■デルトイドの幾何学(その7)

 デルトイドには「接線が曲線に挟まれる部分の長さは一定である」という性質があります.これはデルトイドでは長さ4rの棒をデルトイドに接しながら1回転することができるというのと同一です.

 この性質を拡張させた問題を考えてみると,一つには

[1]長さが1である線分を1回転させるのに必要な最小面積の図形は何か.

もう一つには

[2]正三角形に内接しながら回転することができる円以外の図形は何か.

になります.前者は有名な「掛谷の問題」であり,また,後者の解としては「藤原・掛谷の2角形」があげられます.

 この2つの方向の派生問題はともに掛谷宗一,藤原松三郎(東北大学)により提出され発展しました.今回のコラムではこれらの問題を取り上げますが,今年は東北大学創立百周年という節目にあたりますから,これらの問題に触れておくことは歴史的意義が深いと思われます.

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【1】掛谷の問題

 1917年,掛谷宗一は「長さが1である線分を1回転させるのに必要な最小面積の図形は何か」という問題を提出しました.凸領域となる最小の領域は,高さが1の正三角形(面積√3/3)であることが藤原松三郎によって予想され,1921年,パルによって証明されています.それでは,凸領域でなくてもよいとしたとき,解はどうなるのでしょうか?

 デルトイドでは長さが一定の線分をデルトイドに接しながらスムーズに1回転させることができるので,この事実により掛谷は面積π/8のデルトイドが「掛谷の問題」の解であると予想しましたし,多くの数学者も答はデルトイドではないかと予想していたようです.

 ベシコビッチの論文がでた1927年以降も,単連結となる最小の星状領域はデルトイド(面積:π/8)であると信じられていました.ところが,これらより面積が小さい図形が考えだされました.デルトイドが3個の尖点をもっていることに着目すると,5個の尖点,7個の尖点,・・・をもつ図形を考えることができるのです.

 たとえば,2n+1個の尖点と円弧をもち,図形全体が内接している円に直交している星状領域(面積:Sn)を考えると,n→∞のとき

  Sn→(5−2√2)π/24<π/11

を示すことができます.この形はフーコーの振り子を何万回もらせたときの形になり,その面積はπ/11よりも小さくなります.このようにして,単連結となる最小の星状領域は,面積π/8のデルトイドではなく,別の星状図形であることがブルームとシェーンベルグにより発見されました(1963年).

 以下の図ではデルトイドも同時に示しますが,デルトイドとは異なり,これらの星状図形の接線が曲線に挟まれる部分の長さは一定であるという性質は成立しません.点Pをこの曲線上の任意の点とすると,点Pが尖点上にあるとき接線の長さは最大,弧の中間点にあるとき最小になります.

 そこで,半径rの円の直径上に長さ1の線分がおけるという条件でなく,接線の長さの最小値が1のときの星状領域の面積Snを求めて,デルトイドの場合と比較してみました.

[1]デルトイド

[2]n=1(3尖点星状領域)

[3]n=2(5尖点星状領域)

[4]n=3(7尖点星状領域)

[5]n=4(9尖点星状領域)

 3尖点星状領域(n=1)はデルトイドよりも大きいのですが,5個の尖点をもつ図形(n=2)の面積はデルトイドの面積π/8(.392699)よりも小さく約3/4(.316801)になります.以下Snは漸減し,nが大きいところでは

  Sn→(5−2√2)π/24<π/11

になるというわけです.

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【2】藤原・掛谷の二角形

[Q]デルトイドの接線が曲線に挟まれる部分の中点の描く軌跡は何か.

[A]「2円定理」により,半径2rの円が半径R=3rの円の内側を転がるとき,円上の固定された直径の描く包絡線はデルトイドになるわけですが,デルトイドの場合,この直径の両端も同じデルトイド上にあり,接線の中点の軌跡は半径rの円になります.

 以下,簡単な図形的証明をアニメで掲げます.

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 デルトイドでは長さが一定の線分をデルトイドに接しながらスムーズに1回転させることができるのですが,正3角形に内接しながら回転することができる凸閉曲線は円以外にも存在します.

 このような図形の一例が,正三角形の中線を一辺とする正三角形の頂点を中心として,中線の長さを半径とする2個の円弧からなる曲線(藤原・掛谷の2角形)ですが,このような図形を応用すれば正3角形の穴をあけるドリルを作ることが可能になります.

 正三角形を太ったデルトイドとみなすと,太った線分に相当するものが藤原・掛谷の2角形です.また,正三角形の中の藤原・掛谷の2角形の中心の運動は3つの楕円の弧を組み合わせた三角おむすび形の軌道になっています.以下,解をアニメで掲げます.

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 藤原は「微分積分学」など有名な解析学の本を著した数学者藤原松三郎,掛谷は「長さが1である線分を1回転させるのに必要な最小面積の図形は何か」など数々の魅力的な問題(掛谷の問題)を提出したことで知られる数学者掛谷宗一のことです.

 藤原・掛谷の2角形は「定幅図形」ではありません.「定幅図形」であるルーローの三角形とは共通点もあり相違点もあるのですが,正3角形に内接しながら回転することできる性質をもつ曲線の中で囲む面積が最小のものは,藤原・掛谷の2角形であることが証明されています.

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