■無理数・代数的数・超越数(その9)

 数には整数,分数,根号数,超越数の種類があり,整数,有理数,代数的数,実数という階層をなしている.整数,分数,根号数は数直線のうちのほんのわずかな部分を占めるにすぎない.数直線上の数の大部分を占めるのはπやeなどの超越数である.

 超越数の集合の大きさはルベーグ測度1であり,実数から無作為にひとつ数を選ぶとしたら,それは超越数なのである.

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【1】ベンフォードの法則(ニューカムの法則)

 ベンフォードは対数表の対数表の最初が残りの部分よりもひどく汚れていることに気づき,「1ではじまる数が多いのはなぜか」という問題に説明を与えました.

 先頭の数字がどのような確率で出現するかを考えましょう.単純に各数字(0〜9)の出現確率が同じと考えれば,同じ確率1/9で現れるはずですが,実際には1から始まる数値が圧倒的に多く30%くらいもあります.

 たとえば,簡単な例として,2のベキ乗2^nを順に並べてそれぞれの最大桁の数を取り出すと

  2,4,8,16,32,64,128,256,512,1024,2048,・・・

  →2,4,8,1,3,6,1,2,5,1,2,・・・

となっているのですが,最大桁がk(1≦k≦9)である確率はn→∞のとき,

  log10((k+1)/k)

に収束することが知られています.

 したがって,最大桁の頻度は1が一番高く

  1→log102=0.3010,

以下,

  2→log103/2=0.1761,

  3→log104/3,

  ・・・・・・・・・,

  9→log1010/9=.0458

の順になるというわけです.

 このことは計算尺を見れば1で始まる数が全体の約30%を占めることとまったく同じで,逆に,9から始まる数値は4.5%程度まで落ちるのです.この現象はベンフォードの法則として知られていますが,実はアメリカの天文学者ニューカムが1881年に発見したのが最初ということです.

 驚いたことにベンフォードの法則もパワー則の表れだそうです.

  [参]松葉育雄「複雑系の数理」朝倉書店

にしたがえば,N桁の数字までの累積分布をP(N)とすると

  p(k)=∫(k,k+1)P(N)dN

と表されるのですが,ベンフォードの法則はP(N)としてベキ指数1のジップ分布

  P(N)〜1/N

を仮定することにより

  p(k)=∫(k,k+1)P(N)dN=log10((k+1)/k)

と再現できるというのです.

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【2】実数のm進展開の分布とハウスドルフ次元

 実数のm進展開は0〜m−1の数字で表されますが,各数字(0〜m−1)の出現確率をp0,p1,・・・,pm-1

  Σpk=1,すなわち,p0+p1+・・・+pm-1=1

とします.

 0と1の間の数のうち,ほとんどの実数はm進展開したとき,各桁に現れる数字の出現確率が均等であることが知られています(正規数).

 また,F(p0,p1,・・・,pm-1)を[0,1)上の実数で,各桁に現れる数字(0〜m−1)の出現確率がp0,p1,・・・,pm-1であるような実数の集合とすると,Fのハウスドルフ次元dimFは

  dimF=−Σpklogpk/logm

で定義されます.正規数の集合F(1/m,・・・,1/m)のルベーグ測度1であり,したがって,その次元も1となります.

 また,0・log0=0と約束しておくことにして,[0,1]を3等分して中央の区間を取り除くという操作を繰り返します.このようにして得られる3分割カントル集合は最も有名なフラクタル集合の1例です.3分割カントル集合は3進展開の各桁に1の現れない数の集合F(1/2,0,1/2)ですが,そのハウスドルフ次元は

  log2/log3=0.6309・・・

となります.

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【3】連分数展開

 連分数展開が有限で終わることと有理数であることは同値です.そこで,2次方程式の解となる√nの連分数展開を求めると,たとえば

  √2=[1:2,2,2,2,・・・]

  √3=[1:1,2,1,2,1,2,1,2,・・・]

  √7=[2:1,1,1,4,1,1,1,4,・・・]

のように循環型の単純連分数に展開されることが知られています.一般に,2次の無理数(整数係数の2次方程式の解)は周期的な連分数展開をもちます(ラグランジュの定理).

 平方根を無限連分数に表す手順はわりやすく,たとえば,1<√2<2であるから

  √2=1+(√2−1)

    =1+1/(√2+1)    2<√2+1<3

    =1+1/{2+(√2−1)}

    =1+1/{2+1/(√2+1)}

    =1+1/{2+1/(2+(√2−1)}

    =1+1/{2+1/(2+1/(√2+1)}

    =1+1/{2+1/{2+1/{2+1/{2+・・・

の手順を何度も繰り返すことにより,

  √2=[1:2,2,2,2,・・・]

ができあがります.また,黄金比φ=(1+√5)/2は,

  φ=[1:1,1,1,,1,・・・]

で表されます.

 ここでは,m進展開の代わりに連分数展開を用いて数の集合を定義してみますが,たとえば,正の実数が無限連分数展開され,そのすべての部分商が1または2であるような実数の集合のハウスドルフ次元は0.531280506・・・であることが計算されています.

 しかし,3次以上の方程式の解,たとえば3√2の連分数展開を求めると,

  3√2=[1:3,1,5,1,1,4,1,1,8,1,14,1,10,2,1,4,・・・]

の一般項は求めることができません.この展開に現れる整数に最大値があることも示すこともできないのです.

 なお,ヒンチンは,一般の連分数

  [a0:a1,a2,a3,・・・,an,・・・]

の大多数についてあてはまる法則を発見しています.ヒンチンの定理とは,幾何平均(a1a2・・・an)^1/nの値がn→∞のとき,ある無限乗積から定まる定数

  (a1a2・・・an)^1/n→Π(1+1/k(k+2))^logk/log2=2.685452001・・・

に収束するというものです.ただし,分母に明確なパターンのある代数的数やeをはじめとするいくつかの超越数は例外になります.

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【4】ディオファントス近似と位数

 連分数とディオファントス近似の理論は密接に関連しています.ディリクレの定理によれば「任意の実数xについて

  |x−p/q|<1/q^2

を満たす有理数p/qが存在する.」

 この条件を書き直せば

  ‖qx‖<q^(-1)

となる正の整数qが無限に多く存在するというわけです.

 実数xが無限に多くのqに対して

  ‖qx‖<q^(1-α)

となるとき,位数αまで近似可能といいます.そして,α>2となる実数は存在し,そのような実数全体のハウスドルフ次元は2/αであることが証明されています(Jarnikの定理).

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