にゼロより小さく2通りの直線族によって作られているものは一葉双曲面と双曲放物面の2つに限られます.(3通りの直線族によって作られるものは平面だけです.)

 2次曲面が直線の族を含んでいるという事実は建築でも実際に応用されますが,カーブを描いた曲面をコンクリートを使って建設できるということは明らかに利点です.

 一方,3次曲面f(x,y,z)=0には高々27本の直線しか含まないことが証明されています(サルモン,1884年).1次曲面(平面)は∞^2個,2次曲面は∞^1個の直線を含み,一般の3次曲面では(少なくとも1本の直線を含むが)その数は高々有限個(27本)です.それに対して,一般のn次曲面(n>3)は直線を全然含んでいません.

 代数曲線は,種数を用いて有理曲線,楕円曲線,超楕円曲線などに分類されましたが,(極小)代数曲面は種数と小平次元,不正則数の組合せを使って分類され,K3曲面,エンリケス曲面,アーベル曲面,楕円曲面,超楕円曲面などに分類されることが示されています.

 このようにして,1900年当時まで,5次曲線までと3次曲面までのトポロジカルな分類は既に知られていたようです.

===================================