■5次方程式・再訪(その5)
【1】5次方程式への挑戦
5次方程式:
ax^5+bx^4+cx^3+dx^2+ex+f=0
の代数的解法,すなわち四則演算+,−,×,÷と根号√,3√,4√,・・・によって解を求めるという問題は,いまからほとんど4世紀も昔の問題です.
一般に,n次方程式:
anx^n+an-1x^(n-1)+・・・+ a1x+a0=0
に対してx’=x+an-1 /nan と変換(カルダノ変換)するとx^(n-1)の項が0である方程式に還元できます.3次方程式では2次の項,4次方程式では3次の項を欠いた方程式に変形しましたが,ではもっと低次の項の係数を0にできないか?と考えるのは自然な発想でしょう.
カルダノ・オイラー・フェラーリ・デカルトの解法は,いずれもカルダノ変換から説明される方法ですが,チルンハウスとその弟子たちは,
x^5+a1x^4+a2x^3+a3x^2+a4x+a5=0
に対して
y=x^4+b1x^3+b2x^2+b3x+b4
という変換を行い,うまくb1,・・・,b4を選ぶ方法を考えました(チルンハウス変換:1683年).
そうすることによって,4次の項と3次の項のない5次方程式が得られたのですが,さらに1843年にジラールは2次の項も消去できることを示しました.つまり,一般の5次方程式を
x^5+px+q=0
まで還元できることが判ったわけです(実際にこの作業を行うのは容易ではなく,コンピュータなしでは絶望的です).
この形は根と係数の関係を発見したジラールにちなんでジラールの標準形と呼ばれているのですが,ここでp=0ならば−qの5乗根としてxは求まります(q=0ならば4次方程式に帰着できます).しかし,さらにp=0にしようとすると,6次方程式を解く必要が生じて,問題がかえって難しくなってしまいました.
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【2】ラグランジュと置換
ラグランジュは,一般のn次方程式のn個の根x1,x2,・・・,xnと1のn乗根ζの式:
R=Σζ^(k-1)xk
を根とする方程式の性質を詳しく考察し,方程式論に置換群の概念を導入した意義は重要です.
ラグランジュの基本的なアイディアは,これまで研究されてきた方程式の根の公式を対称性の視点から見つめ直すことにあったのですが,3次方程式の3根x1,x2,x3をとり,
R=(x1+ωx2+ω^2x3)^3
を考えてみましょう.
3根x1,x2,x3の置換は3!=6通りあるのですが,それらはRにたった2種類の値をとらせるだけです.このことは非常に驚くべきことなのですが,
R=(x1+ωx2+ω^2x3)^3=x1^3+x2^3+x3^3+6x1x2x3+3ω(x1^2x2+x2^2x3+x3^2x1)+3ω^2(x1x2^2+x2x3^2+x3x1^2)
となることから理解されます.そして,このことを用いると3次方程式は2次方程式に還元されるのです.
4次方程式の場合は,4根x1,x2,x3,x4に対して,
R=(x1+ix2−x3−ix4)^4
ではなく
R=(x1+x2−x3−x4)^2
を考えます.すると4!=24通りの置換に対して,Rは3個の異なる値
R1=(x1+x2−x3−x4)^2
R2=(x1+x3−x2−x4)^2
R3=(x1+x4−x2−x3)^2
しかとらないことがわかります.
このように4次方程式は3次方程式に還元されるわけですが,4次以下の方程式については,解の置換によって方程式の次数よりも小さな次数の方程式の解法に還元できることがわかりました.
以上のことをもっと正確に表現すると,
(1)nが素数ならば,R^nは次数が(n−1)の方程式の解であり,その係数は(n−2)!次の方程式の解から決定される
(2)nが素数でないとき,R^pは次数(p−1)の方程式の解であり,n=pqとするとその係数はn!/(p−1)p(q!)^p次の方程式の解から決定される
となります.
4次方程式のときは3次方程式に還元できましたが,5次方程式については6次方程式,6次方程式については10(あるいは15次)方程式になってしまうというのです.したがって,4次方程式までと同様の方法を5次方程式に試みると失敗することがわかります.しかし,ラグランジュはまだ5次方程式は可解ではないと確信するところまでは至っていませんでした.古い方法で失敗したところを新しい方法で突破できるという希望を抱いていたのです.
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【3】ガロアと群
1824年,アーベルは一般の5次方程式が四則演算とベキ根によっては解けないことを証明しましたが,まだ核心部分(ガロア理論)には到達しておりませんでした.
n次方程式の根の置換を考えると,それはn次対称群Snの対称性を有しているのですが,ガロア理論によると,n次方程式を解くということはSnのなかに不変部分群(正規部分群)を見つけることに対応しています.
正規部分群をもたない群は単純群と呼ばれるわけですから,単純群であるかどうかが方程式が可解か可解でないかを決定することになります.実際にはA5が最小の非可換な単純群であり,S5>A5ですから一般の5次方程式が四則演算とベキ根によっては解けないことがわかるのです.
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