■トロコイドの幾何学(その3)

  x=r1cosω1t+r2cosω2t

  y=r1sinω1t+r2sinω2t

は,ω2=−ω1のとき楕円を描きますが,

  ω1/ω2=k,r2/r1=|k|

という比をもつとき,kサイクロイドを描くことになります.

 kが無理数のときは代数的ではなく,半径がr1+r2,|r1−r2|の2つの円で囲まれた環状領域を埋めつくします.kが有理数のときは周期的となり,サイクロイドは代数曲線であることが証明されています.たとえば,アステロイドとネフロイドは6次曲線,カージオイドとデルトイドは4次曲線です. 

アステロイド:f(x,y)=(x^2+y^2)^3−48(x^2+y^2)^2+432x^2y^2+768(x^2+y^2)−4096=0

ネフロイド:f(x,y)=(x^2+y^2)^3−12(x^2+y^2)^2+48x^2−60y^2−64=0

カージオイド:f(x,y)=(x^2+y^2)^2−6(x^2+y^2)+8x−3=0

デルトイド:f(x,y)=(x^2+y^2)^2+18(x^2+y^2)−8x(x^2−3y^2)−27=0

 m,nが異なる有理数値をとる

  x=(m−1)rcosθ+rcos(m−1)θ

  y=(n−1)rsinθ−rsin(n−1)θ

で定義される一般化したハイポサイクロイド曲線も次数の高い代数曲線となります.しかし,実際に代数曲線の方程式を求めることはかなり大変な計算となります.今回のコラムではトロコイド曲線の符号,周期,係数が次数に及ぼす影響を調べてみることにします.

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【1】トロコイド曲線の符号

 回転子が原点を中心とする円周上を公転角α(反時計回り)で動き,中心の周りを自転角β(反時計回り)で回転する場合,

  x0=acosα,y0=asinα

  [x]=[cosβ,−sinβ][b]+[x0]

  [y] [sinβ, cosβ][0]+[y0]

より

  x=acosα+bcosβ

  y=asinα+bsinβ

が得られます.もし,回転子の位相がπずれているならば,β→β+πですから

  x=acosα+bcos(β+π)=acosα−bcosβ

  y=asinα+bsin(β+π)=asinα−bsinβ

このことはb→−bとしても同じです.

 また,公転と自転の向きを逆方向にとる,すなわち,回転子が原点を中心とする円周上を公転角α(反時計回り)で動き,中心の周りを自転角β(時計回り)で回転する場合,

  x0=acosα,y0=asinα

  [x]=[cos(−β),−sin(−β)][b]+[x0]

  [y] [sin(−β), cos(−β)][0]+[y0]

より

  x=acosα+bcosβ

  y=asinα−bsinβ

もし,回転子の位相がπずれているならば,

  x=acosα−bcosβ

  y=asinα+bsinβ

 これで,4つの組み合わせのトロコイド曲線

  x=acosα±bcosβ

  y=asinα±bsinβ

が得られましたが,bあるいはβが負になることを許せば,いずれも

  x=acosα+bcosβ

  y=asinα+bsinβ

と書くことができますから,代数曲線の次数に関して符号の組み合わせの違いは本質的ではありません.

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【2】トロコイド曲線の周期

  x=acosα+bcosβ

  y=asinα+bsinβ

において,β=nαの場合を考えてみます.この曲線は半径aの円と半径bの円の回転運動の組み合わせになるわけですが,前者の周期は2π,後者の周期は2π/nとなり,周期がトロコイド曲線の次数に対して最も本質的な影響を及ぼすことは直ちに理解できます.

 後者が1回転したとき,前者はまだ1/n回転しかしていません.周期的となるためには両者が同時に整数回回転しなければなりません.nが整数ならば後者がn回転したとき前者は1回転するのですが,nが有理数の場合,たとえばn=6.03のときは後者がr回転したとき,前者はr/6.03回転ですから,これが整数となるためにはr=603回転必要になります.

  x=mcosθ+cosmθ

  y=nsinθ−sinnθ

の場合はr/mとr/nが同時に整数にならなければなりません.m=n=6.03ならばr=603ですが,m=6.01,n=6.03ならば前者が1回転したとき後者は6.01/6.03回転ですから,6.01r/6.03が整数となるrを求まなければなりません.計算は省略しますが,かなり次数の高い代数曲線となることがわかります.

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【3】トロコイド曲線の係数

 ハイポサイクロイドではm=n−1,エピサイクロイドではm=n+1とおくと,

  x=mcosθ+cosmθ

  y=msinθ+sinmθ

と表されますが,a/b比が整数とならないハイポ(エピ)トロコイド

  x=acosα+bcosβ・・・(1)

  y=asinα+bsinβ・・・(2)

の違いも本質的なものでないことがわかります.

 これまでの議論同様,(1)^2+(2)^2より

  cos(α+β)=(x^2+y^2−a^2−b^2)/2ab

と表されるからです.したがって,トロコイド曲線の代数曲線としての次数を決定するためにはハイポ(エピ)サイクロイドの場合を考えればよいことになります.

 係数の違いは周期の違いほど代数曲線としての次数に影響を与えるものではありませんが,まったく与えないかどうかについてはすぐには答えられません.たとえば,トロコイド曲線

  x=acosθ+ccosnθ

  y=asinθ+csinnθ

とb≠a,すなわち,楕円上に中心をおき,円周上を回転する点の軌跡

  x=acosθ+ccosnθ

  y=bsinθ+csinnθ

のような係数の違いが次数に影響を及ぼすかどうかについては宿題としておきたいと思います.

[問]楕円上に中心をおく円周上を回転する点の軌跡

  x=2cosθ+ccos3θ

  y= sinθ+csin3θ

の代数曲線としての次数?

[問]楕円上に中心をおく単振動する点の軌跡

  x=2cosθ

  y= sinθ+csin3θ

の代数曲線としての次数?

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