■奇数ゼータと杉岡の公式(その21)

  Hn=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n

  ζn=1/1^s+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・+1/n^s

と定義します.オイラーの無限級数和ζ∞=Σ1/n^sは,sの関数とみるとき,ゼータ関数ζ(s)として知られており,ゼータ関数は無限調和級数H∞=ζ(1)=∞を一般化したものと考えることができます.

 調和級数Hn=Σ(1/n)は非常にゆっくりとですが大きくなり,ついには無限大に発散すること,すなわち,

  Hn=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n〜logn→∞

は容易に示すことができます.

 また,素数の逆数の和

  Hprime=Σ(1/p)=1/2+1/3+1/5+1/7+1/11+・・・+1/n〜loglogn→∞

より,素数の逆数の和は発散することが示されます.→コラム「ハーディ・リトルウッド予想とアルティン予想」参照

 1737年,オイラーはこのようにして素数の逆数の和が無限大になることを見つけました.逆に,このことから素数が無限個あることは簡単にわかります.また,調和級数Σ(1/n)は発散し,またオイラー級数Σ(1/n^2)=π^2/6で収束しますから,素数は平方数ほどまばらには分布していないこともわかります.

 今回のコラムでは,Sugimoto氏,杉岡幹生氏に教えてもらったGourdon/Sebahのサイト

  http://numbers.computation.free.fr/Constants/Miscellaneous/constantsNumTheory.html

の助けを借りて,分母が素数の「素数ゼータ関数」

  ζp(s)=Σ(1/p^s)=1/2^s+1/3^s+1/5^s+1/7^s+1/11^s+・・・

について紹介したいと思います.

  ζ(s)=Σ1/n^s=Π(1−p^-s)^-1

の右辺はオイラー積と呼ばれ,ゼータ関数と素数の間をつなぐ式になっていますが,素数ゼータ関数のようにさまざまのゼータごとに素数のいろいろな面をみることができます.

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【1】素数ゼータ関数

 ζp(1)=∞ですが,Re(s)>1ならばζp(s)は収束します.そして,メビウス関数を用いると収束が加速されます.ζ(s)^-1はメビウス関数μ(n)のディリクレ型母関数

  ζ(s)^-1=Σμ(n)/n^s

ですが,さらに,ゼータ関数と素数ゼータ関数の間には

  logζ(s)=−Σlog(1−p^-s)^-1=Σζp(sn)/n

が成り立ちますから,メビウスの反転公式により

  ζp(s)=Σμ(n)/n・logζp(sn)

メビウス関数がゼータ関数と素数ゼータ関数の間をつなぐ式になっているというわけです.

 これより,

  ζp(2)=logζ(2)−logζ(4)/2−logζ(6)/3−logζ(10)/5+・・・

より

  ζp(2)=0.4522474200・・・

 1748年,オイラーはこのようにして素数ゼータ関数の値を求めました.以下同様に,

  ζp(3)=0.1747626392・・・   ζp(6)=0.0170700868・・・

  ζp(4)=0.0769931397・・・   ζp(7)=0.0082838328・・・

  ζp(5)=0.0357550174・・・   ζp(8)=0.0040606140・・・

 興味があるのは数値計算ではなく,解析的な値です.杉岡幹生氏は

  http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page138.htm

の中でζp(s)=kζ(s)あるいはζp(s)=Σwiζ(i)のような表現を模索しているのですが,容易な問題ではありません.

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【2】アルティンの定数

  1/7=0.142857142857・・・

      (循環節:142758の長さ6)

  1/17=0.0588235294117647・・・

      (循環節:0588235294117647の長さ16)

のように,1/pを10進法で小数展開したときの循環節の長さがp−1となる特別な素数を10を原始根とする素数といいます.

 10を原始根とする素数,たとえば,

  7,17,19,23,29,47,59,61,97,・・・

の密度について,アルティンは

  π10(x)=Cx/(logx)

と予想しています.ただし,pを素数として,Cは

  C=Π(1−1/p(p−1))=0.37395・・・(アルティンの定数)

 ここでオイラー積Π(1−p^-s)^-1のアナログ:アルティン積が出現しました.もし,これが正しいとすれば,このような素数は無限にあり,素数全体のうち約3/8を占めることになるのですが,残念ながら証明されていません.しかしながら,リーマン予想:ζ(s)の零点がs=−2,−4,・・・,−2nとs=1/2+tiの線上にある:が正しいと仮定するとアルティン予想の成り立つことが証明できることがわかっています.

  logC=Σlog((p^2−p−1)/p(p−1))

      =Σlog((1−φ/p)(1−ψ/p)/(1−1/p))

      =−Σ(fn−1)/n・ζp(n)

ここでφ,ψはp^2−p−1=0の2根,{fn}はフィボナッチ数列でf1=1,f2=3,fn+2=fn+1+fn

 これより

  logC=−ζp(2)−ζp(3)−ζp(4)・3/2−・・・

  C=0.3739558136・・・

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【3】ハーディ・リトルウッドの双子素数定数

 1845年にフランスの数学者ベルトランは任意の数nと2nの間には少なくとも一つの素数pが存在する(n<p≦2n),同じことですが素数pの次の素数は2pより小さい(pk+1 <2pk )という予想を立てました.50年以上たって,ロシアの数学者チェビシェフがこれを証明しました.チェビシェフはもっと狭い範囲の中にも必ず素数が存在することを証明したのですが,1911年,イタリアの数学者ボノリスがnと3n/2の間にある素数の個数の近似式を導きました.

 一方,その差が2であるような素数のペア(p,p+2)を双子素数と呼びます.小さな双子素数には(3,5),(5,7),(11,13),(17,19),(29,31),(41,43)・・・など,ちょっと大きなものでは(22271,22273),・・・などがあります.

 双子素数は数が大きくなるにつれてどんどん少なくなっていくのですが,双子素数が無限に多く存在するかどうかは今のところわかっていません.双子素数の場合に難しいのは素数全体のときと異なって,双子素数の逆数の和

  1/3+1/5+1/5+1/7+1/11+1/13+1/17+1/19+・・・+1/p+1/(p+2)+・・・

が無限大とはならずに,その和が1.90195・・・(オランダの数学者,ブルンの定数:1919年)となることが証明されている点です.このことは,双子素数が無限にあるとしてもまれにしか存在しないことを示しています.そのため,双子素数が無限に存在することの有力な証拠は見つかっているにもかかわらず,完全な証明には至っていないのです.

 双子素数の分布に関しては,ハーディとリトルウッドによって,

  πtwin(x)〜Cx/(logx)^2

ただし,pを3以上の素数として

  C=2Π(1−1/(p−1)^2)=1.3203・・・

と予想されています.ここで,Cはオイラー積のアナログであり,双子素数の場合のゼータ関数とみなすことができます.定まった用語ではないのですが,ハーディ・リトルウッド積と呼んでいいでしょう.この法則は経験的には正しそうであり,双子素数はたぶん無限組あると信じられています.

  C2 =Π(1−1/(p−1)^2)=Πp(p−2)/(p−1)^2

    =Π(1−2/p)/(1−1/p)^2

アルティンの定数の場合と同様に

  logC2 =Σlog((1−2/p)/(1−1/p)^2)

       =−Σ(2−2^n)/n・(ζp(n)−1/2^n)

これより

  C2 =0.6601618158・・・

 現在のところ,双子素数予想にもっとも接近した結果は,1966年,陳景潤によるもので,陳景潤は素数と概素数(素因数を2つしかもたない合成数)のペアは無限に存在することを証明しました.これは無限に多くの双子素数が存在することに大変接近した結果であって,双子素数予想の証明に向かって最初の大きな一歩と考えられます.もう一歩進んで「概」を取り去ることに成功した者が,素数理論の大快挙を成し遂げたことになるのです.

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【4】4で割って1余る素数と3余る素数

 素数が無限個あることはわかっていますが,ガウスはπ(x)をx以下の素数の個数とすると,

  π(x)〜x/logx   (x→∞)

が成り立つだろうと予想しました.この素数密度予想はリーマンの研究を経て,1896年,フランスの数学者アダマールとプーサンによって証明されました.これを素数定理といいます.

 また,素数は4で割って1余る素数と4で割って3余る素数の2種類に分類できます(2だけは例外).前者の素数はつねに2つの2乗数の和となりますが,後者の素数は決してその形には表せません.

 (例)13=2^2+3^2,19=?^2+?^2

この定理はフェルマー・オイラーの2平方和定理として知られています.

 それでは,4で割って1余る素数と4で割って3余る素数ではどちらが多いでしょうか? 実は,4で割って1余る素数,4で割って3余る素数の逆数和がともに無限大になり,どちらも無限個あってほぼ同じくらい存在することが示されています.

  π4,1(x)〜π4,3(x)〜1/2・x/logx

 また,

  ζp(s)=1/2^s+ζq(s)+ζr(s)

  ζq(s)=1/5^s+1/13^s+1/17^s+・・・

  ζr(s)=1/3^s+1/7^s+1/11^s+・・・

と定義すると,これらはメビウス関数とディリクレのL関数

  L(s)=1/1^s−1/3^s+1/5^s−1/7^s+・・・

を用いて

  ζp(s)=1/2Σμ(2n+1)/(2n+1)logγ(2n+1)s

  ζq(s)=1/2Σμ(2n+1)/(2n+1)logα(2n+1)s

  ζr(s)=1/2Σμ(2n+1)/(2n+1)logβ(2n+1)s

  γ(s)=ζ^2(s)/ζ(2s)

  α(s)=(1+2^-s)^-1L(s)ζ(s)/ζ(2s)

  β(s)=(1−2^-s)ζ(s)/L(s)

と表されます.

 これより

  ζq(2)=0.0538137635・・・   ζr(2)=0.1484336564・・・

  ζq(3)=0.0087550827・・・   ζr(3)=0.0410075565・・・

  ζq(4)=0.0016495841・・・   ζr(4)=0.0128435556・・・

と計算されます.

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【5】杉岡の交代素数ゼータ関数

 さらに,杉岡氏は交代素数ゼータ関数とも呼ぶべき

  ζs(s)=1/2^s−1/3^s+1/5^s−1/7^s+1/11^s−・・・

をも考察しています.Re(s)>1ならば収束しますが,4で割って1余る素数と3余る素数のような規則性もなく一層むずかしい問題になります.

[参]マンゴルト関数

  −ζ(s)’/ζ(s)=ΣΛ(n)/n^s

 オイラー積のように,マンゴルト関数もゼータ関数と素数の間をつなぐ式になっています.

  ζ(s)=Σ1/n^s=Π(1−p^-s)^-1

  logζ(s)=−Σlog(1−p^-s)

  −ζ(s)’/ζ(s)=Σp^-slogp/(1−p^-s)

           =Σlogp/(p^s−1)

  ζ’(s)=−Σlogn/n^s

[参]ディリクレのL関数

  L(s)=1/1^s−1/3^s+1/5^s−1/7^s+・・・

において,s=1とおいたグレゴリー・ライプニッツ級数(1671年)

  1/1−1/3+1/5−1/7+1/9−1/11+・・・

の収束値を求めてみましょう.

  1/(1+x)=1−x+x^2−x^3+・・・

これを項別積分すると

  log(1+x)=x−1/2x^2+1/3x^3−1/4x^4+・・・

が得られます.ここで,xをx^2に置き換えると

  1/(1+x^2)=1−x^2+x^4−x^6+・・・

これを項別積分して

  arctanx=x−1/3x^3+1/5x^5−1/7x^7 +・・・

両辺にx=1を代入すると,グレゴリー・ライプニッツ級数は

  arctan1=π/4

に収束することがわかります.Σ(-1)^(n-1)/(2n+1)=π/4

 s=2とおいた

  1/1^2−1/3^2+1/5^2−1/7^2+・・・

 =1/2∫(0,π/2)θ/sinθdθ=0.91596・・・

この数はカタランの定数として知られるものです.オイラーの定数と同様,超越数であることが予想されているものの,いまだに無理数であるかどうかさえも証明されていません.この値は第1種完全楕円積分

K(k)=∫(0,π/2)dθ/root(1-k^2sin^2θ) (ルジャンドルの標準形)

として,2∫(0,1)K(k)dkに等しくなります.

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