無限大になるところをうまく引き去って有限の値をだすことを物理学の用語で「繰り込み」といいますが,オイラーの計算の仕方を紹介すると
φ(s)=1-1/2^s+1/3^s-1/4^s+・・・=(1-2^(1-s))ζ(s)
より
φ(0)=-ζ(0),φ(-1)=-3ζ(-1),φ(-2)=-7ζ(-2),φ(-3)=-15ζ(-3)
また,
f(x)=1+x+x^2+x^3+・・・=1/(1-x)
g(x)=xdf(x)/dx=x+2x^2+3x^3+4x^4+・・・=x/(1-x)^2
h(x)=xdg(x)/dx=x+2^2x^2+3^2x^3+4^2x^4+・・・=x(1+x)/(1-x)^2
より
f(-1)=φ(0)=1/2,g(-1)=-φ(-1)=-1/4,h(-1)=-φ(-2)=0
これから
ζ(0)=-1/2,ζ(-1)=-1/12,ζ(-2)=0,・・・
となる.
オイラーの計算は,交代級数
φ(s)=1-1/2^s+1/3^s-1/4^s+・・・=(1-2^(1-s))ζ(s)
を用いるもので,杉岡氏がテイラーシステムと呼んでいる計算方法
S=1+1/√2+1/√3+1/√4+・・・=ζ(1/2)
T=1−1/√2+1/√3−1/√4+・・・
T=S−2(1/√2+1/√4+・・・)
=S−2/√2(1+1/√2+1/√3+1/√4+・・・)
=(1−√2)S
ζ(1/2)=S=T/(1−√2)
と本質的に同等です.ここで交代級数Tは収束しますから,ζ(1/2)は
ζ(1/2)=S=T/(1−√2)
として求めることができるというわけです.
杉岡氏のテイラーシステムでは,交代級数がカギになるのですが,ライプニッツの判定条件
「交代級数Σ(-1)^iaiは
ai>0,ai+1≦ai,limai=0
を満たすとき,収束する」により,これらの級数は収束します.
同様に,正項級数S
S=1+1/2+1/3+1/4+・・・=ζ(1)
は発散しますが,収束する交代級数
T=1−1/2+1/3−1/4+・・・=log2
を考えて
T=S−2(1/2+1/4+・・・)
=S−2/2(1+1/2+1/3+1/4+・・・)
=(1−1/2^0)S
より
log2=(1−1/2^0)ζ(1)=0・∞
ζ(1)はリーマン・ゼータ関数の極であり,特異点と考えることができるわけですが,杉岡幹生氏はHPの記事
http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page137.htm
の中で,交代級数を利用した特異点解消法を紹介しています.
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【1】杉岡氏による特異点解消
f(x)=1+x+x^2+x^3+・・・=1/(1-x)
g(x)=1/2+x/2^2+x^2/2^3+x^3/2^4+・・・=1/2/(1-x/2)=1/(2-x)
h(x)=1/3+x/3^2+x^2/3^3+x^3/3^4+・・・=1/3/(1-x/3)=1/(3-x)
ですから
F(x)=f(x)+g(x)+h(x)+・・・=1/(1-x)+1/(2-x)+1/(3-x)+・・・
=ζ(1)+ζ(2)x+ζ(3)x^2+ζ(4)x^3+・・・
この式はゼータ関数の母関数であり美しい式ではあるのですが,右辺に特異点ζ(1)が出現しているため,取り扱い困難になっています.そこで,杉岡氏はこれまでの思考の流れの中から交代級数を利用する方法に自然に到達しました.
すなわち,
G(x)=f(x)-g(x)+h(x)-・・・=1/(1-x)-1/(2-x)+1/(3-x)-・・・
=log2+(1-1/2)ζ(2)x+(1-1/2^2)ζ(3)x^2+(1-1/2^3)ζ(4)x^3+・・・
となって,特異点ζ(1)が解消されています.
また,ここで,
log2=(1-1/2^0)ζ(1)
として意味をもたせると
G(x)=(1-1/2^0)ζ(1)+(1-1/2^1)ζ(2)x+(1-1/2^2)ζ(3)x^2+(1-1/2^3)ζ(4)x^3+・・・
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【2】拡張
次に
f(x)=1+x+x^2+x^3+・・・=1/(1-x)
g(x)=1+x/2+(x/2)^2+(x/2)^3+・・・=1/(1-x/2)=2/(2-x)
h(x)=1+x/3+(x/3)^2+(x/3)^3+・・・=1/(1-x/3)=3/(3-x)
に対しては
F(x)=f(x)+g(x)+h(x)+・・・=1/(1-x)+2/(2-x)+3/(3-x)+・・・
=ζ(0)+ζ(1)x+ζ(2)x^2+ζ(3)x^3+・・・
G(x)=f(x)-g(x)+h(x)-・・・=1/(1-x)-2/(2-x)+3/(3-x)-・・・
=1/2+log2・x+(1-1/2)ζ(2)x^2+(1-1/2^2)ζ(3)x^3+・・・
ここで,
1/2=(1-1/2^(-1))ζ(0)
log2=(1-1/2^0)ζ(1)
として意味をもたせると
G(x)=(1-1/2^(-1))ζ(0)+(1-1/2^0)ζ(1)x+(1-1/2^1)ζ(2)x^2+(1-1/2^2)ζ(3)x^3+・・・
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
これまで,
F(x)=f(x)+g(x)+h(x)+・・・=1^s/(1-x)+2^s/(2-x)+3^s/(3-x)+・・・
G(x)=f(x)-g(x)+h(x)-・・・=1^s/(1-x)-2^s/(2-x)+3^s/(3-x)-・・・
において,s=0,1の場合をみてきました.
F(x,0)=ζ(1)+ζ(2)x+ζ(3)x^2+ζ(4)x^3+・・・
F(x,1)=ζ(0)+ζ(1)x+ζ(2)x^2+ζ(3)x^3+・・・
G(x,0)=(1-1/2^0)ζ(1)+(1-1/2^1)ζ(2)x+(1-1/2^2)ζ(3)x^2+(1-1/2^3)ζ(4)x^3+・・・
G(x,1)=(1-1/2^(-1))ζ(0)+(1-1/2^0)ζ(1)x+(1-1/2^1)ζ(2)x^2+(1-1/2^2)ζ(3)x^3+・・・
このことから,係数列はsとともに1つずつシフトすることが予想されます.すなわち,
F(x,s)=ζ(1-s)+ζ(2-s)x+ζ(3-s)x^2+ζ(4-s)x^3+・・・
G(x,s)=(1-1/2^(-s))ζ(1-s)+(1-1/2^(1-s))ζ(2-s)x+(1-1/2^(2-s))ζ(3-s)x^2+(1-1/2^(3-s))ζ(4-s)x^3+・・・
そして,これらは実際に正しい式であることが杉岡氏により確認されています.
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【3】ゼータ関数と母関数
今回のコラムではゼータ関数のフーリエ型母関数を取り上げましたが,整数論に関係するディリクレ型母関数についても少しだけ調べてみましょう.
その差が2であるような素数のペア(p,p+2)を双子素数と呼びます.小さな双子素数には(3,5),(5,7),(11,13),(17,19),・・・など,ちょっと大きなものでは(22271,22273),・・・などがあります.
双子素数が無限に多く存在するかどうかは今のところわかっていません.双子素数の場合に難しいのは素数全体のときと異なって,双子素数の逆数の和
1/3+1/5+1/5+1/7+1/11+1/13+1/17+1/19+・・・+1/p+1/(p+2)+・・・
が無限大とはならずに,その和が1.90195・・・(ブルンの定数:1919年)となることが証明されている点です.このことは,双子素数が無限にあるとしても,まれにしか存在しないことを示しています.そのため,双子素数が無限に存在することの有力な証拠は見つかっているにもかかわらず,完全な証明には至っていないのです.
自然数nの約数の個数をd(n)とします.すなわち,d(n)は約数関数であり,d(n)=2のときnは素数,d(n)=d(n+2)=2のとき(n,n+2)は双子素数です.
|ζ(s)|^2=Σd(n)/n^s
と表されることより,|ζ(s)|^2はd(n)のディリクレ型母関数であることがわかります.同様に,
メビウス関数 : ζ(s)^-1=Σμ(n)/n^s
マンゴルト関数: −ζ(s)’/ζ(s)=ΣΛ(n)/n^s
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